第26話 ワンチャン(ハンネス)の思い
「――私は国王陛下様に姫様がまだ赤子であった頃より姫様の護衛を任されております。とはいえ、昔ならいざ知らず、姫様の実力は私をとうに超しておられるのですが……。しかし、まだ姫様にも足りない物があります。それは人を疑う力です」
廊下を歩き、階段をくだり、歩き始めてからだいたい五分くらいたったころ。
とても静かな王城の中ということでさすがに静かにハンネスさんの後について行っていた僕たちに対してなのか、突然ハンネスさんが独り言のようなことを言い出した。
「姫様は自由な冒険者となって世界中を旅することが夢だそうです。生まれながらずっとこの城の中だけで生活している分、外の世界に憧れを抱いておられるようで、たびたびこの城を抜け出し私たちを困らせてくれております」
ハンネスさんは、困っているとはとても思えないような、苦笑を浮かべながら、どこかうれしそうな声色でそう言った。
それにしてもハンネスさんがエマの護衛だったとは驚きだ。
でも、確かにあれだけ親密なのも護衛だったのなら納得である。
エマにこの王城に連れてきてもらったとき城門前に立っていたのは、護衛として城から抜けだしたエマを探していたのだろう。
「国王陛下様がどのような考えをお持ちでいるかは、私では分かりませぬ。しかし、私は姫様がこの城を抜け出すこと自体に問題ないと思っています。それは姫様の実力ならば何十、何百の魔物に襲われようと問題ない、そう確信しているからです」
ハンネスさんがどのくらい強いのかは僕には全く分からない。
しかし、王女様の護衛を任されるほどなのだからそれなりに強いのは確定だ。
そんな人にここまで言わせるとはエマ、まじでハンパないな。それにしてもいつまでハンネスさんは独り言を続けるのだろうか。
「しかし、一つ危惧していることもあります。それは、姫様のお心が傷つけられることです。姫様は私より
エマの心が傷つけられるというのは、一体どういうことだろうか。
それにしてもなぜ、ハンネスさんは突然このような独り言を始めたのだろうか。
分からないことだらけである。
「姫様は、その身分のせいで王城で働く人以外の人との関わりがほとんどありません。友達、いや同じくらいの歳の話仲間でさえ姫様には一人もいません。そんな姫様がある日、とてもうれしそうに自分と同じくらいの歳の少年と少女を連れて帰ってきました。それがあなたたちです」
そう言うとハンネスさんは歩みを止め、僕とりえの方へ振り返った。
エマにとって僕とりえはとても貴重な友達であると言うことが伝えたいのだろうか。
確かに、もしそうなのだとすれば、さっきエマと別れるとき、頬を緩ませた説明もつく。
……貴重な友達かぁ。
そう思ってもらえていると思うと、なんだかうれしい気持ちになるな。
それはいったんおいておくとして、現在、僕たちが立っているこの場所は教室とはほど遠い、外であった。
いや、正確に言うと中庭だろうか。
なぜここに来たのかすぐに聞きたいが、ハンネスさんの独り言はまだ止まらないので、それを尋ねるのは後にしよう。
「私はそのうれしそうな顔を見たとき、複雑な心境になりました。うれしい気持ちとそれから……。信頼していた人に裏切られるようなことがあれば、どのような人でも大きく傷つくことでしょう。特に姫様の場合は今まで関わってきた人が少ない分、あなた方二人に対する思い入れは大きい物であると思っています。単刀直入に申しましょう。私はあなた方二人が何らかの悪意を持って姫様に近づいており、時が満ちれば姫様を裏切るのではないかと危惧しております。姫様はおそらく私のこの行動をお
え? あ、これはヤバい!
これは本格的にヤバい! ヤバいのだ! これはただの独り言ではない、そうやっと気づいた。
客人となったときに不用心すぎると思っていたことがフラグになったのかもしれない。
不用心どころか、この先起こるかもしれない悲劇を防ぐため、ハンネスさん、いやハンネスに不確定要素を排除するために僕とりえは殺される可能性が高い。
いまからでも走って逃げるか? いや僕はともかくりえを置き去りにする可能性がある。
ゾンビの時は危険だとすぐに理解したようだが、りえは抜けているところが多く、今のこのヤバい現状にすら気づいていない可能性すらある。
それなら大声で助けを呼ぶとかはどうだろうか?
さっきのハンネスの言葉からエマはおそらくこの状況を許可していないと読み取れる。
しかし、そんなマネをすればエマが駆けつけるよりも先にハンネスに殺される可能性がでてくる。どうしよう。どうするのが正解なのだろうか。
「模擬戦を行います」
「は?」
――ハンネス、いやハンネスさんは僕たちに対して思いもよらない言葉を浴びせた。
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