第55話 旅立ち 〜遊びに行ってきます!〜
「――。――――。――――――。――お、お父様。……い、今。なんと言いましたか? 」
エマはまるで信じられないことを聞いたかのように驚愕の色を見せながら、国王に聞き返した。
一体どうしたのだろうか。
「アオイ殿とリエ殿と旅に出かけるのはどうじゃ? っといったのじゃ」
「わ、私がですか? 」
エマは勢いよく立ち上がり、目を白黒させながらそう聞いた。
「エマ。そなたに尋ねておるのじゃよ」
国王は、まるでこの反応をすることさえ予想通りだったかのように落ち着き払った様子でそう言い放った。
「――ほ、本当に良いのですか? 」
「もちろんじゃ。ワシがここまでいっておいて『やっぱムリ~! 』なんて言うような人間に見えるか? 」
「そ、それは……」
「確かに、エマがそのように驚く意味も十分、分かる。いままではずっとこの城から勝手に抜け出すことを咎めていた者が突然どうしたのだ? っと驚いておるのじゃろう」
「………………」
確かに、言われてみればなぜ国王は急に自分から城から出ることを進めるようなことを言ったのだろうか。
どういった心境の変化なのだろうか。
「本来、このような理由で王女であるエマが城から出るなどあり得ない。ただ、ワシは思うのじゃ。城の中だけでは分からないことはたくさんあるとな」
確かに、国王の言うことは正しい。
知っている世界は広ければ広いほど良いのだ。
「エマよ。一番よく理解しておるとは思うが、ワシにはエマ一人しか子供がおらぬ。よってワシが死した後のこのベルサイユ王国は……。エマ、そなたが担うのじゃ。城の中しか知らなければ、真の意味で民のための政治はできぬ。ワシの場合、ワシの父が長い間後見をしてくれてくださっていたで良かったが、ワシにはそれはできぬかもしれぬ。故に、エマには今のうちから世界を知ってほしいのじゃ 」
国王は、エマの後見ができぬかもしれないとはどういうことなのだろうか?
そういえば、『人間など明日死んだとしてもおかしくない貧弱な体なのだから、明日死んだとしても大丈夫なように生きるのが大切だ』みたいなことを前に行っていたような気もするし、心配性なだけなのだろうか。
確かに心配性なだけな気もするのだが、それだけじゃない気もする。
しかし、ここでどれだけ考えたとしても答えなどでないだろうし、ここは一旦スルーするしかないな。
「今回はその絶好の機会ぞ。アオイ殿とリエ殿という万人にも匹敵する護衛とともに行くのじゃからワシとしても安心でき、護衛をぞろぞろと連れ歩く必要もないのじゃ。これ以上ない絶好の機会などそうそうないぞ」
――ま、万人……。
それってエマの方がふさわしい言葉なのではないだろか。
それに今回に関しては、僕たちがエマの護衛と言うよりエマが僕たちの護衛のような存在な気もするのだが……。
ま、まぁ。
それは一旦おいておくとして、国王、なんか焦っているように感じるな。
もちろん優しさにあふれているのだが、どこか断られてはまずいと行った雰囲気を感じる。
さっきの後見の話も含め、一体どうしたというのだろうか。
「――どうじゃ、エマ。やってみないか?」
国王は、手をエマの方へ伸ばし、優しい表情でエマにそう尋ねた。
「――も、もちろんです!!! ありがとうございます、お父様」
エマは国王の伸ばした手をそっと握ると、目に数滴の涙を浮かべ、笑顔でそう言った。
「――これで決定かな。僕としてもエマが一緒に来てくれるのが一番だし、うれしいよ」
僕はゆっくりと立ち上がり、ゆったりと優しい笑顔を浮かべながらそう声をかけた。
「――ゴクン。……葵の言う通りね。エマほど頼りになる人なんて早々いないからね。頼りにしてるね」
りえは満開の会心の笑みを浮かべながらそう思いを届けた。
それにしても、りえは本当に笑顔が似合うな。
りえの笑顔を見るだけで、自然に体の筋肉が緩む。
ただ一つ残念なことがあるとすれば、口元についているサラダのドレッシングだろう。
僕は、国王がエマに『アオイ殿とリエ殿と旅に出かけるのはどうじゃ? 』といったときくらいから食事を中断していたが、りえはずっとマイペースに食事を続けていたのだ。
まぁ、別に悪いわけではないのだが、あの空気で続けるとは、やはりなかなかに自由人だな。
りえらしいな。
おそらく、僕が立ち上がってエマに声をかけたから、慌てて食べるのを一旦やめて、立ち上がったのだろうが、……口元ぐらい吹いた方がいいんじゃないだろうか。
せっかく良いこと言っているのに、もったいない。
……まぁ、それはそれでりえらしくて良いけどな。
「こちらこそ! よろしくお願いしますね。リエ、アオイ君」
何というかエマの笑顔はたまに見るのだが、今回のはいつもと一味違う。
表面的なものではなく心のそこからの笑顔と言ったところか。
まるでコスモスの花がぱっと咲いたような印象を受けた。
同じ笑顔なのにりえのそれとは全然違う。
いや、それも当たり前か。
違う人間なのだから百人いたら百通りの笑顔がある。
そして、どれもが美しい。
それぞれの笑顔にはバックグラウンドがある。
だからこそ、それぞれの笑顔は芸術になる。
笑顔とはそういうものなのだ。
「改めてよろしくな、エマ」
――こうして、僕はりえとエマとともに女神様との遊ぶ約束を果たすため、王都を出発した。
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