第46話 番外編:りえの言葉の裏側
[速水りえ 視点]
「昨日は頑張ったわね。あのハンネスさんに攻撃を当てられるようになったなんて凄い成長じゃない。……ふふ。まぁ、まぐれでもあるんだろうけど。でも、攻撃をよけられるようになったからできたまぐれでもあるのだから、紛れもない葵の努力の結果よ」
これが私のありのままの本音だ。
普段は恥ずかしくて、とても言えないことだけど寝ている葵にだったら包み隠さずに話すことができる。
こんなこと言う必要なんてないって頭の中では分かっているのに、なぜか私の口からはまだまだ編み途中の赤色の編み物が次々と配達されていく。
「――ほんとはとっても真面目で頑張り屋さんなのに、なんでそんなにそれを認めないようにするのよ。……いい加減認めなさいよ。真面目も頑張り屋さんも良いことじゃない。……なんでそんなに不真面目を演じるのよ」
――葵は本当に凄いよ。
誰よりも真面目なのにそれを隠して、誰よりも努力家なのにそれを認めずに、葵は生きている。
これまでも、きっとこれからも。
……どうして……なんだろう。
なんで隠すんだろう。
そんな必要ないじゃない。
葵が『自分』を作るのにどんな意味があるの?
……本当は誰よりもやる気に満ち満ちて真面目に努力いるというのに、先生には『もっとやる気を出せ。真面目に取り組め。今のうちから努力をする練習をしろ』と言われ、クラスメイトには『努力もせずに親からもらった地頭だけのくせに』と陰口をたたかれ……。
――言えば良いのに。
『僕は誰よりも努力をしているんだ』って。
『誰よりも真面目に取り組んでいるんだ』って。
そもそも『自分』を作らなければそんなことにもならないのに……。
――どうしてなんだろう。
本当に、はたから見れば意味不明な行動だ。
でも、葵の中ではそれが絶対的なルールなのだろう。
『自分』で生きていくために。
……もしかして私と一緒なのかな。
だとすれば……私が……。
「まぁ、私はそういうところも好きなんだけどさ……」
『好き』という言葉はそう簡単に言って良い言葉ではない。
だけど、最初に言ってきたのは葵の方なのだ。
やり返したって問題はない。
それにこの言葉は私の覚悟でもある。
葵は私が……私が支えてあげなくちゃいけない。だから私が支えてみせる。
私と一緒なのだとしたら、私が一番葵のことを理解してあげられる。
――誰よりも。
だからこそ、私が葵の隣で支えてあげなくちゃ。
「――それにしても、葵の肌ってきれいよね。ここまできれいな肌の中学生男子とかそうそういないと思うんだけど……」
私はずっと思っていたことを口にした。
思春期あるあるのニキビやガサガサなどは一切なく、モデルだと錯覚してしまうほどのきれいな肌である。
それに肌だけでない。女子のものだと錯覚してしまうほどのきれいな黒髪や指先……。
私はきれいな肌を体験しようと頬に触れた。
すると……。
「――って、あっつ。それに顔も真っ赤じゃない。……どうしちゃったのよ。……熱でもあるのかな」
まるで風邪を引いて熱がある人かのように頬が熱かった。
それに顔も真っ赤である。
もし、風邪を引いて熱があるのならとても心配だ。
ここは異世界なのだ。
もとの世界のように医療が発達しているとはとても思えないので、軽いかぜでも大事になりかねない。
「は! ここは? 」
「うっわ。びっくりした! 起きて早々どうしたって言うのよ」
びっくりしたぁ。
葵が急に跳ね起きたのだ。
それに『ここは? 』って、起きて早々何を言っているのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます