第45話 番外編:りえの思い
[速水りえ 視点]
「――ふわぁぁぁ。おはよう、
私の名前は
私はつい数日前まではただの女子中学生であったが、今はこの異世界で元気に勇者をやっている。
とは言っても、勇者らしい仕事なんてしたことはないんだけど……。
私は今のこの生活をとても気に入っている。
テレビもスマホもなくこの世界は退屈だと感じることもある。
それでも、もとの世界と比べれば天と地の差でこの世界の方が大好きだ。
――天と地の差という表現でさえ軽すぎる表現に感じてしまうほどに。
理由はいろいろあるのだけど……。
強いてここで一つ挙げるとすれば、このふかふかのベッドやや朝昼晩の超豪華のご飯、今着ている寝間着を始めとしたおしゃれなお洋服たちなど
もとの世界じゃベッドで寝られることなんてなかったし、三食食べられる日なんてほとんどなかった。それに服に至っては、制服と学校指定の体操服とジャージ以外はほとんど持っておらず、古着屋で安くなっていた服が数着あるだけだった。
家ではほとんど学校のジャージを着ていた。ただ、葵たちと遊びに行くときだけは、古着屋で買った服をいろいろと考えながら着ていた。
私たちはいつも三人で遊んでいた。
私と葵、それに
学校の休み時間はいつも三人で過ごすほどの仲良し三人組で、何度も休みの日にはカラオケやショッピングに行っていた。
かけがえのないとても楽しい時間だというのに、一つだけ気がかりなことが私にはあった。
舞衣は毎回違う、女子中学生らしい可愛い服を着てきてたけど私はそんな服は持っていない。
そんなに可愛くなければ、種類だってそんなにない。
私は常に二人にどう思われているのかが気がかりで仕方がなかった。
そう、気がかりでいた私に葵は突然、驚きの言葉を浴びせた。
『りえって、服のコーディネイト上手いよね。なんか普通は思いつかないような工夫がされてるって言うかなんて言うかで……そういうの好きなんだよね』
『――。――――。――――――え? きゅ、急に何? ちょっと怖いんだけど……。でも、ありがとうね』
単純にうれしかったのを覚えている。それに『好き』って急に言われたからとても驚いたのも覚えている。
まぁ、私のコーディネイトが好きって言うだけでそれ以上の思いはないってわかりきっているのだけど……。
『急に褒めちゃったり、心の底から喜んじゃって。本当にお似合いだと思うんだけどなぁ……。だから、早く付き合っちゃえよ!』
『『そう言うのじゃないから! 』』
舞衣がよくこうやって意味不明なことを言ってきたのが少し懐かしい。
そんなことより私は、葵は毎回似たような黒っぽい服ばかり着て来るのは、私が悪い意味で目立たないようにという気遣いをしていたように思い込んでいた。
だから、私が似たような服を着回していることを知っていた上で私のために気をきかせて言ってくれたのかもしれないと思うこともあった。というかここ数日前までそう思い込んでいた。
ただ、あんなにたくさんの種類の中から黒っぽい色をあえて選ぶ葵を見て、あれは天然のものなのだと知った。
それがどれだけ、私にとってうれしかったのかは、私以外の誰にも理解できないと確信している。
「――昨日もお疲れさま、葵」
もとの世界では……ちょっと……ほんのちょっとだけ、私の家の家庭環境が複雑だった。
そのせいと言うべきか、そのおかげと言うべきか、私は超早起きになった。
ここ数年間はずっと四時には起きるようにしていたので、今もおそらく四時くらいだろう。
四時に起きてしまうのは一種のクセのようなものだ。
この異世界では宿題やテスト勉強をする必要もないし、かと言ってスマホをいじくったりもできないので暇だ。
だから私は、今日も葵に話しかける。
私はベッドから降り、葵の顔がよく見える葵のベッドの目の前にしゃがみ、そう話しかけた。
特に意味もなく、とても中学生の男子とは思えないきれいな黒髪に
もちろん葵は寝ているので返事が返ってくることはない。
でも、私はそれでもいい。
それはそれで……。
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