第8話 最高ランクのスキル
「どれどれ、早く見せろ」
猛の手からスキルチェッカーを取ると、有希が驚きの声をあげた。
「すごいぞ。瞬間移動スキルだ」
「えっ本当? 見せて!」
飛鳥がスキルチェッカーの画面をのぞき込むと確かに瞬間移動と書いてあった。
「本当だ。すごい」
瞬間移動スキルは現在の日本国内で八人しかいない最高ランクSSの能力者の内の一人「鳳城桐花」が使っているスキルであった。鳳城は対人戦で無類の強さを誇る能力者であった。鳳城の実力とスキルの強さを四人はよく知っていたため、三人が驚くのも無理がないことであった。
飛鳥にスキルチェッカーを渡され、颯太も自分の目で能力を確認した。次第に喜びの感情が込み上げてきた。
(まじか、瞬間移動スキルまで発現してくれるのか。これは嬉しすぎる。鳳城さんみたいに戦闘のスペシャリストにもなれるし、ダンジョン内でも活躍できるだろう。しかも、瞬間移動は日常でも非常に便利だって書いていた記事を読んだことがあるぞ。まさか俺が使えるようになるとは……。神様、ありがとうございます)
あまりの嬉しさに颯太は神にまで感謝をし始めた。
「颯太、はやく見せてくれ」
そんな颯太を尻目に有希が言った。その瞳にはいてもたってもいられないと言った好奇心が浮かんでいる。有希の両隣にいる猛と飛鳥も同じような様子だった。
「わかりました。えっとどうやって発動すればいいんだろう」
今までのスキルと違って、やり方がよくわからなかった。
「確か、自分が行きたい場所を頭にイメージしてスキルを発動するって鳳城は言ってたぜ」
そんな颯太に対して猛が声をかけた。おそらく猛も鳳城のインタビューか記事を読んだのだろう。
「なるほど。やってみますね。とりあえず、有希さんの隣に瞬間移動してみます」
颯太は頭の中で、二メートルほど離れた位置に立っている有希の隣に自分が現れるイメージを浮かべてからスキルを発動させた。すると颯太の体は消え、次の瞬間には有希の隣に現れた。
「おおー」
「すごいな」
「びっくりした。本当にできるんですね」
三人から驚きの声があがった。
「もう一回やってみてもいいですか」
颯太は初めておもちゃを買ってもらった後の子供みたいに瞳をキラキラさせている。
「おう。い、いいぞ」
颯太のテンションの高さをほほえましく思いながらも有希が答えると、颯太はまた姿を消した。先ほどまで座っていたソファーに隣に現れた。
「おおー、できました?」
颯太は嬉しそうに三人に向かって質問した。
「ああ。完全に瞬間移動だ」
「ちゃんとできてますよ」
猛と飛鳥の返事を聞くと颯太はさらに嬉しそうに微笑み、また姿を消した。
そして、消えては現れ、消えては現れ、瞬間移動を高速で行い始めた。狭い室内を自由自在に飛び回っている。
初めは、嬉しそうに歓声を上げていた三人であったが、だんだんと目が回ってきたのかたまらず有希は声を発した。
「おいおい、颯太! ちょっとストップ!目が回ってきた。一度止まってくれ」
颯太は、瞬間移動をやめた。頭を掻きながら恥ずかしそうにしている。
「すみません。つい、嬉しすぎて、興奮してしまいました」
「颯太さんって、かわいいですね。子供みたいで」
そんな颯太を見て、飛鳥は微笑ましいものを見るような眼をしながらそう言った。
「ああ。だが少し興奮しすぎだ。眼が回ると思ったよ」
有希も笑いながらそう口にした。感情がストレートに出てしまう颯太の性格を有希たち三人はだんだんと理解してきていた。
「すみません。そ、それじゃあ、次のお茶に行きましょうか。確か、まだ烏龍茶と玄米茶が残っていましたよね」
颯太は、この恥ずかしい空気感を変えるために慌てて次の実験に移ろうとした。しかし、そこで猛がおもむろに口を開いた。微笑ましい顔で笑っている有希と飛鳥とは異なり、猛だけはやけに真剣な表情をしている。
「いや、ちょっと待て、颯太! この瞬間移動の能力だけはな。他の能力よりもレベルが違うんだ。世界中で発見された百二十八種のなかでも間違いなく最強レベルの物だ。このスキルを持っているだけでも十憶以上の市場価値が付くだろう」
「そんなにですか。」
「ああ」
颯太の問いかけに猛は真面目な顔で答える。
「このスキルだけは、今しっかり検証しておこう。何ができて、何ができないのか。おそらく、今後のお前の人生の中で核となる能力だ。いや、もちろんさっきまでに出た他の能力だってすごいんだぞ! でもな、瞬間移動はちょっとレベルが違うんだ」
猛があまりに真剣に語るため、颯太も飛鳥も息をのんでいる。
「お前がそこまで真剣な顔をするなんてな。いつぶりだ?」
そんな猛の様子に有希も珍しがっている。
「うるせえ、何を隠そう、俺が一番欲しかったスキルが瞬間移動だったんだよ。だから、ガキのころにめちゃくちゃ調べまくったんだ。出たのはハズレスキルだったが……。瞬間移動だけはまじで羨ましい。いいなぁー、颯太」
猛は心底羨ましそうにつぶやいた。
「そうだったのか。初めて聞いたぞ。わかった。確かに、このスキルは早いうちに調べておいて損はなさそうだな。じゃあ、他のお茶はとりあえず置いておいて、瞬間移動の実験始めるか? 颯太、それでいいか?」
「はい。大丈夫です!」
四人はすぐに実験の準備に取り掛かった。
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