第64話 到着

颯太は町田市の上空五百メートルの高さを飛んでいた。最高速で進んでいる、手に持っているスマホに開いている地図アプリによると、待ち合わせ場所はもうすぐだ。颯太の心は予期せぬ不安でいっぱいだった。飛鳥にもしものことがあったらと思うといてもたってもいられない。

(なんで先に突入じゃうんだよ!普通全員が揃ってからだろ!! 頼む! 無事でいてくれ! )


 スマホの時計を見ると時刻は五時二〇分であった。待ち合わせ時間から結局二〇分も遅れてしまった。もう二度と、現地集合はやめよう。と颯太は心に誓った。太陽はまだ上がってきてはいないが、あたりは明るくなってきていた。


 地図アプリでは自分の位置情報を表す青い点がついに目的地に重なった。目指す先は真下のようだ。颯太は、急降下を始める。風を切る激しい音が耳に響いてくるが、颯太は気にも留めない。ぐんぐん地上に迫って行く。


 上空五〇メートルあたりまで降りてくると、真下には日本古来の作りをした豪邸が広がっていた。そして、豪邸の門のすぐそばには白いバンと、社長が愛用しているSUVが止まっているのが見える。


(社長たちは飛鳥さんがもう突入したことを知っているのか? 一度声をかけようか)

そこまで考えてから颯太は頭をふる。

(いやいや、もし飛鳥さんの身に何かあったら最悪だ。すぐに俺も向かおう!! でも、どこへ行けばいいんだ?)

 下に広がる豪邸は広い土地の中にいくつもの建物が入っている。どこに飛鳥たちがいるのか全く見当もつかない。


(くそ! どうする? 俺にも探索スキルがあればいいのに。 しらみつぶしに探ってみるか?)

颯太が頭を悩ませていると、灰色の外壁を持つ巨大な蔵のような建物から一人の男が突然現れた。


 企業能力者がよく着ているバトルスーツを着ていることから、男が企業能力者だということはすぐわかった。男は全身血だらけで、足を引きずりながら歩いている。男が通った後には足を引きずった後と、垂れた血の跡ができていく。


 颯太はそれを見て、事態が尋常なものではないことを悟った。颯太は猛スピードで男の元に向かって空中を進んで行く。

 しかし、颯太が男に駆け寄るよりも前に、蔵から七名のスーツを着た男達が現れ、足を引きずって進む男に迫って行った。


 颯太は飛行速度を上げると、足を引きずる男の真横を抜け、スーツを着た影心会の一人に蹴りをお見舞いした。蹴られた男は十メートル以上は吹っ飛び、砂利の上に落ちると、しばらく進んで止まった。


 いきなり空中から現れた颯太に戸惑い、男たちの動きが止まる。颯太はその瞬間、地面に降り立つと、自分が体外に放出できる最大量のオーラを展開した。そして、すべての身体能力が四・五倍に上昇した颯太は、目にも止まらぬ速さで男達を倒して行った。


 男達は動き回る颯太に向かって弾丸を放つが、高速で移動をする颯太にはかすりもしない。颯太は鳩尾や首に強烈な一撃を与え続け、十秒ほどで全ての男を気絶させた。男達に能力を出す暇も与えない早業だった。


「あのっ!! 大丈夫ですか?」

颯太は、必死に逃げている男に駆け寄ると、後ろから声をかける。

「た、助けてくれ!! 頼む!! 奴らが、奴らがくるんだ!!」

男は必死すぎて颯太が倒したことにも気づいていない様子だ。

「大丈夫ですよ! 追ってきた奴らはみんな倒しましたから!!」

「もしかして、君は遅刻してきた能力者か!!」

「はい! その、作戦はどうなったんですか?」

「失敗だ!! 殺される!! みんな殺されるぞ!! 拷問されてるんだ!」

男の顔はこの世の全ての恐怖をはらんだような顔をしている。その表情から男の絶望が伝わってくる。


「拷問!? 飛鳥さんは無事なんですか!?」

男の言葉を聞いて、颯太の心臓は不安で張り裂けそうになる。

「わからない! 俺は気絶していたから……。だが、椅子に拘束されているのは見たぞ!!」

「わかりました。助けに行ってきます!」

颯太はすぐに突入する覚悟を決める。頭の中は飛鳥のことでいっぱいだった。


「君じゃ無理だ!! 中にはSSランクと同じレベルの力を持つ男がいるんだ! 応援を呼ばなければ!! 国家レベルの戦力がいる!!」

男の顔からは必死さが伝わってくる。


「行きます!それじゃあ間に合いませんから」

 しかし、颯太は止まる気持ちなど毛頭なかった。敵のレベルなんてどうでもいい。飛鳥だけは絶対に守る。という固い意志だけが心を占めていた。


「君も死ぬぞ!! 俺は見たんだ。建物を揺るがすような圧倒的なオーラを!!」

「死にませんよ! あなたは、門を出たところに停まっている黒い車の所まで行ってください。そこにはうちの会社の人達がいます! 状況を説明して、救急車や応援を呼んでください!」


「わかったよ!! 俺は忠告したからな!」

男はそう口にすると足を引きずりながら門に向かって歩いて行った。


颯太は急いでリュックから

緑茶(防御力強化四倍)

烏龍茶(素早さ強化六倍)

麦茶(攻撃力強化八倍)

を取り出し飲むと、超高速で建物に向かって駆けて行った。


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