第39話 火災現場
東京、新宿にある東京都災害対策情報センターには、日夜、東京のいたるところからや事故、火災、災害などによる通報が集まってくる。
集まってきた情報の中から、能力者の協力が必要だと判断されたものは、
同じく新宿にある能力者企業総合集約本部に情報が送られる。
時間に猶予がある依頼に関しては、その災害が発生した場所の近くの能力者企業に依頼を行うが、緊急性が高い救助要請に関しては、都内の全ての企業に救助の依頼を要請する。その場合、救助に参加した企業には、救助の際の貢献度によって報奨金が支払われる。簡単な言い方をすると早い者勝ちのシステムであった。
今回、飛鳥から颯太に伝えられた依頼は後者のものであった。
能力者企業業務依頼本部から社長の猛に情報が一斉送信されたのが二分前。そして社長から話を聞いた飛鳥が電話をかけてきていた。
飛鳥の話によると事故現場は立川駅前の高層ビル「プリンスタワー」。
様々な企業がオフィスとして居を構えている高層ビルで43階建で150mの高さを誇る。
数分前、このビルにヘリコプターが突っ込んだらしい。それにより、大規模な火災が発生しているのと多数の怪我人が出ているとのことだった。
立川駅前なら何回もか颯太は行ったことがある。瞬間移動スキルは使えそうだと颯太は思った。
「わかりました。今すぐ行きます。飛鳥さんは今どこですか?」
「私は八王子の自宅にいる。一緒に行けるかな?」
「家は場所がわからないので、どこか目印ありませんか?」
「前の事件の時に立ち寄ったコンビニ覚えてる? ほら焼肉の後に」
「わかります。セブンマートですよね」
「うん。あそこ、実は家のすぐそばなんだ。二分後にあそこ集合でいい? わかりました」
颯太は電話を切るとすぐに、キッチンにいるみずきのそばに駆け付けた。
「ごめんみずき! 緊急の仕事が入っちゃった!俺、行かなくちゃ!」
「えっ? 仕事?」
「高層ビルにヘリが突っ込んだらしい! 救助してくる」
「それはやばいわね!」
「みずきは家で待っていてくれ。夜には帰れると思うから?」
「えっ? うん」
みずきは突然のことに呆気に取られている様子だ。しかし、今はみずきに構っている暇はない。人命救助はスピードが1番大事なことを颯太は知っていた。一分一秒が命を左右する。
颯太はすぐにリビングに戻ると、みずきがそばにいることなんて少しも気にせずに、普段着ている戦闘服に着替え始めた。会社から支給してもらった上下紺色の特殊部隊のような服装だ。
着替え終わるとカモフラージュ用のアイテムも忘れずにリュックに詰め、冷蔵庫の前に急ぐ。
何かあった時のために、今までに覚醒した能力に対応したお茶は全て買ってあった。それを急いでリュックに入れていく。
「颯太! 私もいくよ!」
「えっ?」
いつの間にか背後まで来ていたみずきが大きな声で言った。颯太は訳もわからず、聞き返してしまった。
「怪我人がいるかもしれないんでしょ? 私なら役に立てるよ」
みずきの言葉を聞くまで気が動転していて忘れてしまっていた。みずきが一流の治癒スキルを持っていることを。
そのことを思い出した颯太は一言、
「ありがとう」
とだけ口にすると、玄米茶(瞬間移動スキル)を取り出して勢いよく飲んだ。
そして、みずきに向かって口を開いた。
「すぐ出発する! 靴履いて!」
「うん」
二人は急いで玄関で靴を履いた。
「準備いい?」
「うん」
「手を掴んで」
お茶のペットボトルが何本も入ったリュックを背負うと颯太はみずきに右手を差し出した。
「うん」
状況が飲み込めない様子のみずきが手を握ると、二人の体は一瞬で八王子駅前のコンビニの横に移動した。辺りには、通行人が多かったが、どうやら颯太たちが現れたことに気付いた者はいないようであった。
「えっ?」
みずきは信じられないと言った様子で辺りを見回してから颯太を見る。何が起きたかわからない表情をしながら颯太の顔を見つめた。
