第33話 快挙
「グオォーーー」
純金ラビットロードはフロアに響き渡るほどの雄たけびを上げた。
口元から涎を垂れ流しながら、鋭い目でこちらをにらんでいる。
「こんなのもう、うさぎじゃないな。うさぎの皮を着た熊だろ。いや、熊よりもやばい何かだな」
そのどう猛さに、颯太は目を丸くするも、先ほどまで感じていた威圧感はもう感じない。スキルによって自分の体が超絶強化されたことを実感する。
純金ラビットロードは、四つ足になり体を小さく縮めるようにして力を蓄えると、こちらを目掛けてものすごい速さで突っ込んできた。
颯太はその突進を受け止めるために両手を広げて構える。
スキルで強化された自分の防御力を試すつもりだ。
巨大うさぎと颯太が衝突すると、激しい閃光とともに爆発音が広がった。
次の瞬間、颯太は両手で巨大うさぎを抱きかかえていた。巨大うさぎは何が起こったのかわからないと言った様子で首をきょろきょろ動かしている。
(あの衝撃が、これぐらいで済むのか。防御力強化はやっぱり強力だな)
先ほど、ダンプカーに衝突されたかのように感じた衝撃も、防御力強化を発動させている今は、少し速いドッジボールの球を受け止めた時と同じくらいの衝撃に感じていた。
(ありがとう)
颯太が、一番初めに覚醒してくれた愛着のあるスキルに感謝の念を抱いていると、やっと現状を認識したのか、ウサギは暴れるように颯太から離れていった。
純金ラビットロードは、再び雄たけびを上げると、颯太とは全く無関係の方向に突進していく、そして、ダンジョン内の、いたるところにある、壁を利用し、ばねの様に飛び跳ね、自身の速度を上げていった。やがてダンジョン内にはうさぎが壁に激突する衝撃音と、フロアを駆け巡る金色の閃光が幾重にも重なっていく。天井から、地面へ、地面右壁面へ、縦横無尽に駆けまわり、速度を高めている。
颯太がその隙に後ろを振り向くと、岩の陰から戦闘を覗いていた飛鳥と社長の姿は見えなかった。どうやら危険性を感じとり、安全を確保したようだ。颯太は胸をなでおろした。
A級モンスターのおそらく本気であろう技を前に、颯太は驚くほど冷静だった。
(大丈夫だ。やれる。ここで負けるようじゃ。大河に追いつくなんて絶対に無理だ。集中しろ)
颯太が、ダンジョンの壁を使い、加速を続けていた純金ラビットロードは颯太目掛けては、一直線に突っ込んできた。金色をした球体が、どんどんこちらに迫ってくる。
その速さは時速二百キロは超えていたが颯太にははっきりと見えていた。
「くらえっ!」
颯太、は右拳を後ろに引き構えると、突っ込んできた球体に思い切り突き出した。
颯太の拳が純金ラビットロードに当たると、純金ラビットロードの体にわずかに拳がめり込んだ。そして次の瞬間、金色の球体は、目にも止まらぬ速さでダンジョンの壁に飛ばされる。ダンジョンの壁に衝突すると、激しい爆発音が鳴り響いた。二百メートルはあるフロア全体が砂埃に包まれるほどの爆発で合った。
砂煙が落ち着いてくると、ダンジョンの壁の上部には直径二十メートルほどのクレーターが広がっていた。その中心には大きな金の塊も見えた。
それを見た颯太は、大きくガッツポーズした。
(よし、勝てるぞ。A級相手でも俺は通用する。まだ余裕さえあった。待ってろよ大河、必ず追いついてやるから! ヴァルチャーを大きくして驚かせてやる!)
