第28話 模擬戦しようぜ!
「それでは、模擬戦を始めさせていただきたいと思います。では、お二人はこの木刀をお使いください」
そう言って、ハンネスさんは腰にぶら下げていた二本の木刀を一本ずつ僕とりえに渡してきた。
今まで気づかなかったが、初めて出会ったときは本物の剣を腰にぶら下げていたが、今日は木刀を二本、腰にぶら下げていた。
……ん?
僕とりえがそれぞれ受け取った受け取ったことでハンネスさんが使う木刀がなくなってしまった。
一体どうするのだろうか。
「ありがとね、
またハンネスさんの名前を間違えてハワイの地名を呼んでいるりえは無視して、気になっていたことを聞いてみた。
「ハンネスさんはどうやって戦うんですか? 」
「木刀がないので心配してくださったのですね。ありがとうございます。私は木の棒さえあれば十分ですので」
そういうと、近くに生えていた木の枝を背伸びをしながら折り、まるで剣であるように構えた。
剣道などやったことすらないので全く分からないのだが、あの構えからはなぜか達人のオーラを感じる。
まあ、武器は木の枝なんだが。
それにしても木の枝便利だなぁ~。
そのうち通販番組とかで『道に迷ったときはコレ! 木の棒! なんとこれいきなり模擬戦をすることになったときに武器に早変わり。便利でしょう。なんと、今ならコレがたったの0円で買えてしまうんです』とか目にする日も来るかもしれないなとつくづく思う。
いや、こんな使い方するのは僕たちくらいなのかもしれないけど。
「葵も
「――そうですね。始めるとしましょうか。では……」
りえのやる気が凄いな。
さすがは運動神経抜群の運動好きといったところか。っと、このままでは本格的に始まってしまいそうであるが、まだ本当に聞きたかったことをきけてない。
それだけでもきいておかねばならないだろう。
「その前にちょっと良いですか? 」
「ん? 何でしょうか」
「せっかく始まりそうだったのに! どうでも良いことなら後にしなさいよ」
りえはなぜこんなにもやる気になっているのだろうか。不思議で仕方がない。
僕は運動することは嫌いではないが、運動好きとは言えないくらいの人間なので運動ヲタクのりえの脳が理解できない。
アニヲタの僕で言うアニメのイベントに参加するような感覚なのだろうか。
「ま、まあ、別にどうでも良いことつっちゃその通りかもしんないんだけど、模擬戦する前に聞いておきたくてね。ハンネスさん、この模擬戦を行う理由って何なんですか? 」
「そんなの後で良いじゃない。早く始めたいんですけどぉ~」
りえがうるさいがここは無視だ。そう、この模擬戦を行う理由である。
かっこいい答えを期待しても大丈夫だとアニヲタの僕の感覚が告げている。というか、さっきまでのハンネスさんの独り言からしても、おそらく答えは一つだろう。
まさしく異世界ファンタジーといえるかっこいい答えが返ってくることを期待してわざわざ聞いてしまったが、答えは……
「簡単な話です。私はこの国の剣術指南です。あらゆる者の剣を見てきました。やがて英雄となった者の剣、魔に身を委ねてしまった愚かな者の剣を。そんな私は気づけば、その者の剣を見れただけでその者の本質を分かるようになっていました。……そう。つまりこの模擬戦を行う理由は、あなた方二人の本質を知るためです」
ある程度予想していたとはいえ、改めて聞くとやはりかっこいいな。それにしても、ハンネスさんはこの国の剣術指南だったのか。
初めて出会ったときの予想は的中していたようだ。
王女様の護衛で国の剣術指南である人に教えてもらえるのだと考えると、恵まれた環境にいるんだなと再認識する。
「これでよろしかったでしょうか? 」
「ありがとうございます」
「じゃあ、これで良いわね。それじゃあ、今度こそ始めましょう。葵、
「……そうですね。それでは、二人は同時にかかってきてくれて結構ですので、二人が降参すれば私の勝利。一回でも攻撃を私に当てられたらお二人の勝利と言うことでよろしいでしょうか? 」
二人同時で、しかも一回でも攻撃が当てられたら僕たちの勝利とはよほど自信があるようだ。しかも、ハンネスさんの勝利条件は僕たちの降参。
すなわち降参しなければいくらでも挑戦できると言うことである。
非常に僕たちに有利な条件である。
まぁ、僕たちの本質を知るためなら勝つ必要はないだろう……。
しかし、騎士としての誇り的なので負けは絶対に許されないとかがありそうなものなのだが大丈夫なのだろうか。
いや、これはそれほど自信があるのか、僕たちをなめているのか、はたまたその両方かがあるのだろう。
ここで、僕とりえの完璧な最強主人公としての力を初めて発揮し『二人すご~い』ってなるという展開は目に見えている。非常に楽しみだ。
「その申し出、受けて立とうではないか! 」
「はいはい、中二病についてはもう突っ込まないわよ。でも、私も同感ね。受けて立つわ」
「それでは行きますぞ」
――模擬戦の開始を伝えるその声が聞こえた時には、ハンネスさんはすでに視界から消えていた。
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