第75話 やっと聞ける!

「『「「「いただきます!!! 」」」』」


 僕の名前は立花葵。

 大きな食卓を五人で囲み、超豪華な夕飯を食べている。

 それにしてもエマが作ってくれた、この夕飯。めちゃくちゃウマすぎる!

 流石は王女様。料理の才能まであるのか。

 ついつい、おてんばなところや戦闘凶のところに目がいってしまうが、エマは本物の王女様なのだ。

 

 ちなみにこの料理は僕が気絶という名の昼寝をしていたときに作ってくれたものだ。

 エマだけでなく女神様、それに女神様に散々教育を施されたガイアも手伝ってくれたようだ。

 エマが料理長的なポジション、女神様は副料理長、ガイアは雑用といったところだろうか。

 

 僕が気絶という名の寝ている間にかなりみんな頑張ってくれたようだ。

 ガイアはガイアで雑用とは言え、あの二人のことだ。

 かなり雑に扱われたに違いない。本当に頑張ったと思う。


 これだけみんなが頑張ってくれているというのに、ただ眠っていただけと考えると申し訳なくなる。

 その代わりと言ってはなんではあるが、一口一口を大切に味わらせさてもらおうと思う。

 って、ガイアがものすごい速度でどんどん口の中に料理を運んでいっている。

 外見も相まって、母親に好物の料理を作ってもらって、喉を詰まらしてしまうほどの速さで食べる小学生のようだ。


『そういえば、ガイア。みなさんに謝らなければならないことがあるのですよね』

「いや……ゴクン。あれは……わたちは悪くないし……。そいちゅらが悪いだけだし……」


 ガイアは口に料理を運ぶのを一度やめた。

 ガイアが僕たちに謝らなくてはいけないこととは何のことだろうか。


『あるのですよ、ね! 』

「わ、わたちは別に悪くない……と思う……の……」

『はぁ……。ガイア、もう何度も言っていますが、あなたに悪意がなかったとしてもそれによって迷惑のかかった人もいるのも事実なのです。しっかりと謝りましょう。そしたら、きっと……ね! 』


 そう言うと、女神様は僕たちの方に目を合わせてきた。

 まるで同意を求めているように。


「カオスちゃま……分かりまちた……」


 あぁ……。これはあれかな……。


「さっきは、今日は急に襲いかかちゃて……ごめんなちゃい……」


 ふむやっぱり、あの件のことか。

 てっきりもうすんだ話だと思っていたけど、たしかにしっかりと謝ることは大切だ。

 女神様のあの目は、ガイアがしっかりと謝ったら、大人の対応をしてほしいと言うことなのだろう。

 そうと分かれば、僕もあやまらねばな。


「あー。そのことね。こっちこそごめんね。あなたの大切な人を殺しちゃって」

「私からも、改めて。あなたのお子様をあやめてしまって申し訳ありませんでした」


 ……くっ。りえとエマに先を越されてしまった。


「それじゃあ、僕からも。大切な存在を殺してしまってごめん。とても簡単に許せるようなことだとは思わないけど、どうか寛大な心で許してほしいと思う」


 これは建前ではなく、心からの言葉だ。

 許してもらえるだろうか。

 まぁ、さすがにこの流れなら、許してもらえるとは思うのだけど……。


「――無理……。って言いたいところだけど、今回はカオスちゃまのためにも許ちゅのよ。だから、早くわたちも許ちて」


 一瞬、超びびったけど、冗談だったようだ。

 普通にガイアなら、本当に無理とか本音で言ってきそうなので、冗談で本当によかった。


「そういうことならもちろんオッケー。それじゃあ、これで仲直りってことで良いよね、りえ。それにエマ」

「もちろんです」

「私ももちろん良いわよ。これで、なんのモヤモヤもなく聞きたかったことが聞けるわね」

「――。――――。――――――あっ! 」


 ――ヤッベ。完全に忘れていた。

 教えてくれなければ、ただただおいしい夕飯をみんなで食べながらゆっくり雑談でも楽しんで魔法でちょちょい帰ってしまうところだった。

 まぁ、流石に女神様の頼みで来たのだから、僕たちが目的を達成せずに帰ろうとしたら止めてくれたとは思うが……。


「もしかして、目的を忘れてたわけじゃないわよね」


 ば、ばれてしまったか。いや、まだ核心を突いていないようだし、いくらでもだませるか……。


「い、いや。ソ、ソンナ……コト……ナイ……ト……オモウ……ケド……」

「分かりやすすぎだわね」

「分かりやすすぎますね」

「――ゴクン。分かりやすすぎるのよ」

『これは、思考を読む必要すらありませんね。ひどすぎます』

「ひどくない!? 」


 ――みんなひどい……。

 まぁ、りえとエマついでにガイアもどうせそんなこと言われるだろうなと思っていたので、そこまでダメージはないが、女神様の言葉がクリティカルヒットした。

――トゥンク!

 じゃなくて、ズッキン! って感じだ。


「僕が本題をちゃんと覚えてたかどうかなんてどうでも良いの。そんなことより、本題に入っても良いですか? 」

「話題をそらしたわね。」

「ずるいですね」

「――ゴクン。ずるすぎるのよ」


 外野がうるさい。

 いまから僕は女神様と真剣な話をするので、一回外野には黙ってもらうとしよう。


「ちょっとは静かにしてくれませんか!? 」

「なんで……ゴクン。あたちだけに……ゴクン。怒るわけ!? そんなに……ゴクン。あたちに殺ちゃれたいの!? ……ゴクン。 」


――あ! がガイアに聞こえたってことか……。

 確かにあの状況で一人だけ怒られたら憤慨するわな。


「え? あ、いや、ガイアじゃなくて外野って言ったのであって、ガイアに怒ったわけじゃなくて……。いやでも、ガイアにも怒ったわけで……。えーっと。あぁ! もう、言葉ってめんどくさすぎ!」

「荒れてるわねー。情緒不安定な人みたい」

「そうですね。これでは本当にただのヤバい人ですね」

「聞こえない。聞こえない。ああああああああああああああああああああ…… 」

『ふふ。葵さん達はほんとうに賑やかで面白いですね。本題とは、あのことですね』


 両耳を手で覆って、聞こえないふりをしていたら、女神様がそう声をかけてくれた。

 もちろん僕は、一度聞こえないふりをするのはやめて、集中モードに入った。

 りえもエマもガイアも、さっきまでの雰囲気とは打って変わり、集中モードだ。


『私も早くしたい気持ちでいっぱいなのですが……。申し訳ありません。いろいろあって今はできません。夕飯を食べ終わったら良いですか? 』


 『申し訳ありません』といわれたときは、もしや今回も聞けないのではないかと心配になってしまったが、いらぬ心配だったようだ。

 よかった。やっと聞ける。


「もちろん大丈夫ですよ」

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