第20話 救助と検挙
飛鳥に手を引っ張られ走る二人。颯太は飛鳥の柔らかい手の感触にドキドキしているが飛鳥は気にもとめない顔をしている。
「あの、どこへ向かっているんですか?」
「コンビニ」
颯太は一瞬で意味を理解した。お茶を買うためなのだと。
「颯太君、あとどれくらいオーラ残ってる?」
「あと二十万くらいだと思います」
「わかった」
二人は、コンビニに入ると大急ぎで七種類のお茶をかき集め購入した。どの力が必要になるかわからないため全ての種類のお茶を用意したのだ。
「事件の場所はどこなんですか?」
「福生駅前の銀行みたい」
「福生駅なら行ったことがあります。飛べますよ」
「えっと、福生までの距離は直線距離で七キロだよ」
「それじゃあどこかを経由しなきゃですね」
颯太のスキル「瞬間移動」で移動できる距離は一回につき四・四キロメートルが限界である。
飛鳥はスマホの地図アプリを開き、颯太に見せた。颯太は指で地図を広げたり縮めたりしながら、八王子と福生の間を調べる。
「あっ、ここなら行ったことがあります」
颯太が指差した場所は八王子にある道の駅で、ちょうど福生と現在地の直線上にあった。距離は八王子から三キロほどだ。
「じゃあそこにしよう! 私も飛べる?」
「大丈夫です」
飛鳥が颯太の手を繋ぐと颯太はスキルを発動させた。
次の瞬間、二人の目の前には道の駅が現れた。二人が現れた場所は建物の屋根の上であった。颯太はすぐにスキルを発動させ、二人は姿を消した。わずか0・一秒秒ほどの時間であったため、二人の姿を目撃した人はいなかった。
二人は、福生駅前にたどり着いた。店で連絡を受けてからここに来るまでわずか五分ほどの時間しか経過していなかった。
駅前には、人影がなかった。警察が北口から出る通路を封鎖しているようだ。
飛鳥と颯太は警察官見つけると能企証をみせた。「能企証」とは自分が能力者企業に所属している能力者であることを証明する身分証である。これを見せれば、事件現場などで協力者として扱われる。
「能企の方ですか?」
「はい」
「よろしくお願いします。あちらです。」
「状況は?」
「相手は四人です。小学生くらいの少女が人質になっているらしいです。」
「わかりました」
二人は事件が起きている銀行が見える位置まで移動した。
その銀行は福生駅前の大通りの一角にあった。名前を「セブンセゾン銀行」という名前で店舗の前には黄色の看板が大きく輝いていた。入り口のガラス扉からは奥のカウンターや、拳銃の銃口を少女の眉間に押し当てている男がよく見える。さらに後方には三人の人影も見えた。
飛鳥はスキル「索敵」を発動させた。飛鳥のスキルは五十メートル以内の場所であれば飛ばしたオーラにより、情報を収集できるというものである。飛鳥のオーラは銀行を包み込んでいった。
「どうですか」
颯太は飛鳥に声をかけた。
「犯人は四人とも男だね。多分みんな三十代くらいだと思う。能力者は一人もいない。みんな一般人だ。女の子は何もされてはいなさそう。少なくても体に傷はないね。かわいそうに、怯えきっちゃってる。心臓の鼓動がかなり早いよ。速く助けてあげたいね。どうする?」
「透明になった上で瞬間移動で近づきます。そして少女だけを救出してからまた戻ってみんな倒そうと思います。」
「私も同じこと考えてた。私も一緒に戦うよ」
「飛鳥さんはここにいてください。女の子を連れてくるので匿ってあげてください。」
「でも…」
「能力者がいないのなら僕だけで大丈夫です」
「わかった」
「お茶はあと、ほうじ茶(透明化)と緑茶(防御力強化)と麦茶(攻撃力強化)を飲みますね」
「ちょっと待って!麦茶はいらないんじゃないかな?相手は一般人なんだよ?能力者ならまだしも、オーラもない人に攻撃力強化使って攻撃したら殺しちゃうよ。忘れたの?オーラと防護服で完全にガードしてたお父さんが気絶したんだよ?」
「確かにそうですね。忘れてました」
「拳銃も持っているから、防御力強化をしっかり発動してね!」
「はい」
颯太は二本のお茶を飲むと、スキルを発動させた。颯太の黄緑色のオーラの中に三色の結晶が浮かび漂い始めた。
「気をつけてね」
「はい」
颯太は透明になると、瞬間移動スキルを発動させた。
颯太は、店内に瞬間移動した。銃を突きつけている男から五メートルほど後方の位置に颯太は立っている。三人の別の男たちは急いで札束をバッグに詰めていた。一目見ただけでも1億以上はありそうだと颯太は思った。
颯太は、ゆっくりと男と少女の位置まで近づいていく。颯太のスキル「透明化」は音を消すことはできない。足音を立てないように最新の注意を払いながら一歩一歩進んでいった。
足を一歩踏み出すごとに颯太には今まで感じたことのない緊張が溢れてきていた。もちろん高校の授業でもさまざまな状況を想定しての訓練は行なってきていた。しかし、今目の前には広がっている光景は紛れもない現実である。最悪の場合、少女が命を落とすかもしれない。そんな未来を想像しかけた颯太があったが、静かに頭を左右に振った。
(余計なことを考えるな。今やることに集中するんだ)
颯太は、心に浮かんでくる不安を押し殺すと呼吸を止めながら、目の前の二人に近づいていく。
残り一メートルほどの距離までくると、少女の体の震えから男の息遣いまで感じ取ることができた。
(いくぞ)
心の中でそう呟くと、少女の頬に軽く触れた。
少女が何かを感じ取る前にスキルを発動させ、目の前には飛鳥が現れた。
「頼む」
颯太はそう言うと再びスキルを使い、行内に戻った。
急に少女が消えたことにより呆然としている男の鳩尾に向かって鋭い拳を突き入れた。
ドサッという音と共に男が床に倒れた。
倒れ伏した仲間に気づいた様子の男たちに、反応する時間も与えず、高速で駆け寄った颯太は、一人ひとり気絶させていった。
颯太が少女を救ってからわずか数秒後には全ての男が倒れ伏していた。通常では考えられないほどの早業であった。
颯太は「ふぅっ」と一呼吸おくと、外で取り囲んでいる警官の隣に瞬間移動し「中の男たちは倒しましたよ。少女も無事です」とだけ伝えてすぐに飛鳥の元に飛んだ。
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