第89話 それぞれの戦い方 社長 飛鳥
颯太達は現在、石和ダンジョンの地下四階層を進んでいた。真っ直ぐに伸びた通路を進んでいる。辺りはやや薄暗いが、一定の間隔で通路の壁に備え付けられたランプが灯っているため、視界は悪くはない。数十メートル先までしっかりと見ることができた。
通路は石畳で出来ており、四人が歩いていると、「カツカツ」と音がダンジョン内に響く。また、少しカビ臭いなと、颯太は感じていた。
「なあ、飛鳥、魔物はいたか?」
「五十メートル以内にはいませんね」
「まじかぁー、つまらねぇな。早く出てこないかなぁ」
「なんかあまり魔物がいませんね」
「少し前に来た奴らが倒したのかもな。もう七階まで来てるのに少なすぎるしな。あぁー、早く出て子ねぇかな」
社長はダンジョンに入ってからずっと魔物に出会いたくてうずうずしている様子だった。
颯太からしたら、目的の階層はずっと下なんだから今は魔物と出くわさなくても良いと思うのだが、社長には別の考えがあるようだ。魔物の出現を心待ちにしているように思える。
ここまで来て確かに魔物の数が少ないと、颯太も思っていた。通常なら各フロアにつき少なくとも一度は魔物と出くわすと高校では教えられていたからだ。ここに来るまで一体も魔物が現れないのが不思議だった。
そのみ四人が通路を進んでいくと、奥に次のフロアに続く階段が現れた。飛鳥は階段の前に立つとスキルを発動させ、オーラを階下へと広げていった。
数秒後、飛鳥は口を開いた。
「安心してください。次のフロアは魔物だらけですよ」
「本当か?」
社長が嬉々とした表情を浮かべ、たずねる。
「はい。少なくとも十体ほどはいますね。ゴブリンです」
「よし! やっと魔物が現れたな! 相手はゴブリンだから旨味はないけど、ちょうど良いから戦ってみようぜ。この四人でダンジョン攻略を進めるのは初めてだからな。お互いの闘い方を最初に確認しておこう」
「なるほど、確かにみずきちゃんは一緒にダンジョンに来るの初めてだもんね。お互いの戦い方とか出来ることとか低層のうちに確認しておくのは大事だね」
社長の声に飛鳥が答える。颯太も社長が魔物に出会いたがっていた理由が理解できた。
四人は社長を先頭に地下五階層に続く階段を降りていった。
階段を降りると目の前には開けた空間が広がっていた。テニスコート二面分はあるだろう。
そして、そこには十匹のゴブリンが立っていた。颯太達に気がつくと、唸り声をあげながら威嚇をしてきた。それぞれが、手に五十センチメートルほどの棍棒を持っている。
ゴブリンーーダンジョン内の低層に生息する魔物である。緑色の肌と頭から生えている二本のツノが特徴的である。成体でも人間の子供ほどの大きさしかなく力も弱いが、槍や刀、弓やハンマーなどの武器を使うことができる点と、その個体数が多く集団で襲いかかってくることがあるため注意が必要な魔物である。
一対一の先頭であれば、能力者ではない人間でも倒すことができるため、危険度は一番下のF級である。
威嚇しても、颯太達が少しも怯まなかったためか、三体のゴブリンがこちらに向かって突っ込んできた。颯太が迎撃しようとすると、社長が右手で制してきた。
社長はオーラを体から放出すると、スキルを発動させたのか、右手に大きな三又の槍が現れた。社長はその槍を勢いよく薙ぎ払い、二体のゴブリンを仕留めた。そして、もう一体の飛びかかってきたゴブリンの腹を三又の槍で突き刺した。
わずか数秒のうちに三体の魔物は消滅した。
「おおー」
「凄いです!」
「えっ? お父さん?」
社長のその早業に、颯太達は驚きの声を上げだ。
社長はこちらを振り向くと得意げにポーズをとり笑っている。その社長の背中にゴブリン二体が近づいていた。二体のゴブリン達は手にナイフを持っている。
「お父さん!!」
飛鳥が慌てて叫ぶ。
「わかってるって」
しかし、社長は余裕の表情を崩さない。すぐに振り向くと、飛びかかってきた二体のゴブリンを槍で薙ぎ払い、真っ二つに切断した。
地面にゴブリン達の身体が落ちると、黄色い光を放ちながら身体は消滅していった。
社長は再び振り向きVサインをしてきた。
あまりに華麗な動きにみずきが自然と拍手をした。飛鳥は信じられないと言った様子で言葉を失っている。
(凄いな……。ウサギ狩りの時に見た時よりもずっと動きがよくなっている)
以前との違いに感心してしまった。
社長は、残りのゴブリン達には目もくれず、颯太達のところへ戻ってきた。
「凄いじゃないですか!! 社長!」
「へへへ、俺も少しは頑張ろうと思ってな実は毎日トレーニングしてたんだ」
飛鳥が声をかけると嬉しそうに社長は答えた。
「驚いたか? 飛鳥」
「うん。こんなお父さん初めて見たよ! びっくりした!!」
「そうか! そうか! あっはっは!!」
飛鳥とみずきに褒められて、社長は上機嫌だ。成長した実力を早く見せたかったんだなと社長の真の意図を理解し颯太は微笑ましい気持ちになった。
考えてみれば初めて会った頃の社長より、今の社長の方が随分すらっとしたような気がする。社長の努力が伺えた。
四人が話しているとまた二体のゴブリンが迫ってきた。短い槍を手にしている。
再び、颯太が戦おうとすると、
「今度は私がやります」
と、飛鳥が口にした。
飛鳥は素早く懐から拳銃を取り出すと、素早く二発撃った。弾丸は数メートル先のゴブリン達の額を正確に捉えたようで、二体のゴブリンは地面な倒れ消滅した。
「わぁー、飛鳥さんって拳銃使うんですね! しかも凄い腕前!」
飛鳥の実力を見たみずきは歓声をあげた。
「これぐらいしか出来ないけどね。戦闘系のスキルが出なかったからさ」
みずきに褒められて、飛鳥はまんざらでもない様子だ。言葉とは裏腹に顔を赤く染めながらとびきりの笑顔を浮かべている。
「いや十分凄いですよ! 正確に急所を捉えてるし、かなりの腕前です」
飛鳥の実力を初めて目の前で見た颯太も感心した。さすが飛鳥さんだなと舌を巻く。
「ありがとう颯太君」
颯太にも褒められ、飛鳥はさらに顔を赤くした。
「飛鳥は昔から射撃は得意だったからな。確かライフルも使えるよな」
「射撃系の武器はどれも得意ですよ。今日は持ってきてませんが、ライフルも使えます」
「そうなんですね。遠距離攻撃ができると戦闘の幅が広がりますね。流石です!」
「本当すごいですよ! 飛鳥さん」
素直に感心する颯太とみずきを前に飛鳥はひたすら嬉しそうにしていた。
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