第32話 初めてのA級モンスター

 颯太たちは手分けしてフロアに落ちている金を一つ一つ集めていった。フロアの床はこげ茶色の地面が広がっているため、金は一目で見分けがついた。

 それでも主に颯太の活躍により、全ての純金ラビットが倒された二百メートル四方ほどの広さのフロアには数え切れないほどの金が落ちていて、全て拾い終わるのに三十分ほどの時間がかかった。


「ふう。これであらかた拾い終わったな。いやー、今回はウサギを狩るよりも金を拾う方が重労働だったぜ。まあ、嬉しい悲鳴だけどな」

社長は金がたっぷり入った小袋を右手に持ちながら左手で額の汗をぬぐっている。少し疲れた様子だ。わずかに息が切れていた。普段、酒ばっかり飲んで、運動不足だから体力も落ちているのだろうなと颯太は思った。

「ほんと、すごい量だったね。何回もこの仕事をやってきたけどこんなにとれたの初めてだよ。颯太君に感謝だよ。絶対百五十個以上あるでしょこれ! ランクが上がるの確定でしょ!」

一方、飛鳥はまだまだ元気いっぱいと言った様子だ。

「ああ! 間違いないな」

「やったね!」

多量にとれた金をみながら飛鳥も上機嫌だ。社長と嬉しそうにハイタッチをかわしている。


(ちょっとは、貢献できたかな)

 

 目の前で喜びの感情を爆発させる親子を、颯太は微笑ましく思いながら眺めている。正直、今日の任務は簡単すぎて、大したことをしたという意識は颯太の中にはなかったが、それでも二人の喜ぶ様子を見ていたら少しずつ喜びが込み上げてきた。


 しばらく時間がったころ、もうすぐ制限時間が近づいていることに気が付いた三人はダンジョンを出るための身支度を始めた。

 颯太が、汗を拭いたタオルをリュックにしまおうとしていると、急に背後から強烈な殺気を感じ取った。


 急いで後ろを振り向くと、巨大な金色をしたうさぎが一匹、フロアの中心のあたりに佇んでいた。後ろ脚で立ち上がり、こちらをにらんでいる。遠くから見ても二メートル以上はあるように颯太には見えた。先ほどまでの純金ラビットとは異なり、今度は瞳の色が

朱色ではなく紫色に輝いている。しかも、瞳からは紫色に輝く怪しいオーラが漂っていた。颯太は、一目で目の前のモンスターが強敵だということを理解した。

 社長と飛鳥はまだ気が付いていない様子で何やら会話をしている。


「しゃちょ……」

颯太が急いで二人にモンスターのことを伝えようとすると、巨大なウサギは、信じられないようなスピードでこちらに向かってきた。残りの距離が五十メートルほどの地点で、思いきり地面をけると、空中で丸まり、一メートルほどの巨大な弾になって向かってくる。


 飛んでくるうさぎの軌道が飛鳥に向かっていることに気付いた颯太は、オーラを全開まで放出すると、飛鳥に向かってかけた。次の瞬間、ウサギが衝突するよりも、一瞬早く、颯太は覆いかぶさるようにして、飛鳥を押し倒した。


巨大うさぎは、そのまままっすぐ飛んでいき、大きな岩に激突した。

「ドガァーン」と響き渡る激しい音と共に直径四メートルはある岩が、衝撃で崩壊すると大きな砂煙が舞い上がった。


「すみません、飛鳥さん。大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫」

颯太は、飛鳥の上からすぐにどくと、飛鳥の手をつかんで、飛鳥を立たせた。

颯太が倒れる瞬間、飛鳥の後頭部が地面に当たらないように自分の腕を飛鳥の頭の後ろに回したため、飛鳥に怪我はなかった。

しかし、何が起こったのかわからない飛鳥は呆然としている。


やがて、舞い上がった砂煙がなくなると、巨大なウサギは再び姿を現した。

その姿を見た、社長は声を張り上げる。

「あれは! 純金ラビットロードだ!まさか……」

「純金ラビットロード?」

颯太は社長に聞き返す。

「ああ、要は純金ラビットたちの親玉だな。通常は地下百階層より先でしか出現しないはずなんだがな」

「そうなんですか」

「ああ、颯太。気を付けろ!あいつは確かA級モンスターだ。さっきまでのうさぎとは比べ物にならない強さだぞ!」

「A級ですか……わかりました」

 

 社長の言葉を聞いて。颯太は、身を引き締めた。

ダンジョン内に出現するモンスターはF級、E級、D級、C級、B級、A級、S級、SS級と危険度ごとに八つのクラスに分けられているが、A級は上から三番目の位であった。A級が優れた能力者であっても簡単には倒すことができないとされているレベルであることを颯太は高校の授業で耳にタコができるほど教わってきた。

 ちなみに先ほどまで狩っていた純金ラビットはE級に分類されている。


(さっきの動きを見る限り、速さは純金ラビットの比ではなかった。時速百二十キロはゆうに超えていた。しかも。間違いなく百キロはある。かなり危険だな)

颯太はわずかな情報をもとに敵を分析した。


 目の前の純金ラビットロードは、再び、後ろ足で立ち上がると

「ギャオオーーーーーーーーーーーー」

とものすごい声で叫んだ。そして、再び颯太たちに向かって突進してきた。


「逃げてください」

颯太が慌てて声をかけると、飛鳥と、社長は近くの巨大な岩の陰い向かって走り出した。

 ウサギの軌道が再び、飛鳥に向かっていることに気が付いた颯太は、丸くなって飛んでくるうさぎの正面に立ち、両手で受け止めようとした。

 しかし、あまりの衝撃に後方の岩まで弾き飛ばされた。全身を岩に打ち付け、激しい痛みが体を貫いた。

 巨大ラビットの軌道を少しはずらせたようで。飛鳥たちが隠れようとしている巨石とは異なる方向へ飛んでいった。


「いってぇ。だめだこりゃ。普通にやったら勝てない。っていうか死ぬ。」

 純金ラビットロードの攻撃はまるでダンプカーに直撃されたかのような衝撃だった。途中で弾き飛ばされたからまだ良かったものの、全ての衝撃を受け止めていたら間違いなくこの程度では済まなかった。

 最後に飲んでから一時間以上経過しているため、今の颯太はお茶の効果が切れている。颯太ががもともと有しているオーラによる身体能力強化四・四倍の効果がなければ間違いなくペチャンコになっていたと颯太は思った。

 このままの状態で戦うという選択肢をすぐに捨て去り、颯太は先ほどまでいた場所に置いてあるリュックに向かって全力で駆けた。


颯太は、大急ぎで緑茶と烏龍茶と麦茶をカバンから取り出すと急いで口にした。

そして、すぐに防御力強化四倍(オーラと掛け合わせると一七・四倍)

       俊敏性強化六倍(オーラと掛け合わせると二六・四倍)

       攻撃力強化八倍(オーラと掛け合わせると三五・二倍)

を発動させると、飛鳥たちが隠れている岩場から離れ、純金ラビットロードに近づいていった。


 目の前には二十メートルほどの距離を挟んで、再び体制を立て直した巨大うさぎが立っている。


 


 


 




 


 





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