第86話 次のステージへ

 七月一日、ヴァルチャーには三つの大きな変化があった。

 

 一つ目はみずきの入社である。みずきは病院に契約金を全て返すと、六月末で病院を退職した。みずきの話によるとかなり引き留められたらしい。給料もさらに上げるとまで言われたようだ。しかしみずきはきっぱりと断った。退職日までしっかり働くと荷物をまとめ病院を後にした。

 

 社長と有希は大喜びだった。みずきを呼んで盛大に飲み会を開いたほどだ。


 飲み会の席で三人は飛鳥と社長に今の関係を説明した上で重婚をするつもりだと伝えた。

 キレられることを覚悟した颯太であったが、社長から出てきた言葉は思っても見ないものだった。


「やったな飛鳥! そいつはめでてぇぞ! 颯太はいつか、百億は稼ぐ男だぞ!! これで会社も安泰だぁああぁぁーー」


店内にも関わらず大声で叫ぶ社長は有希に思い切り殴られ、颯太達は苦笑した。


有希も、

「三人が決めたことにとやかく言うつもりはないよ。飛鳥をよろしく頼むね! そして、うちの会社も」

と微笑んでいた。


 みずきは回復役として颯太と飛鳥のパーティに加わることになった。ダンジョン内の探索や救助要請などの仕事に同行することになる。


 二つ目は、企業ランクがIからⅢに上がったことだ。

 これによりヴァルチャーの信頼は急激に高まった。社長の話によるとすでに質の高い仕事が舞い込んでいるらしい。聞くところによると、そのほとんどが颯太が憧れていたダンジョン探索であるようだ。その事実を知った時、颯太は目を輝かせた。


 浮気調査などの探偵系業務は全て終了し、新規の依頼も受け付けていない。これからは利益の高い仕事が主な業務になってくる。


 三つ目は、颯太に訪れた変化についてだ。


 六月二十八日、社長の元に政府の能力者管理部門から連絡が入った。内容は、颯太の能力者ランクの昇級についてであった。

 強盗事件の解決、高層ビル火災の救助、犯罪者集団の検挙などが評価され結果、颯太はB級能力者からA級能力者に昇級した。


 五年以内にA級に上がれば優秀と言われる能力者業界において、颯太は三ヶ月も経たないうちに昇格を果たした。情報は一切公開されていないため、その名は知られていないが、謎の仮面能力者Xとして世間の注目を集めていた。


 正体がいつまで経ってもわからないため、会社に取材にくるマスコミは減ったが、いまだにネットの掲示板や動画サイトでは話題になっている。


 また、A級昇格の連絡と同時に、七月から始まるバトルトーナメントのA級部門への参加依頼書も届いた。

 極めて高い戦闘力を持つと思われる能力者にしか、バトルトーナメントの参加資格は与えられない。颯太は七月から始まるバトルトーナメントに向けてトレーニングを開始した。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 七月一日の午前九時。ヴァルチャーの五人は社長が、運転する車に乗り込んだ。山梨県の笛吹市にあるダンジョンに向かうためだ。


 一時間前の午前八時。

初出勤のみずきに社長はビル内の使い方や仕事内容の説明を行った。そして、颯太達が普段着ているバトルスーツをみずきに手渡すと、


「今日の仕事はダンジョン探索だよ。九時に出発するからそれまではゆっくりしててくれ」

と社長は言った。

 いきなりのダンジョン遠征にみずきは驚いた様子であったが笑顔で、

「わかりました」

と答えた。


 その後は、颯太と飛鳥がパソコンの使い方などを教えたり、駄弁ったりしながら過ごした。


 十時に近づいてくる頃、荷物を準備し、車に乗り込んだのだ。


 助手席に有希、後部座席の真ん中に颯太、左にみずき、右に飛鳥が座っている。

 社長はエンジンをかけ、車を走らせた。


 外は、雲ひとつない青空が広がっている。


(いよいよだ! いよいよ本格的にダンジョン探査をしていける。週末にはバトルトーナメントも始まるし!)


 颯太の胸はこれから先の希望でいっぱいだ。


 ふと左手を見ると、みずきが楽しそうに窓の外を見ている。右手をみると飛鳥と目が合った。颯太の心のワクワクに気づいたのか、優しく微笑みかけてくる。


 二人を見て颯太は心の中で強く決意していた。


(この二人をなんとしても幸せにする。そのために全力で働こう! 本気でやってやる!)


 車は石和ダンジョンに向かって順調に進んでいった。


        第一部完


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 ここまでお読みいただきありがとうございました。もし、少しでも面白いと感じる点がありましたら⭐︎や♡で評価頂ければと思います。

 めちゃくちゃモチベーションが上がります。


 また、気になった点も自由にコメントしていただいて結構ですのでよろしくお願いいたします。


 この話で第一部が完結となります。物語は二百五十話くらいまでは続いていく予定です。


ただ、日中の仕事が忙しくなるのと、今までのおかしな点を全て修正したいので二週間から三週間ほど更新はお休みさせてください。


 第二部はさらにクオリティを上げていきますのでよろしくお願いいたします。


 


 


 

 

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