第31話 開放される力
颯太が飲んだお茶は烏龍茶(俊敏性強化六倍スキル)、玄米茶(瞬間移動スキル)、紅茶(火属性スキル)であった。
しかし、颯太はあえてスキルを発動させないまま純金ラビットを追いかけはじめた。しかし、どんなに近づこうとしても先に反応され、高速で逃げられてしまう。
「はぁ、はあ、だめだ。普通にやったら速さではかなわない。」
颯太の速度も、オーラの放出により強化されているため時速九十キロは出ているはずだが、それでも純金ラビットの速さとはまだ差があった。それに加え、野生の生物特有の警戒心も強く、少し動いただけで走り去られてしまう。
(これは、遠距離用の武器でもないと無理だな。速すぎる……)
颯太は仕方がなく、オーラだけで純金ラビットを倒すのをあきらめ、スキルを一つ発動させた。
颯太が発動させたスキルは「速度強化六倍スキル」颯太が有するオーラによる強化分の四・四倍と掛け合わせると、最高で七百十二キロメートルの速度を出すことができる。
颯太は、小さく息を吸うと、十メートルほど前方にいる純金ラビットに向かって走り出した。颯太は目にも止まらぬ速さで後方へ回り込み、背後から背中に向かって手刀を放った。純金ラビットは甲高い声をあげながら消滅した。
颯太が攻撃した一匹が消滅したタイミングで、近くにいたうさぎたちはやっと現状を把握し、一目散に逃げ始めた。
(よし。この速さなら圧倒できるな。全く反応してなかった。それに、攻撃力強化を使わなくても、今のままの力で倒せたところをみると防御力はそこまで高くなさそうだな。行けそうだ)
一匹めを難なく仕留めることができたことは颯太にとって自信になった。
颯太は本格的にフロアにいる無数の純金ラビットたちの狩りを始めた。
颯太は眼にも止まらぬ速さでウサギたちに迫ると次々に打撃を与えていく。
手刀で、
拳で、
蹴りで、
思っていたよりも防御力が弱いことが幸いし、颯太が少し力を込めて打撃を与えればすぐにウサギは消滅した。スキルを使わなくても十分攻撃が効いていることがわかり颯太は小さく微笑む。
颯太には全てのうさぎが止まっているように思えるほどスローに見える。オーラの力だけで攻撃すると、消滅した。スキルを使わなくても十分攻撃が効いていることがわかる。
何匹かうさぎを倒すと、金がドロップしたのがわかる。しかし、一回一回止まって拾うのが手間だと感じた颯太は、最後にまとめて拾うことにして、ひたすらうさぎを倒していった。
颯太が、通過した場所には、純金だけが残されていた。
颯太はしばらくの間全力で動き回り、十分ほどの時間で千匹以上を倒した。
「ふう、だいぶ倒したな。速度強化スキルはこれくらいにするか。よし、次は……」
次に颯太は、炎属性スキルを使ってみることにした。今まで、会社の狭い地下室でしか訓練してこなかったため、実戦で使えるのが嬉しかった。
スキルを発動させ、右手の前にサッカーボール大の火球を出現させると。立ち止まった体勢から、二十メートルほど離れた場所にいる油断していそうなウサギに火球を放ってみた。しかし、ウサギはぎりぎりのところで火球に気付き走り去っていった。
続けて、周りにいたうさぎたちに同じように火球を放ってみるが、先ほどと同じように全て躱されてしまった。
(素早い相手には少し、速さが足りないかもな。もっと習熟が必要だな)
颯太は現状の力を冷静に分析すると作戦を変えてみることにする。
火属性スキルに加えて瞬間移動スキルを発動させた。
颯太は瞬間移動スキルを使ってうさぎの至近距離までで近づいた。ウサギは急に目の前に出現した颯太に驚き動けないでいる。颯太は一メートルほどの距離から火球を放った。火球はウサギに当たると激しい炎が辺りには広がった。炎が収まると、そこには金が一つ落ちていた。
「今はまだ、こんなふうに使うしかないな。炎の速度をあげなきゃな」
火球の威力には満足したものの、さらに能力の習熟の必要性を颯太は感じた。
次に颯太はこの前できなかったことを試してみることにした。全力のオーラを込め、巨大な火球を作り出した。颯太の右手からは直径十メートルほどの火球が出現した。颯太はそれをうさぎが密集している場所に放った。
