第92話 圧倒

 階段から飛び出した颯太は、飛行スキルを使い、空中へ飛翔した。ゴブリン達の十メートルほど上で止まると下を見下ろした。


「すごいな。改めて見ると……」

 下には、おびただしい数のゴブリンが、うごめいていた。テニスコートほどの広さのフロアに、これでもかと集まっている。数百の黄色く輝く眼光が颯太を捉え、耳を覆いたくなるほどの叫び声が聞こえてくる。


 しばらくすると一体のジェネラルゴブリンが何かを叫び、其れに続いてゴブリン達は、一斉に手にしていたこん棒を颯太に向かって投げてきた。弓で矢を射ってくるくるものたちもいた。颯太の身体にはそれらが命中したが、防御力強化スキルと、持ち前の大量のオーラによって守られた体は少しのダメージも受けなかった。


「よし、やるか」

 やがて、攻撃し疲れたのか、下にいるゴブリン達の攻撃が緩んだタイミングで颯太は両手から巨大な炎を出現させた。そして、その炎をゴブリン達が入ってきた来た通路に向かって飛ばした。颯太が飛ばした炎は通路の前の床に落ちると、巨大な火柱を発生させ通路を塞いだ。上に向かって激しく炎を噴き出す火柱を作るのはこの前、会社にいたときにひそかに開発していた技だ。

 颯太は同じように、フロア内のゴブリンが通れそうな横穴に向かって次々と炎を飛ばし穴を塞ぐように火柱を作っていった。


 手から巨大な炎を出現させ、火柱を発生させる颯太をゴブリン達は呆気にとられたような顔で見守っている。


 颯太は、すべての穴を塞ぎ終わると右手を頭の上に高く掲げた。そして、右手から大量の炎を放出させていった。放出された炎は颯太の上空の一点に集まっていき、数秒で直径十メートルほどの炎の球体になった。

 攻撃の準備を整えると、颯太は、下にいるゴブリン達を見下ろした。みな、颯太が作り出した巨大な炎を玉を見て、恐れおののいている。中には、互いを抱きしめ合うようにしている親子と思われるゴブリンもいた。


(あいつらはただの魔力の集合体。生き物じゃない……生き物じゃない……)

 ダンジョン内の魔物はただの魔力の集合体。そう社長から聞いて頭では理解している颯太であってもやっぱり、こうして動いている姿を見ると殺すのが少しかわいそうにも思えてきてしまう。自分に言い聞かせるように心の中でそうつぶやくと、


「ごめん」


 と言葉を発しながら、右手を振り下ろし、ゴブリンの群れの中に巨大な炎の球を落とした。


 巨大な炎の玉はゴブリン達を押しつぶすように落ちていくと、地面に落ちた瞬間にばくはつして周囲に大きく炎が広がった。ゴブリンからゴブリンへと炎は次々に広がっていき、フロア内は火の海になった。ほとんどのゴブリン達は最初の一撃による炎のダメージで消滅していったが、中には炎から逃れ、何とか、逃げようとしている者たちがいた。また、炎の直撃を受けても、何とか命を取り留めているジェネラルゴブリン達に向かって颯太は上から炎を飛ばし、一体一体焼き尽くしていった。しばらくの間、フロアの中はゴブリン達の絶叫が鳴り響いていた。


 颯太が、階段から飛び出して一分ほどで、数百体はいたゴブリン達の群れは一体も残らず消滅していた。フロアにはゴブリン達のドロップアイテムである「ゴブリンの首飾り」が大量に落ちていた。


「ふう」

 颯太はゴブリン達が全て消滅したことを確認すると、ゆっくりと地面に向かって降りていく。

(よし。炎柱も炎の球もいい感じだぞ。この程度の敵なら、問題なく倒せそうだ)

 颯太は、自分が開発してきた技が通用することがわかり満足した。また、以前よりも火属性スキルの威力も上がってきていることがわかり、特訓の成果が出てきていると感じた。


「颯太!」

 颯太が、ゆっくりと地面に降りると、階段の方から社長たちが駆け寄ってきた。


「あっ、社長。なんとか倒せました」

「いやいや、何とかってレベルじゃないだろ! 圧勝だったじゃないか! いや、むしろ戦いにすらなっていない……、まるで殺戮だったぞ! すごすぎるぜ!」

 社長はあまりの強さに驚いたのか、いつもよりどこか静かな声でそう口にした。


「殺戮って、大げさですよ」

 颯太は、笑いながらそう答えたが、社長の後からやってきたみずきが口を開いた。


「大げさじゃないよ。相手に何もさせなかったじゃない! 颯太って、ホントに強くなったんだね。圧倒的過ぎるよ! 私……あんたが少し怖くなったわ!」

 みずきは心から驚いたような表情を浮かべている。


「そうかな。でも炎スキルを使うと、ちょっと見た目が残酷だよな。多数の相手を倒すときにはちょうどいいけど、今度から気をつけるよ」

 みずきの表情から、恐怖の色を受け取った颯太は少しやりすぎたと後悔した。


 ふと飛鳥を見ると、飛鳥は満面の笑みを浮かべていた。

「私は颯太君が強いのは十分知っていたよ。犯罪者たちを倒すところを見てるから。お父さんと飛鳥さんは腰を抜かしちゃったみたい。でも私もあの大量のゴブリンの群れを、一瞬で倒しちゃうほどとは思ってなかったよ。やっぱり颯太君は怪物だね!! うちの会社に入ってくれて本当に良かった! ねっ! お父さん!!」

「ああ、そうだな! これからも頼む。 まじで会社の将来はお前にかかっているぜ。それがよくわかったよ」

 

 飛鳥はいつもと同じように明るい表情を浮かべていたが、社長と飛鳥はいつもよりも静かな反応だった。あまりに強大な力を目の前にしたとき、人は驚きよりも恐怖を覚えるのかもしれないと颯太は思った。


 その後、四人は、手分けをしてゴブリン達のドロップアイテムである「ゴブリンの首飾り」を拾っていった。社長の話によると一つ千円で買い取ってもらえるらしい。全部で37個落ちていたため全て回収した。


 首飾りを拾い終えると、四人は今までいた部屋を出て奥に向かって歩き始めた。










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