第30話 純金ラビット
颯太達三人がダンジョンの地下三階層へ到着するとそこには驚きの光景が広がっていた。
約二百メートル四方に広がっている荒野のような空間が広がっている。ところどころぼこぼこしている地面に、いくつかの巨大な岩も存在している。そこには見渡す限りに金色のウサギがひしめき合っていた。金色のテカテカの体に朱色に光る鋭い眼光がフロアに入ってきた三人に向けられていた。
数百、いや、数千はいるのではないかと颯太は感じた。
「何なんですか?このウサギたちは!金色に光っているし、何よりこの数!!凄すぎますよ」
「あっはっは! 初めて見たら驚くよな。いいか、颯太! こいつらが純金ラビットだ。」
社長は目を丸くしている颯太を愉快そうに眺めている。
「純金ラビット?」
「あぁ、たまに大量発生するんだ。その名前の通り倒すと一定の確率で金がドロップするんだ。一匹につき大体一グラム程度の金を落とす。最近のレートなら一万円くらいいくだろうな。それにしても今回は当たりだぞ! 前回来た時の倍はいる」
「金が手に入るんですか? すごいじゃないですか? 早く狩っちゃいましょうよ! 確か、時間制限があるんですよね?」
「あぁ、ウサギを狩れるのはこのフロアに入ってから三時間だけだ」
「あの、もう僕行ってもいいですか!?急がないと時間が。」
颯太は、早く狩りを始めたいと言った様子で右手首につけた時計を見ている。
「もぉー、颯太くん。落ち着いて。そんなに焦らなくてもウサギたちは逃げないから」
飛鳥は焦ってソワソワしている颯太は優しい微笑みを口元に浮かべながら見ている。
「そうだぞ颯太。焦るな。時間はたっぷりある。こいつらは普通のウサギに比べてかなり素早いし、重いんだ。確か三十キロの重さにも関わらず、百二十キロメートルの速さで移動するんだ。ぶつかったらかなりの衝撃を受けるぞ。たまに突進してくるからそれには気を付けろよ」
「百二十キロメートルはやばいですね。わかりました。気を付けます」
「ああ、まずは俺がお手本を見せるから見てろ」
社長はオーラを放出すると同時にスキルを発動した。すると社長の目の前に巨大な三又槍が出現した。
「おおー」
颯太は初めて見る社長のスキルに歓声をあげる。
「お前に比べたら全然大したことないスキルだが、これが俺のスキルだ。大きさや長さが自由自在の三又槍を出せるんだ」
社長は槍を右手に構えると純金ラビットの集団に向かって駆けていく。
迫る社長に気づいたウサギたちは一目散に逃げ始めたがその速さは尋常ではなかった。あっという間に社長から離れていく。
しかし、社長は走りながら逃走するウサギたちの群れに向かって抱えていた三又槍を思い切り投げた。
鋭い音を立てて飛んでいった三又槍は後ろ向きに逃げていた数匹の純金ラビットに突き刺さった。その瞬間、純金ラビットの身体はボンっと音を立てて消滅した。
純金ラビットが消滅した場所まで社長は走って行くと何かを拾い颯太たちに見せた。
社長の手の上には小さな金の欠片が輝いていた。
「すごいですね!」
「へへへ、こんなもんよ!」
社長は鼻のあたりを掻きながら得意げにしている。
「いきなりドロップしたのはラッキーだったね。
純金ラビットのアイテムドロップ率は十パーセントほどって言われてるんだよ」
「へぇー、そうなんですね!」
「よし、じゃあ手本は見せたから後は三人ばらけて各自で狩ることにしよう!三時間しかないからな。目標は企業レベルⅡに上がれるように百五十個を目指そう!」
「えっと、ドロップ率が十パーセントだからだいたい、千五百匹くらい倒せばいいんですね!」
「ああ、頼んだぜ! 颯太、この三時間のうちはここのフロアには誰も入ってこない。人目を気にせず本気でやってくれ!」
「わかりました」
社長はフロアの奥の方へ走っていった。
「じゃあ、私たちも始めようか?」
飛鳥はそう口にすると、ウサギたちが集まっている方へ歩いて行こうとした。
「飛鳥さん」
「なに?」
「そういえば飛鳥さんって、どうやってうさぎを倒すんですか?飛鳥さんのスキルって、索敵と聴力強化ですよね?」
「ああ、私はこれを使うよ」
飛鳥は懐から拳銃を取り出した。
「えっ?拳銃ですか?」
「うん。当てるのは難しいけど当たったら1発で倒せるからさ、私はこれを使うよ」
能力者は届出を出せば銃火器を所持することが認められていた。飛鳥のように戦闘に不向きな能力を持つ能力者の多くが銃器や、魔力が込められた武器を使用している。普段、お淑やかな飛鳥がいきなり拳銃を取り出したことに少し驚いたが、能力者が拳銃を用いることは珍しいことではなかったためそれ以上は何も言わなかった。
「気をつけてくださいね」
「うん」
飛鳥も社長とは別の方向へ歩いていった。
社長の方を振り返ってみると、凄い勢いで槍を振り回していた。一匹、また一匹とウサギが消滅して行く。飛鳥もウサギを、狩り始めたようだ。大きな岩の奥にいるため姿は見えないが拳銃の音が響き始めた。
ダンジョン内で一人になると先ほどの大河との会話が思い出された。
つい一ヶ月前まで肩を並べて過ごしていた友人なのに今はもう埋めがたい差が開いてしまったように感じてしまう。
さんざん見下されたが、怒りは湧かなかった。
しかし。心の中になんとも言えないモヤモヤしたものが残ったのも事実だった。
「俺は俺だ。誰が何と言おうと。自分ができるベストを尽くそう。いつか見返してやるからな。待ってろよ」
颯太は、大河の件で生まれたモヤモヤの全てをウサギ狩りにぶつけるつもりで自分に気合を入れる。
そして背中のリュックから三種類のお茶のペットボトルを取り出すと順番に飲んでいった。
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