第9話 能力開発④
初めに、颯太と猛はスキルチェッカーに表示された「物体衝突なし」という言葉を検証することにした。飛鳥と有希は、実験の準備のために地下のトレーニングルームに移動していた。
猛によると、「物体衝突無し」とは、瞬間移動して現れた先に、もし物体があったとしたら、その物体に衝突はせずに、物体の横に体が現れる。ということだという。颯太はすぐに実験してみることにした。隣のフロアに置かれているコピー機に向かって、コピー機の中に入るようなイメージを浮かべて瞬間移動としてみると、コピー機の真横に体は現れた。
「よし。成功だな」
実験の結果を受けて猛は満足そうにしている。しかし、颯太には、この実験の意味がいまいちよくわからなかった。
「今ので何がわかったんですか」
「わかりやすく言うとだな、もしこの物体衝突なしって条件がなかったら、現れた先の物体とお前の体がぶつかってしまうんだよ。うーーん、そうだな。わかりやすく言うとだな。学校の校庭にある鉄棒を思い浮かべてみろ」
「わかりました」
颯太は言われた通り、頭の中で鉄棒をイメージした。
「お前が、鉄棒に向かって瞬間移動したときに、現れる座標が鉄棒にかぶっていたら、物体衝突ありだと、お前は現れた瞬間に鉄棒の棒に体を貫かれてしまうんだ」
「えっ? なんですかそれ。めちゃくちゃ危ないじゃないですか!」
「そうだ。瞬間移動スキルとしては唯一の懸念事項だったんだか、良かったな。お前のスキルは本当に当たりだ。物質衝突なしだから。コピー機に当たらなかっただろ。コピー機の上からお前の上半身が出なくてよかったな」
「さらっと怖いことを言わないでくださいよ。っていうかそんな危ない実験、やる前にちゃんと説明してください」
「まあ、まあ、結果はわかってたし、百パーセント安全な実験だったんだ。お前も物体衝突なしの意味が分かっただろ」
「そうですけど」
「何はともあれ、お前の体はどこへ瞬間移動しようとしても安全だ。それがわかってよかったな。よし、次の実験に行くぞ」
「……はい」
安全な実験だと言われても颯太は少し釈然としなかった。どうやら猛はやはり大雑把な性格だと颯太は思った。
「よしじゃあ颯太。初めにお前の防御力を試した時の部屋、思い浮かべてみろ」
「確か、地下の部屋ですよね」
「ああ。瞬間移動スキルはな、行ったことがある場所と、今見えている場所に行くことができるんだ。今頃はもう有希と飛鳥がいる頃だろう。スキルを使ってみろ」
「わかりました」
(大丈夫なのか? 地下まで瞬間移動するってことは、床をすり抜けるってことだよな)
颯太からしたら先ほどの目の前の数メートルに飛ぶこととはわけが違った。地面をすり抜けられるのかということに不安を覚えた。
「大丈夫だ。地下だろうがどこだろうが、お前の体は人や物質には当たらない。心配なく使ってみろ」
そんな颯太の不安を見抜いたかのように猛はそう口にした。
颯太は目を閉じると、先ほどの地下の光景を鮮明に思い出し、スキルを発動した。すると、目の前には飛鳥と有希が立っていた。どうやら実験は成功したようだ。
「やったな」
「大成功ですね」
有希と飛鳥が嬉しそうにしている姿を見て、颯太の心にも喜びが浮かんできた。
(見えていなくても。その場所が想像できれば行けるんだ。これは本当にすごいスキルだ)
「出来たか?」
颯太が喜んでいると、バンっと音を立てながら勢いよく地下室の扉が開かれ猛が入ってきた。急いで階段を駆け下りてきたのは肩で息をしている。
「出来ましたよ! びっくりしました! まさか壁もすり抜けられるなんて……」
颯太は嬉しそうに笑顔を向けた。
「馬鹿野郎! こんなことで満足しているんじゃねえ。瞬間移動スキルの力はなこんなもんじゃねえんだ! 次の実験行くぞ」
猛はすごい興奮している様子だった。
「飛鳥、有希、ちょっとこっちこい!」
猛は飛鳥と有希を強引に颯太の横に立たせると、颯太の左手に二人の手を触れさせた。
そして自分は、颯太の右手を握った。
三人が意味が分からずきょとんとしていると猛は興奮した様子で口を開いた。
「あのな。あまり知られていないことだが、瞬間移動スキルは、スキルを発動する人間に触れていると他の人にも効果があるらしいんだ。俺も試したことも見たこともないからドキドキだが、確か前に鳳城ができるって言ってたんだ」
「本当なのかー?」
有希は信じられないと言った疑いの目で猛の眼を見ている。
「まあまあ、とりあえずやってみましょうよ。颯太さん。お願いできますか」
飛鳥は有希をなだめるようにそう言うと颯太に声をかけた。
「わかりました。どこに行けばいいですかね」
「先ほどの応接フロアで頼む」
「わかりました」
猛の指示を受け、颯太はスキルを発動させた。四人の体は姿を消し、三階の応接フロアに現れた。
「やったぜぇぇーーーーーーー! 成功だぁぁーーーーーーーーー」
誰よりも喜んでいたのは猛であった。子供のように感情を爆発させ両手を天井に突き出しながら叫んでいる。
「もう。お父さんうるさいよ! 確かにすごかったけど。なんで颯太君以上に喜んでいるのよ!」
「全く、みっともない」
有希と飛鳥はあきれ返っている。
その様子を颯太は微笑ましく見つめていた
(自分のスキルで人が喜んでくれているのってなんか夢みたいだな。それに、この人たちは、個性的だけど悪い人たちじゃないな。この会社に入ってよかったかもな)
颯太はだんだんと目の前の三人に親しみを覚えていた。
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