飛ばされた火球は、「ゴォーーーー」という激しい音を鳴らし、ながらうさぎ達の上に落ちた。火球が当たると、激しい音と共に大きな爆発が起こりあたり一面に激しい炎が広がった。一瞬ではあったが、フロア内に熱気が広がったように颯太は感じた。
炎が消えた後を見てみると、三十匹ほどいるように見えたうさぎが全て消滅していた。
(ふう。威力はかなりあるな。でも、この技はオーラを大量に消費するな。後9回くらいしか打てない。今日は非効率だからやめておこう)
颯太は、巨大な火球の威力には満足したが、消費したオーラが莫大なことを危惧し、今日はもう使わないことを決めた。颯太が元々体内に有しているオーラ量は四十四万である。今の一撃で十分の一の四万四千オーラを消費していた。
「おいなんなんだ今のは!一瞬フロアの温度が急激に上がったぞ!」
「今の技、颯太くんがやったの?」
颯太の大技に、さすがに驚いたのか社長と飛鳥は慌てて駆けつけてきた。
そして颯太が立っている位置を見て驚愕した。
辺りにはすでに数えきれないほどの金が落ちていた。光を反射してキラキラ輝いている。
「あっ、お疲れ様です。」
二人が駆け寄ってきたことに気付いた颯太は涼しげな顔で挨拶をした。
「これ。全部颯太がやったのか? 」
「はい」
「すごいよ! もうすでに百個ぐらい落ちてるじゃん」
「なんか夢中でやっちゃいました。あの、さすがにやりすぎですかね。さすがにちょっとうさぎがかわいそうになってきました」
「はっはっは! いや、全然問題ないぞ。むしろ最高だ。まだ三十分も経っていないのに。」
颯太の言葉を聞いた社長は嬉しそうに大笑いした。颯太の圧倒的な成果に心底嬉しそうにしている。
「ありがとうございます」
「モンスターについては気兼ねすることはないぞ。ダンジョン内の生き物は、外の生物とは作りが違うんだ。魔力によって生み出された存在だから気にすることはない。どんどん倒して構わないぞ。むしろもっとやってくれ」
「わかりました」
驚く二人の前で、颯太は再び「速度強化六倍スキル」を発動させ、高速でうさぎをかっていった。
次々にうさぎが消滅し、純金が地面に増えて行くのを2人は呆然と眺めている。
「なぁ飛鳥、颯太の動き、見えるか?」
「いえ、爆発して行くうさぎしか見えません」
時速七百キロを超える颯太の動きは、二人が目で追えないほどの速さだった。
「怪物だな」
「はい。信じられません。」
しばらくすると飛鳥と社長はまた、自分の狩場に帰っていった。
今日の 颯太は燃えに燃えていた。あと百五十万円ほどで企業レベルⅠを脱出できるかもしれないことや普段とは違って。全力で能力を使用できること、大河と話して改めて自分の力を証明しようと決意したこと、それらの全てが相待って、モチベーションは極限に高まっている。
颯太は、全力で動き続けた。颯太の速さに、純金ラビットは一切ついてこれていない。接近されてから攻撃されるまで少しも動くことが出来ず次々と消滅していく。
(悪く思わないでくれ、うちの会社も生きるか死ぬかなんだ。)
社長には気にするなと言われたが、うさぎを憐れむ気持ちもまだ少しあった。しかし、今はそんなこと言ってられないと心を鬼にした。
颯太は無心でをただひたすらに純金ラビットを狩り続けた。
二時間後、颯太は最後の一匹に手刀を打ち込んだ。純金ラビットは消滅し、金が地面に落ちた。
颯太により、フロアには一匹もいなくなっていた。
辺りにはおびただしいかずの金が落ちている。
その光景を見て、飛鳥と社長は呆然としている。
「あり得ない。純金ラビットを狩り尽くすなんて聞いたことないぞ」
「ええ、颯太君のこと……、凄いとは思っていたけどこれほどとは思わなかった」
飛鳥と社長が近くに来ていたことに気が付いた颯太は声をかける。
「あっ、お疲れ様です。これ以上は出ないんですかね。まだまだ、行けるのに」
二時間動き続けていたというのに颯太は涼しい顔をしていた。スキルを使うコツが掴めてきたのか、一瞬だけ高速で動くなどしたためにオーラを節約することができていた。
そんな涼しげな颯太の様子を見て。
(本物の化け物だ)
と奇しくも二人は同じことを心の中で呟いた。
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