第61話 壊滅

「さて、残りは……」

 男たちが菱田の方を振り向くと、菱田は立った姿勢で、自分の周りに結界を張っている。自分以外の三人が簡単に拘束されてしまったためか、その表情には恐怖の色が浮かんでいる。


「結界スキルか。初めて見る。おいっ芹沢、何とかしろ!」

 芹沢と呼ばれた男は、オールバックにした長い髪を頭の後ろでまとめている。一九〇センチはありそうな大男であった。

 芹沢は手に持っていたマシンガンを投げ捨てると、ゆっくりと菱田のもとに近づいて行った。そして、黄色のオーラを放出させると、そのオーラがゆっくりと巨大なハンマーに姿を変えた。


「さあ、どれぐらい持つかな!! いくぜぇえええええええええ!!!」

「待ってくれ!! もう任務は諦める!! 諦めるから逃がしてくれ!! 頼む!」

 芹沢が巨大なハンマーで菱田を覆っている結界を殴ろうとすると、菱田は、結界の中で土下座をしながら頼み込んだ。声は涙声になっている。


「おいおいおい! そっちからやってきて、うまくいかなかったから逃がしてくれはないだろう!! 情けなさすぎるぞ!なぁみんなぁ!!!」

 芹沢は周りいる仲間に向かってそう声をかけた。

「ああ! 都合が良すぎるな!!」

「あまりにもみっともない!」

「ざまぁねえな」

 芹沢は口元に笑みを浮かべている。周りの男たちもそれは同じだった。汚いものでも見るような視線を菱田に送っている。


「かまわん! やれ! 」

 リーダー格の桐生がそう口にすると、芹沢はまたハンマーを振りかぶろうとする。

 しかし、

「ま、待ってください!!! お願いします!! そ、そうだ!! お金、お金を払いますから!! 二億なら貯金があります!! 二億差し上げますからどうか逃がしてください!」 

 と、菱田は諦めず交渉を続けようとした。自分に迫る恐怖からか、その顔は涙と鼻水でびしょびしょだった。       


「お前二億も持っているのか!! 良いことを聞いた。その金はもらおう!!」

 桐生がそう口にすると菱田は安心したような顔を浮かべる。

「ありがとうございます!!! では、逃がしてください! 必ず、明日には金をお持ちしますので」

 菱田は生き残るために必死だった。あの、二家族集団失踪事件という凶悪事件の犯人が本当にこの男達だったらと思うと、自分も何されるかわからないと思っている。


 だが、

「二億はもらう。お前が死んだ後に。暗証番号は拷問して聞き出すから今言わなくても良いぞ! おい芹沢! 早くやれ!」

 桐生の冷たい言葉によって、再び地獄に叩き落された。目の前にしている敵の本当の怖さを実感し、体が無意識に震えてしまう。


「おうっ!」

 芹沢はハンマーを振り上げると、思い切り、振り下ろす。

 すると、「バーーーーーン」という音と共に芹沢のハンマーは結界にはじき返された。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 菱田は、あまりの恐怖に呼吸が絶え絶えになっている。


「おお! 思ったよりも頑丈だな! 良いスキルだ!」

 芹沢は感心したようにつぶやいた。


 自分の結界が破られなかったことに菱田は、少し胸をなでおろした。

(俺の結界はこいつの能力を相手にしても負けていない。これなら今すぐ捕まることはない。あと十時間は結界を維持することができる。なんとか隙をみて逃げ出そう!)


 そんなことを考えていると、芹沢がつぶやき始めた。

「俺のスキルは鉄錬成なんだ。鉄を錬成し、好きな形に変えることもできる。次は、これなんてどうだ!」

 芹沢は、手から直径一センチ、長さ一メートルほどの鉄の杭を錬成した。そして、

「辻川、これをこう持っててくれ」

 杭のとがった先を結界に当てると、その位置のまま辻川に持たせた。

 そしてまた、高くハンマーを振り上げた。


「やめてくれぇぇーーーー」

 叫ぶ菱田の声も聞かず、芹沢が振り下ろしたハンマーは杭を見事に捉え、ハンマーに打たれた杭は結界を貫いた。

 結界はバリバリ音をたて崩れ去った。

 結界を貫いた杭は菱田の肩を貫通した。


「うあぁーーーーー」

 あまりの痛みに菱田は叫び声をあげた。

「ばかやろう!! すぐに杭を抜いて止血をしろ!」

「すみません! 桐生さん!」

 それを見た桐生は怒鳴り声をあげた。叱られた辻川か慌てて菱田の肩の杭を引き抜き、止血を始めた。


 ♢     ♢     ♢      ♢     ♢


 建物内の全ての様子を探知していた飛鳥は身の毛がよだつような恐怖を感じた。リーダーである紫吹が簡単に拘束されたのを感知すると。すぐに決断ができた。

(なんて人達! 敵わない! 逃げて応援を呼ばなくちゃ!)

 飛鳥が焦ったまま門の方を振り向くと、いつのまにかすぐ後ろに一人のスーツを着た男が立っていた。

 飛鳥が、男を認識するのとほぼ同時に男は、飛鳥にスタンガンによる電撃を食らわせた。たちまち意識を失い、倒れる飛鳥を男は両手で受け止めた。


 そして口元に笑みを浮かべると

「ようこそ影心会へ」

 とつぶやいた。


 突入からわずか五分間の間に、能力者部隊は壊滅した。


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