颯太はさきほどまで抱えていたもやもやした気持ちと共に純金ラビットロードを吹っ飛ばした。
「大丈夫か?」
「大丈夫? 颯太君」
颯太が立ち尽くしていると、飛鳥と社長が駆け寄ってきた。
飛鳥は颯太は心配するような視線で颯太の体を見ている。
「はい。なんとか倒せました」
颯太は一仕事終えた後のようなさわやかな顔をしている。
「いや、なんとかってレベルじゃないだろこの、クレーターは。一体どういう戦いしたこんな跡が残るんだよ」
社長壁に広がっているクレーターを眺めながらそう口にした。
「ほんと颯太君は規格外だよね」
飛鳥ももう颯太のすごさをどう表現していいかもわからずそう言った。
「ありがとう。ございます。あれ、金ですよね。ちょっと取ってきますね」
颯太は嬉しそうにお礼を言うと、クレーターの中心で輝いている金を指さし、その場所に目掛けて跳躍した。颯太の体は楽に二十メートルほど飛び上がると、埋まっていた金をつかみ、着地した。
手にした金は今までに拾ったものとは違いずっしりと重かった。横四センチメートル縦十センチメートルぐらいの長方形の形をしていて厚さは五センチぐらいに見える。
「すごいな颯太。純金ラビットロードのドロップ率は三十パーセントぐらいしかないんだぞ!ついてるなお前!」
「そうなんですか! 良かったです」
颯太たちはしばらくの間、金の延べ棒のような巨大な金を見ては喜んだが、しばらくすると冷静になり、このフロアを後にした。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「ええぇーーーーーーーーーーー」
颯太たちは二十分くらいの時間でダンジョンのエントランスまで戻ってきた。そして、換金所のカウンターの上に、取ってきた金がたっぷり入った袋を二つほど乗せると、係の男は驚きの声をあげた。
「なんですか、これ。いや、まさか信じられない」
黒いスーツを着た男性は、目を大きく見開いている。その声を聞いて奥から出てきたもう一人の男も同じような反応をしていて颯太は笑ってしまった。
「すみません。取り乱しました。こんなに多くの金をとってきた人たちは今までいなかったので。今すぐ数えますね」
男は何やら、四角い形をした機会に金を投入した。すると、みるみるうちに機械のカウンターの数字が回り始めた。
五分ほどの時間が経ち、やっと機械のカウントがストップした。そこには七百八十二という数字が表示されていた。
「おめでとうございます。このミッションでの史上最高記録です。いやー私も長くここで働いていますがこんな数字は見たことはありません。いや、感服しました。単純計算で約7800匹を倒したことになりますよ。本当に驚きです。」
「ありがとうございます。あの、もう出現しなくなるところまで狩っちゃったんですか、大丈夫ですか?」
颯太はやりすぎたかもという不安があったため係員に尋ねた。
「ああ、それは心配ないですよ。純金ラビットは定期的に大量発生するので、また時間をおけば同じように出現するはずです」
「良かったです」
颯太は胸をなでおろした。
「後すみません。これもあるんですが、換金してもらってもいいでしょうか?」
颯太は、懐から金の塊を取り出した。
「それは! ラビットロードの延べ棒ですか? まさか、ラビットロードが出現したんですか?」
「はい。なんか、倒しまくってたら、急にうさぎが出なくなって。そしたらいきなり巨大な奴が出たんです」
「驚きました。3階層では出現率0.001%ぐらいの激レアモンスターですよ。っていうかよく倒せましたね。かなり強いはずですが」
係員の瞳は颯太たちを少し怪しむような感情が伝わってきた。その鋭い視線からどうしてこんな落ちこぼれ企業の救済ボーナスミッションできたやつらがこんな強いんだ。何かいかさまでもしたのではないかと怪しんでいるように颯太は思ってしまった。
「でも、まあなんにせよ。おめでとうございます。こちらも計測してみますね」
しかし、係の男の人はすぐに柔和な表情に変わり、手続きを始めてくれたため、颯太は安心した。
しばらくして、係員によって颯太が入手した金は四百五十グラムであることがわかった。
ヴァルチャーの三人は、純金ラビットの分で七百八十二万、純金ラビットロードの分で四百五十万、合わせて千二百三十二万円と千二百三十二企業ポイントを獲得して、ダンジョンを後にした。
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