第58話 どっちのほうが活躍したと思う?
[速水りえ 視点]
「「どっちのほうが活躍したと思う(思いますか)? 」」
私は、私とエマのどちらがより活躍したか判断してもらうべく葵にそう尋ねた。
とは言ってもエマというに決まっている。
私なんかよりエマはずっと活躍していたし、私は所詮、エマと
たかが真似ごときではオリジナルにはかなわないのは当然の話だ。
もちろんそれを体のよい言い訳にして諦めているわけではない。
しかし、私だけの力じゃオリジナルにかなわないのは紛うことなき事実なのだ。
「――」
ん?
今、葵は何って言ったんだろう?
って! それに顔が真っ赤じゃない。
……もう! これだから葵はダメなのだ。
――いつもそうだ。
この前……いや、あれはこっちに来る前だったから二週間くらい前? に私と葵、それと舞衣のいつもの三人で遊びに行ったときだって……。
――記憶が少し曖昧だけど、あれはカラオケで歌い疲れて休憩がてら、確か好きなタイプの人の話をしていたんだったと思う。
とは言っても、私と舞衣が一方的に葵に好きなタイプを問い詰めていただけなのだけど……。
『じゃあじゃあ、私とりえ、どっちの方が可愛いって思う? 』
どれだけ聞いても『あんまりよくわかんないかな……』の一点張りだったので、確かこんな感じに、半分冗談、半分本気で舞衣が葵にそう聞いたのだったと思う。
好きなタイプを診断するためにも、どっちがタイプの女性に近いのかを聞いたんだと思う。
この聞き方をすれば『よくわかんない』などの言い訳などをして逃げることができないだろうという思惑もあったのだと思う。
すると葵は顔を真っ赤にして、しばらく間を置いてぼそぼそと何かをつぶやいた。
全く聞き取れなかった私はこう言ったのだ。
「ん? 葵、よく聞き取れなかったんだけど、なんて言った? 」
うん。あのときと全く同じ展開だ。
そしてこのあとの葵の言葉を凄く覚えている。おそらく一生忘れないと思う。
『ふ、二人とも、メ、メッチャ可愛いし、……選べないかな……みたいな……』
人間って、こんなわかりやすく動揺するものなんだとちょっと面白くなってしまって、思わず舞衣と一緒に吹き出してしまったのを覚えている。
まぁ、そこに嘘とかお世辞を言っているような雰囲気は感じなかったので、素直にうれしかったのは絶対に秘密だ。
……それにしても、舞衣は今頃どうしてるかな。
いや、そんな心配してもわかんないものはわかんないし、会えないものは会えないものだし、考えるだけ無駄かな……。
そんなことより今のことだ。
……とは言ってもこの後の展開はどうせ、
『ふ、二人とも、メ、メッチャ強いし、……選べないかな……みたいな……』
とか、いかにも浮気性っぽいセリフを葵が言っておしまいだろう。
まぁ、それが一番の平和な解決と言えばその通りなのだけど……。
「――」
――ふーん。
これはあえてなのだろうか。
またぼそぼそと何かをつぶやいた。
二回連続とは正直つまらない。
どうせ、葵のことだ。
あのときと全く同じになるのは嫌なのでちょっと変えようと試みたのだろう。
今回は選べないから曖昧にしよう作戦的なやつだろうか。
……ここは一発ガツンと言ってあげるべきだろう。
「だ、か、ら。そんな小さな声で言われても聞き取れないから。それとも選べないから曖昧にしようって作戦的なやつ? そういうの正直どうでも良いからさっさと大きな声で答えてくれない? 」
『そういうのマジでつまんないよ』と言うのもアリだけど、さすがにそれはかわいそうだったので遠回しに伝えつつ、『早く言えや! 』と圧を欠けておいた。
かなり付き合いの長い葵のことだ。
これくらいでも私の意図が分かるだろう。
……ん? 一体どうしたのだろう。
反応を全くしない。
そう思って気になって葵の顔をのぞき込んでみると……。
「 ――って葵!? その汗どうしちゃったのよ? それにその青白い顔に青紫色をした唇……体調でも悪いの? 」
葵の顔は、つい先ほどまで真っ赤になっていた顔が青白い顔になっており、大量の汗、そして唇は青紫色をしていた。
どうみても体調の悪い人のそれである。
「あ、アオイ君? 大丈夫ですか? 」
エマも心配そうに駆け寄ってきた。
思い返してみれば、出発してからはテンションがいつもより低く、とても静かだったような気がする。
もしかしたら、体調が悪かったのかもしれない。
ただの馬車酔いなら良いのだが、万が一風邪を引いているのなら大問題だ。
この世界の風邪だった場合、私達はエマたちこの世界の住民と違って免疫が非常に低い可能性が高い。
逆にもし、もとの世界の風邪が今になって発症した場合は、まったく免疫を持っていないこの世界の人々に移してしまう可能性もある。
もし、そうなれば軽いかぜも重症化しかねない。
それに、この世界の医療はとても発展しているようには思えない。
つまり、ただの風邪でも命を落としかねないし、この世界を滅ぼしかねないのだ。
「あ、葵!!! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫ですか、アオイ君!? 」
意識を失ったのだろうか……?
葵は目をつむり、全身から力を抜いたかのように倒れ……そうになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます