第103話 いや、マジで違うから!
「あー。分かった! きっとそういうのを隠してあるのね。それともその反応なら、隠してすらないのかもね。うわぁ……。ひくわぁ……」
「思春期特有のそういうのとかじゃないから! 」
「あれ? 今何想像してたの? 私は秘密の日記みたいな物の話をしてたんだけど……。思春期特有のって何? えっ? もしかして、そういう!? 」
りえが凄く安っぽい演技で煽ってくる。
いくら安っぽいとはいえ、イラつく物はイラつく。
というか、よくこんなにも棒読みっぽく人を煽れるな。
これも一つの才能な気がする。
「――はいはい。もうそれでいいから、マジで僕の部屋には入らないでね」
「え? まじでそういうのなの? 」
今度は凄いマジのテンションで聞いてきた。
というかガチで引いた目で見てくる。
いや、マジで違うから!
「い、いや違うよ。そ、そういうことじゃなくてさ……。煽りをいさめようとか思っただけでさ。あの……。なんて言うか……。と、とにかく、マジでそう言うのじゃないから」
「なんかこの慌てようが妙にリアルなのよね……」
「確かに、なんだか怪しい慌てようですね……」
「あ、慌ててなんてないし……。あぁ、もう。と、とにかく、マジで入らないでね。それじゃあ、行ってくるから! 」
「あ、逃げた」
「逃げましたね」
「本当になんなの? もう、マジでいってくるからね! ……行ってきます! 」
「「いってらっしゃい! 」」
こうして、賑やかに家を出た。
もしかしたら、暗い雰囲気を良くするためにりえがいつもの調子に一足先に戻って、からかってくれたのかも知れない。
本当に友達思いの良い奴だとつくづく思う。
そして僕はそんなことを考えながら、自転車に乗り、母のいる総合病院へと向かった。
母の入院する総合病院は家から自転車で四十分位したところにある。
それなりに遠いが、通えない距離では全然ない。むしろ近い方だろう。
自転車さえあれば、僕だけで簡単にいけるので、本当に助かる。
母親が入院してからは毎日、お見舞いに行っていたので、ここ一週間一度も来なくて、さぞ心配しているだろう。
はて、さて。なんて言い訳をしようか……。
母親に心配をかけてはいけないし、一週間もお見舞いに行かないと言うくらいのちゃんとした言い訳である必要がある。
それに嘘をつくなら、絶対にばれない嘘をつく必要がある。
本当にどうするべきだろうか。
異世界に行っていたなんて言ったら、看護師らにヤバい奴だと認識されて、母親も混乱させるという最悪の結末を迎えるのは目に見えている。
どういう嘘をつけば良いのだろうか……。
僕は悩みながら自転車のペダルを踏んだ。
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