第85話 決まりごと

「昨日二人で、付き合っていくためのルールを考えたんだけどさ、颯太にも伝えていいかな?」

 颯太が部屋に戻ると、みずきがそう口にした。


「ルール?」

「そう。だって私たちの場合関係が特殊でしょ?ちゃんと決めとかなきゃ後で揉めちゃうと思って……」

「なるほどね」


(すごいな。そんなことまで決まってるのか……。みずきと飛鳥さんが組むとどんどん展開が進んでいくな)


 みずきと飛鳥のスピード感に颯太は感心してしまう。


(でも、ありがたいよな。普通こんな関係、絶対に嫌がるのに、率先して色々決めてくれてるんだから。なんて心が広いんだろう……。絶対に幸せにしなきゃな)

 

「じゃあ一つ目のルールね」

 スマホを見ながらみずきが言う。


「土日は交互に過ごす。休みの日が仕事とかで潰れちゃったら、順番を飛ばさず次の週に潰れちゃった側が一緒に過ごす」

「うん? 土日は、みずきと飛鳥さんと交互に会っていくってこと?」

「そうだよ。土日が潰れたらちゃんとデートできるまで順番が変わらないからね」

 飛鳥が捕捉してくる。


「なるほど……。土日っていうのは、二日間一緒に過ごすってこと?」

「そうだよ。二週間に一回しか長時間のデートはできないんだから、基本的にお泊まりデートにした方がいいって昨日話してて、決まったの」

 みずきがそう口にする。

「そうなんだ……」


(まじか……毎週土日はどちらかと一緒に過ごすことになるのか。付き合ったことがないからわからないけど恋人同士って毎週会うものなのか?)


 そんな疑問を抱くが尋ねることはやめておいた。今まで颯太はみずきや飛鳥といくら一緒にいても、気疲れすることはなかった。一人でいる時間も好きだが、絶対な必要ってわけでもなかった。


「じゃあ次ね」

 みずきは再びスマホの画面を見る。


「平日は金曜以外は泊まらない。泊まるのはその週にデートがない側」

「えっ? 金曜もデートをするの?」

「当たり前でしょ? 金曜日の夜なんて一番開放される時間じゃん! 世の中のカップルはみんなデートしてるよ」

 

 当然でしょ。と言った顔でみずきはそう口にする。

「それに、二週間に一回だけだと少なすぎるからね」

 飛鳥が付け足してくる。


「なによその言い方……、颯太は嫌なの?」

 みずきの鋭い視線が痛い。聡太は慌てて答える。


「いや、全く嫌じゃないよ! 土日だけだと思ってたから……」


(ただ、これだと自分の時間が全く取れなくなりそうな……。山登りとか漫画喫茶とか、ジムとかもう厳しいかな)


「恋人同士はなるべく一緒にいたいもんなんだよ。特に颯太は二人と付き合うんだから。多少一人の時間がなくなっちゃうのは我慢してよね! 私たちはもっと色々なことを我慢することになるんだから」

「はい。わかりました。すみませんでした」


(そうだ、二人はもっと……。全て我慢しよう。俺は贅沢すぎるほど恵まれてるんだから……)


 颯太は二人の気持ちを考えると自分よりもずっと我慢をしていることがわかった。もう何も言わないようにしようと心に決めた。


「あっ、でもさ、土日以外の祝日はデート無しでいいよ。流石に颯太くんもいつも誰かと一緒じゃ疲れちゃうと思うから。ねっ、みずきちゃん!」

「そう……ですね。じゃあ祝日はデートなしにしよう。颯太のゆっくりタイムね」

「ありがとうございます」

颯太は二人の言葉から気遣いを感じ、頭を下げた。


「金曜日以外は宿泊しないのは仕事に支障が出ちゃうからね。このルールは破っちゃダメですからね」

 

 みずきは颯太にと言うよりはむしろ飛鳥に向かって釘を刺しているように颯太には思えた。


「はい、じゃあ次ね。会社ではイチャイチャしないことと、子供はまだ作らないこと」

「……」

 颯太はどう反応していいかわからず困ってしまう。


(えっ! 子供? そりゃそうだよな。作っちゃダメだ! んっ? 子供を作らないことって、どう言う意味? )

 言葉の意味が読み取れず、颯太は頭を悩ませる。みずきを見ると、少し頬を赤くして黙っている。


「会社でイチャイチャしないはそのままの意味だね。その次のやつは……」


 そこまで言うと飛鳥も顔を赤らめる。


「私たちはもう大人だからね。赤ちゃんにさえ気をつけたらそういうことも……。ねぇ……?」

 飛鳥は恥ずかしそうにみずきに視線を送る。


「まぁ、私たちは間違いなく颯太と結婚すると思うからその辺も気兼ねなくってことよ! バカ! 言わせんな」


 みずきは顔を真っ赤にしている! それを見ていると颯太もなんだか照れてしまう……。


 変な空気が部屋に広がっていく。


「とにかく颯太は稼がなくちゃいけないんだから本気で仕事してよね! 私たちと結婚するためには五億は稼がなくちゃいけないんだからね! 馬車馬のように働いてもらうから!」

「みずきちゃん、なんかそれ悪徳経営者の台詞みたいだね!」

 みずきに飛鳥が笑いながらツッコミを入れる。場の空気が少し和やかになる。


「でも確かに颯太くんには頑張ってもらわなくちゃ!」


 飛鳥は颯太を期待の表情で見つめてくる。


「頑張ります!」


 颯太は深く頭を下げた。

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