第106話 やってきました!原宿!

 ――僕の名前は立花葵。

 異世界に召喚され、勇者となった完璧な最強主人公である。

 そんな僕は今。


「見て見て、葵。このネックレス、凄く可愛くない? 」

「確かに。りえに似合いそうだな」

「でしょ! 」


 友達の買い物に付き合っていた。

 しかも原宿で。

 異世界に行ったんじゃなかったのか! というツッコミが今にも聞こえてきそうだが、それにはしっかりとした理由があるのだが、理由は長くなりそうなので割愛する。


「アオイ君、アオイ君! あの人たちは何に並んでいるのですか? 」

「あの列はクレープだな。クレープって言うスイーツを買うために並んでるんだよ。せっかくだし買ってみる? 」

「よろしいのですか? 」

「あぁ、もちろん」


 今いるのは、原宿である。

 日本各地から、それに外国からの観光客で非常に賑わっている。

 その中でも多くの人が並び、ひときわ目立っているのが、クレープ屋であった。

 せっかくだし、クレープを久しぶりに僕も食べたい。


「それと、りえ。そのネックレス買ってあげよっか? 」

「いいの? 」

「せっかく原宿まで来たんだし、気に入ったのがあれば買うよ。別にそのネックレスじゃなくてもいいしさ」

「え! ありがとう! 」


 ――そう。

 せっかく原宿までやってきたのだ。

 とは言っても、無秩序の世界カオス・イフィリオスで瞬間移動をしただけなのだが……。

 それにしてもこの魔法、便利すぎる。

 まぁ、急に人が現れると大騒ぎになりそうなので、あまり人がいなそうなところをピンポイントに創造して飛ばないといけないので少し面倒ではあるが……。

 ちなみに今回の場合は、人がたくさん集まる場所から少し離れた、昔行ったことのあった原宿のちょっとした田舎道を想像して移動した。

 未来の青たぬきの使う離れた二つの空間を瞬時に連結させる魔法の扉にも勝るとも劣らない性能だ。


「ねぇねぇ。こっちの指輪も可愛いと思わない」

「凄く可愛いですね! 」


 その指輪はさきほどのネックレスとは異なり、ケースに入ったいた。

 確かにとてもかわいらしい指輪だ。

 意外とアクセサリーを見るのは嫌いではない。

 それにりえとは趣味が似通っているようで、りえの選ぶものは僕の好きなタイプの物ばかりなのだ、

 金色に輝き、中央にダイヤモンドのように輝く小さな宝石がついていた。

 決して派手ではないが、むしろそれがいい。


「可愛い……って値段やば! 何このネックレスとの差」

「うわっ。確かに、ネックレスより桁が一つ多いわね……」


 完全に油断していた……。

 さっきりえが見せてくれたネックレスは全然僕でも買える値段だったので、この店のアクセサリーはすべてその位の値段だと勝手に思い込んでいた。

 何ヶ月もお小遣いを貯めて買った、あのフィギアを軽く上回るとても中学生には買えない値段だった。

 ケースに入っている時点である程度覚悟をするべきだった。


「ごめん。さっきはああ言ったけど、そのネックレスにしてくれるとうれしいです……」

「そ、そうね。それじゃあ、このネックレスにしよっかな」

「そっか。それじゃあ、買ってくるよ」


 ――情けない。というか恥ずかしい。

 かっこつけた結果がこれだ。

 少し、いやだいぶ恥ずかしい。

 りえが大人な対応をしてくれて本当に助かった。


「本当に良いの? 」

「いいよいいよ。逆に原宿まで来たのにこれくらいしかおごれなくてごめんね」

「こういうのは値段じゃないし、買ってくれるってだけで、私は本当にうれしいわ」


 僕がだいぶ恥ずかしいことをしたというのにりえは全く僕を煽ろうとせず、むしろ一番ほしかった言葉をくれた。

 ほとんど自己満みたいなもんだったけど、そう言ってくれると本当にうれしい。


「そう言ってくれるとうれしいよ。それじゃあ、買ってくるから、この辺で待ってて」

「私も一緒にレジまでいくわ。それにエマにお金について教えてあげるために来たんだから、一緒に行かなくてどうするのよ」

「それもそっか。そうだな。それじゃあ、レジに行くか」

「お気遣いありがとうございます」


 僕はりえがさっき気になっていたネックレスを手に取り、レジまで持っていった。

 金色のチェーンの先に繊細なつくりをした宝石のように輝くハートが静かに自己主張をしていた。

 見方によっては何万もしそうな気もしてくるが、中学生の僕でもなんとか買えるちょうど良い値段なので本当に良かった。。


「お会計二千八百五十円です。もしプレセント用でしたらプラス百円で、ラッピングをいたしますがいかがしますか」


 ――うーん。ラッピングか……。

 すぐ渡すのでいらない気もするが、百円なら迷う。

 せっかくだし、してもらうのもありかも知れない


「――それじゃあ、お願いします」

「え? ラッピングなんていらなくない? 」

「いや、せっかくだしさ」

「それなら良いけど……」

「かしこまりました。それではお値段変わりまして二千九百五十円になります」

「――これで」

「ちょうどお預かりしました。ラッピングができ次第お呼びしますので少々お待ちください」


 それにしても竹下通りはいつでも本当に活気に満ちている。

 昔、小学生の頃だろうか。

 よく家族で、電車でここに来ていた。

 僕の好きなアニメのコラボショップやカフェとかが開催していたので、それを目当てにわざわざ家族総出できていた。

 そんな時期もあったのが、今ではとても信じられないが……。


「お客様、ラッピングができましたので、お渡しします」

「ありがとうございます。それじゃあ、りえ。……プレゼント!」

「ありがとう、葵! 」


 約三千円。

 中学生のお財布事情的に考えるとそれなりに高額な買い物ではあるが、この笑顔が見れたのなら安いものだ。

 魔法とはいえ、せっかく原宿まで来たのだし、思いで作りにちょうど良い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る