「ごめん! 今日言うつもりだったんだけど、実は防御力強化以外にも、色々なスキルが出たんだ。後で全部説明するから今は許して」
別に今まで隠していたことを咎められたわけではないのに颯太は謝った。
颯太の言葉を聞いたみずきは小さく「わかった」口にしただけで、それ以上は聞いてこなかった。短い言葉だけで、こちらの意図を汲んでくれる器の広さがみずきにはあった。何も聞いてはこなかったが、その表情には僅かに笑顔がうかんでいるように見えた。そしてなぜかまだ繋いでいるみずきの手がさっきよりも強く握ってくるのを感じた。
「颯太くん!」
颯太達が到着してから三十秒ほどで飛鳥は現れた。颯太と同じ上下紺色の服を着ている。飛鳥は颯太に駆け寄ると颯太と手を繋いで立っている白いパーカーと紺色のロングスカートを着ている女の子に気づき、怪訝な顔をした。
その反応に気づいた颯太は慌てて声を発した。
「親友のみずきです。レベル7の治癒能力者なので連れてきました」
「そうなんですね。ありがとうございます!よろしくお願いします」
「あっ、こちらこそ」
飛鳥は颯太から紹介されると、急いでいるにも関わらず丁寧に頭を下げる。
それを見て、みずきも丁寧にお辞儀をした。
「では行きましょう!颯太くん、お願いできる?」
「はい」
飛鳥が差し出してきた手を颯太は左手で掴んで
すぐに能力を発動した。
♢ ♢ ♢
立川駅前のロータリーに三人が現れると、目の前には衝撃の光景が広がっていた。
三人の立っている場所から五十メートルほどの距離にあるプリンスタワーが炎上していた。それも、少なくとも三十階以上はあるだろう高層階がである。一目で梯子車でも届かない高さだと理解できた。
ビルの周りからは車も、人も離れていた。離れたこの場所からも割れたガラス片などが舞い落ちているのが見える。ビルの横を通る道路には、おそらく地元の警察官であろう人達が、一生懸命道路の封鎖を行っていた。
駅前の通行人達は離れた場所から燃え盛るビルを茫然と眺めている。中にはスマホで撮影している人も多く見られる。まだ、消防車も救急車も到着しておらず、他の能力者企業の社員もいなかった。緊急の連絡が社長の猛に入ってから僅か四分間で颯太達は現場に駆けつけた。
周りの状況を見渡して、颯太はすぐにやるべきことを考えた。
「みずき、あそこのスペースで待っていてくれ。怪我人を連れてくる」
颯太は、ビルから三十メートルほど離れた場所に空いている道路を指差しながら言った。警官が封鎖している場所のすぐ後ろで誰も立ち入れない場所だった。
みずきは聡太の意図をすぐに理解したようで、すぐに
「わかった」
と答えた。
「それと、もし余裕があったら野次馬に怪我人の写真を撮らないように声をかけてくれ」
「了解」
(みずきの方は大丈夫だ)
みずきとは長い付き合いだ。短いやり取りであってもしっかりと意思の疎通がとれたことを感じた。大体、みずきは頭が良い。高校の学科の成績もいつもトップクラスだった。颯太が何も言わなくても臨機応変に対応してくれるだろう。
「飛鳥さん。僕が持ち上げるので火の中の怪我人の探知をお願いします」
「うん。大丈夫だよ」
颯太は、リュックからコーン茶(飛行スキル)と紅茶(火属性スキル)を取り出すとすぐに口をつけ能力を発動させる。そして、カモフラージュ用のマスクとゴーグルを身に着けた。
颯太は、
「みずき!頼んだ!」
「飛鳥さん、すみません」
と口にすると、お姫様抱っこの体制で飛鳥を抱え上げ、燃え盛るビルに向かって飛び立った。
どんどん上昇していく颯太達を見て、みずきは
「そんなこともできるの? もぉ、わけわかんない!」
と口にすると颯太の指示通りの場所へ急いだ。
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