第56話 怖い……怖い……怖い……
「
「――」
「さすがリエ。私の奥義ともいえる『
「――――」
「いやいや、エマのほうがすごいわよ。さっきなんて五十体くらいの鬼の群れを一掃してくれたじゃない」
「――――――」
「いえいえ、リエが今倒した九尾の狐の方が鬼の群れなどよりずっと強敵だったと思いますよ。群れより個として強い敵の方が厄介ですからね」
「――――――――」
「それを言うならその前にエマが倒したデュラハンの方が強かったわよ」
「――――――――――」
「いえいえ、それならさらにその前にリエが倒した巨人の方が……」
「――――――――――――」
「いやいや、それを言うならその前にエマが倒したゴーレムの方が……」
「――――――――――――――」
僕の名前は立花葵。
現在、ぽかんと開いた口を隠すように手で口元を覆いながら、絶賛絶句中である。
なぜそんな状態に陥っているのかって?
その原因はりえとエマにある。
「それじゃあ、公平を期すためにも葵にどっちがより活躍したか判断してもらいましょうよ。ま、どうせエマっていうだろうけど」
僕はりえとエマともに女神様との遊ぶ約束を果たすべく、王都を出発した。
僕たちは国王の計らいでとても立派な馬車も用意してもらい、実に快適な旅をしていたのだ。
馬車を見たとき、やはりここは異世界なのだと再確認し、とてもワクワクする気持ちでいっぱいになった。
そして、それと同時に乗り心地は多少は悪そうだなとも思った。
自動車に慣れてしまっている現代人の僕からすればこの世界の人は何とも思わないかもだが、僕には乗り心地は致命傷になりかねない。
「確かに明暗です。とはいってもリエというに決まってますがね」
しかし、それはいらぬ心配だった。国王が用意した馬車は自動車と間違ってしまうほどの快適な乗り心地であったのだ。
そりゃぁ、もりろん自動車に比べればずっと遅いのだが、歩くよりは全然早いそれなりの速度である。
おそらくそれなりに高級なものを用意してくれたのだろう。
ちなみに、出発の時に国王から僕とりえに立派な本物の剣をもらった。
僕は剣に詳しくないのでよくわからないがおそらく、これもなかなかに上等なものなのだろう。
エマは愛用している剣を持っているので、三人とも何かがあっても大丈夫なようになったわけだ。
「っと言うことで、葵。身内びいきとかいらないから、公平に判断してよ」
そして、その何かは思ったよりも早く来た。
王都を出発してから五分くらいしたころだろうか、馬車が動きを止めた。
いや、エマが急停止させたといった方がいいだろうか。
ちなみに馬を引くのはエマである。
僕もりえも馬の扱い方などわからないし、エマにやってもらっている。
エマが馬車を急停車させると突如として馬車の外から
なにかと思い、急いで僕とりえは馬車から出ると、そこにはエマとばらばらになったゴーレムの残骸が落ちていた。
エマに聞くと、狂暴化しているこのゴーレムが邪魔をしてきたのでばらばらにしたそうだ。
その時はまだせっかく城から出られたので、はりきっているのだろうなどと、特に何とも思わなかったのだが……。
「――それじゃあ……」
馬車を再出発させてさらに数分がたつとまた馬車が急停止し、今度は先ほどとは少し音が違う
さきほどのゴーレムの件の後、『私も景色をもっと見たい! 』とか言い出してりえがエマの横に移動していた。
なので、おそらく今度はりえによるものなのだろうとおおよそ予測をつけながらも馬車から降りて確認すると……三つの顔とざっと見たところ百本くらいの手の生えたの気持ちの悪い巨人の死体と笑顔のりえとエマがいた。
おそらくその巨人をりえが討伐したのだろう。
「「どっちのほうが活躍したと思う(思いますか)? 」」
そしてまた、その数分後にはデュラハンが……。
さらにその数分後にはそれなりに巨大な九尾の狐が……。
そしてさらにその数分後には五十体くらいの鬼の軍勢が……。
どれもダンジョンを攻略した先に待ち構えるボスだったとしても違和感のないほどの強敵であった。
アニヲタである僕の知識では、デュラハンとか巨大な九尾の狐とかって、よくある異世界ファンタジーの世界では魔王の側近とか、魔王軍の幹部とかのレベルの存在である。
鬼の軍勢に関しては、ちょっとした戦争ができるレベルである。
確かに個としては他の敵には見劣りするが、それでも一体で小さな村なら滅ぼせられるくらいの強さであった。
それが五十体もいたのだ。
小国では滅亡だってあり得るレベルだろう。
まぁ、この世界の騎士の強さをあまり知らないので何とも言えないのだが……。
なぜ、そんな存在とこんなにもたくさん遭遇するのかはとても疑問な点である……のだが……。
「——怖い……」
そんなことは正直言ってどうでもいい。
そんなことより今はとにかく、りえとエマが怖い。マジで怖い。
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