第88話 やばいやつ
社長と颯太が着替え更衣室から出るとまだ飛鳥とみずきはいなかった。五分ほど待っても二人が来なかったため、社長は煙草を吸うためにホールの一角に併設されている喫煙所に向かった。
「どうかな?」
一人で待っていると扉が開き二人が出てきた。颯太と目が合うと、みずきは少し照れたような表情を浮かべながら尋ねてきた。
「よく似合ってると思うよ」
事実、初めて着たとは思えないほどみずきの着こなしは自然であった。艶のある黒髪のボブヘアが紺色の戦闘服に馴染んでいた。
「えへへ。良かった」
颯太の言葉を聞いたみずきは嬉しそうに微笑んでいる。
「みずきが戦闘服を着ているのを見るの久しぶりだ。高校の頃を思い出すよ」
「そうだね。懐かしいね」
颯太とみずきがそんな事を話していると、横にいた飛鳥が羨むような視線を向けてきて口にする。
「いいなぁ〜。颯太君とみずきちゃんって三年間一緒に学校生活を送ったんだね。羨ましい〜。私も颯太君と一緒に過ごしたかったな」
「ふふふ、いいでしょう! 高一の頃の颯太は今よりも、もっと初々しくて可愛かったんですよ!」
みずきはそう言いながらポケットからスマホを取り出すと、飛鳥に画面を見せ始めた。颯太も二人の後ろからスマホを覗き込んだ。そこには、おそらく教室で撮られたと思われる画像が写っていた。
「ええー、すごい!! 颯太君若い! しかも髪が短い。なんかかわいいね!」
颯太の画像を見ると飛鳥は興奮したように甲高い声を上げた。食い入るように画面を見ている。
「わかりますか! 可愛いですよね! この頃の颯太は坊主にしたり短髪にしてたんですよ!それがまた初々しくて良いんですよね!」
みずきも興奮した様子で画面をフリックし次々に別の画像を見せていく。その度に飛鳥は嬉しそうな声を発している。
颯太は、昔の写真を見せられることに若干の恥ずかしさを感じていたが、あまりに二人が楽しそうにしているためその気持ちを抑え込み静観していた。
むしろ、いくらもう付き合っているとはいえ、自分への好意を少しも隠そうとしない二人が無性に可愛く思えてくる。
(ほんと、幸せ者だよな。死んでも幸せにしなきゃな……)
そんな事を考えながら颯太は穏やかな気持ちで二人を眺めていたが、次にみずきが見せた画像を見て吹き出しそうになった。
それは教室内で上半身裸になって着替えている颯太の姿だった。
「えっ? なんですか? この写真!! すごい!! めっちゃ腹筋割れてる!! やばっ!!」
飛鳥はさらに興奮した様子で画面を食い入るように見ている。隣でみずきは得意げな表情を浮かべている。
「おい! みずき! いつ撮ったんだよ! こんな写真!」
さっきまで穏やかな気持ちで二人を見ていたのに、みずきが出した写真で一気にその気持ちは吹き飛んでしまった。
「いつかな? わからない。 どこかの訓練の後だったと思うけど」
「流石にだめだろ! 隠し撮りは! 」
(こいつ! 頭大丈夫か? 普通撮るか? 着替えシーンを。ぶっ飛んだ所があると思っていたけどここまでだったとは……)
上半身を見られる恥ずかしさよりも、それを写真に撮れてしまうみずきの異常性に颯太は驚いた。
高校の頃、男子は教室、女子は更衣室と、もちろん着替える場所は男女分かれていたが男子の方は女子が中にいても着替えてしまう風潮だった。颯太も、いつかは覚えていないが、女子が教室にいた時に着替えた記憶は何度かあった。まさか写真を撮っている奴がいるとは思わなかったが……。
「ごめんごめん。颯太がめちゃくちゃ良い体してたからさ。思わず……。まぁでも良いじゃん。今はもう付き合ってるんだし。飛鳥さん。すごいでしょ? 颯太はこう見えて身体はバキバキに鍛えてあるんだよ」
颯太は、流石に引くんじゃないかと思ってみずきの方を見た。しかし、
「うん。すごいね。すっごくカッコいい! 後でこの写真も含めて全部送ってください!」
と、思っていたのとは異なり、めちゃくちゃ嬉しそうにしている飛鳥の反応を見て、
(ああ、そう言えば飛鳥さんもぶっ飛んでるんだった……)
と、自分の彼女たちのやばさを再認識する颯太であった。
「良いですよ。ちょっと待っててくださいね!」
「おい。みずき! 流石に飛鳥さんに送るのは恥ずかしいんだが……」
颯太は、みずきが早速、画像を送ろうとしているのを見て、慌てて声をかける。
「まぁまぁ、いいじゃないこれくらい。飛鳥さんはあんたと学校生活を送れなかったんだからさ」
「いや、そうじゃなくてな……」
裸の写真ことを言っているのだが、みずきにはそれが伝わっていないようだ。颯太は飛鳥の方を見た。
「えっ? 颯太君が嫌だったら貰わないけど……」
飛鳥は、悲しそうな顔をながらこちらを見つめてくる。そのつぶらな瞳に見つめられるとうんと言うしか手はなかった。
「わかりました。良いですよ」
颯太が仕方がなくそう言うと、飛鳥はとびきりの笑顔で微笑んだ。
「飛鳥、もう隠し撮りはするなよ! 何というか、それは人としてだめだからな!」
「するわけないじゃん。もう私たち付き合ってるんだから」
スマホを操作しながらそう口にするみずきを颯太は呆れた顔で見つめていた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「それにしても、ますます羨ましいなぁ。私も颯太君と青春時代を過ごしたかった」
しばらくして、みずきから送られてきた画像を一通り見終わったのか、スマホをしまった。飛鳥はしみじみと呟いた。
「良いじゃないですか。私が飛鳥さんに勝てるのなんてこれぐらいしか無いんですから。スタイルじゃ敵わないですし……」
みずきの言葉を受けて颯太は、自然と飛鳥の身体を見てしまった。みずきが言うとおり、確かに、背が高くすらっとした体型にも関わらず、出るところはしっかりと出ていた。戦闘服という、まったくおしゃれとはかけ離れた服を着ていても、抑えられない膨らみと魅力が溢れていた。モデルだと言われても信じてしまうほどの体型をしている。
「そうかな? みずきちゃんもあまり変わらないと思うけど……」
「飛鳥さんには勝てないですよ。そっちの方がずるいです」
飛鳥の言葉を受けて自然と颯太の視線はみずきに移る。飛鳥ほどではないが、みずきもスタイルは良かった。しかし、身長が百五十八センチメートルとやや小柄なため、可愛らしい印象が先行してしまう。それでも颯太からみたら、飛鳥に負けず劣らずの魅力があった。
「まぁなんにせよ。こんなかわいい彼女が二人もいるんだから、大体のことは颯太が我慢しなさいね」
「ああ。そうだな」
みずきの言葉に少し思うところはあったが、自分には釣り合わないと思うほどの彼女が二人もいるのは事実のため颯太は同意した。
しばらくして、社長が戻ってきたため、四人はホールから下に続いている階段を降りて行き、ダンジョンに入っていった。
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