第73話 気絶明け
「――ふわぁぁぁ……」
「あ、やっと起きた。ねぇ、葵。一日に二回も気を失うっていろいろとヤバくない? 」
目を開けると、りえがいた。
こっちの世界に来てからは、もはや目が覚めて最初に見るのがりえというのがいつも通りになっている。
どうやら今、僕は柔らかい草むらをベッドにして寝ているようだ。
りえはしゃがみながら僕の顔をのぞき込んでいる。
そんなことはおいておくとして、りえは目覚めたばかりの僕に対して、ものすごく失礼なことを言ってきた。
『一日に二回も気を失うっていろいろとヤバくない? 』だったか?
――はぁ……。はい! まったくその通りですよ。
たった一日の間に二回も気を失うという何かの病気だと勘違いされてしまいそうなほどのヤバいことをしましたとも。
でもさ、しょうがなくない?
それ相応のことが起きたんだし……。
しかし、気を失う、気絶癖みたいなものが身についてきて締まっているように感じる……。
「――まぁ、それは一旦おいておくとして。今、三人が夕飯の準備をしてくれてるらしいから早く手伝いに行くわよ」
お。案外簡単に解放してくれたな。
もっと嫌みをたくさん言われそうな気もしていたのだが……。
おそらく三人が準備をしてくれているので、早く自分も手伝いに行かねば、というりえの責任感の高さが良い感じに影響してくれているのだろう。
ちょうどお腹もすいてきたし、嫌みをこれ以上聞かなくてもすんだので本当によかった。
マジで神様だ。
まぁ、三人中二人は本物の神様なんだけどさ。よし、そんな神様を手伝うとするか。
「――ふわぁぁぁ……。相変わらず寝起きの人の使い方が雑だよね。もうちょっとゆっくり寝ときたいんだけど……」
「何言ってんのよ。今の葵は寝起きじゃなくて気絶明けだから大丈夫よ」
気絶明けって何だよ!
ていうか気絶明けでも、しっかりといたわってあげろよ!
はぁ……。本当にりえは突っ込みどころが多すぎる。
りえはそういうと、僕の右手を両手でしっかりとつかむと、僕を無理矢理立たせた。
まだ寝てたかったのに……。
「
りえは何かの魔法を唱えると僕の右手を左手でしっかりとつかんだ。
日はすっかり沈んでしまっており、月明かりと星々の光のみが頼りの世界だったというのに、急に昼間のように辺りが明るくなった。
さすがは異世界。なんでもありだ。
それにしても……
「ねぇ、これって手つないでないとダメなの? 」
「ダメよ。こうしてないと葵にまで魔法の効果がいかないのよ」
さっきから気になっていたことを聞いてみたのだが、ちょっと怖いくらいの速さで即答された。
……まぁ、確かにそういう魔法もあるのだろうけど、なんか引っかかる。
例えば……
「手首つかむとかじゃダメなの? それに僕に直接魔法かけてくれれば……」
「ダメなものはダメなの。私だって初めて使った魔法だし、そのくらいの欠点があったってしょうがないでしょ」
超食い気味に回答がきた。
それも顔を赤くして、こっちにすら振り向かずに。
僕が少々しつこかったからか、怒らせてしまったようである。
短気すぎる。
それにしても、手首じゃなくしっかりと手を握る必要があり、直接魔法をかけるのも不可能ってめんどくさい魔法すぎないか。
母親に連れられて歩く子供みたいで少し嫌だが、りえの左手をしっかりとつかみ、りえについていくしか選択肢はないようだ。
どうせなら、逆の立場でりえにかっこつけたかったなぁ……。
「これって、どれくらい歩く? 結構遠い感じ? 」
「葵って、愚痴るの好きよね。らしいちゃ、らしいんだけどさ。……安心しなさい。目的地はもうすぐ見えてくるから」
『らしいちゃ、らしいんだけどさ』とは、僕にとっての最高の褒め言葉だな。
ありがたく受け取っておくとしよう。
……ふむ。もうすぐ見えてくるのか。
というか、さっき三人が食事の準備をしていると言ったが、どうやって準備していたのだろうか。
たき火で持ってきた肉を調理するのなら、僕が倒れてたところでやっても良いような気もするのだが。
それとも飲料の確保の関係で川の近くに移動したとかだろうか。まぁ、聞いたら分かるか。
「ねぇ、なんで――ってえぇぇぇ!!!!! 」
僕が驚愕の声をついあげてしまったのも無理はないだろう。
なにもないだだっ広いだけの草原に超巨大な城が現れたのだ。
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