第63話 巨悪


  ※注意 今回の話には過激な描写や残虐な描写が含まれます。

      そういった描写が苦手な方はお気を付けください。

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 影心会の男達は気を失っている菅原と斎藤を壁の近くまで引きずっていき、正座をさせた。菅原と斎藤の両腕は壁から垂れ下がっている鎖に繋がれている。何をするのかと、飛鳥が見ていると、信じられないことが起きた。金属錬成スキルを披露した城戸が、一メートルほどの鉄の杭を錬成すると、それを正座している菅原の右腿の上に当てた。そして、城戸が錬成したハンマーを使って、別の男が思い切り杭を叩いた。

 打ち込まれた杭は、太腿の肉を貫き、骨を砕いた。そして太ももを抜けた先にあるふくらはぎも同様に……。


「うぎゃああああああああああああああああああ」

 という激しい雄たけびを上げ、菅原は目を覚ました。あまりにも凄惨な拷問に飛鳥は目を背けた。

「何やってんだお前らぁあああああああああああ」

 菅原は大声を上げるが、男たちは手を止めようとはしない。城戸が錬成した鉄杭を、今度は左腿に当てると、またしてもハンマーで杭を打ち込んだ。

「やめてくれ! 頼む!! 死んじまう!!」

 菅原は必死に懇願するが、周りの男たちは口元に浮かべた笑みを変えようとはしない。結局、菅原の太ももには、合計六本の鉄杭が打ち込まれた。


 菅原は泣き叫びながら暴れようとするが上半身は鎖で拘束されており、身動きが取れない。

「悪かった! 頼む!! 許してくれ!!」

 菅原は心が折れたのか必死の顔で謝罪を始める。


 しかし、


「お前、車の中で随分調子乗ってたよな? 誰がクズだって? 俺らなんて一瞬で片付けるんじゃなかったのか?!」

 影心会の男たちは拷問をやめようとはしない。身動きの取れない菅原の身体をかわるがわる、何度も蹴り飛ばしていく。


 やがて気絶したのか、菅原が動かなくなると、次に斉藤にも同じように杭を打ち込んでいく。斎藤は、すぐに命乞いを始めた。銀行の口座番号も口にしたが、男たちの拷問は終わらない。


「やめなさい!!」

 その光景を見かねたのか、今まで黙っていた紫吹が口を開いた。

「うるせぇな! お前!」

 紫吹にある男が近づいてくる。そして紫吹の頭を右手でつかむと、何やら能力を発動させた。

「不思議そうな顔だな! 俺は体の中を操作できるんだ。今、こいつの脳みそをめちゃくちゃにかき混ぜたのよ! 見てみな! 面白いから」

 男が紫吹から離れた後に、飛鳥が紫吹を見ると、目玉は左右がめちゃくちゃに動き回っていた。口はだらんと開けたまま、涎を垂らし始め、「あう、あう」とか「ああああいああいあい」など訳がわからない言葉を発している。

紫吹のその姿を見て男たちは再び大笑いし始めた。


(狂っている。この人たちは人間じゃない!! こんなことを平気でできるなんて……)


 飛鳥は、あまりにも非人道的な行いに、ぞっとしていた。

しかし、今度は、飛鳥と菱田の方に蛾来と男たちは近づいてきた。


「お前らからは、血をもらうぞ一滴残らずな」

 蛾来と男は近づいてきて菱田の腕に針を刺した。すると、透明な輸血パックに向かって少しずつ血が管を通っていく。

「お!!って言うかお前!! よく見ると、めちゃくちゃ可愛い顔してるじゃねぇか!! もったいねえな! どれ、もっとよく顔見せろ!!」

 蛾来は顔を背けている飛鳥の顎を掴むと、無理やり自分の方に向けた。すると飛鳥の口に向かって自分の口を近づけてきた。


「やめて!!!」

 飛鳥はたまらず。拘束されている両足と両手を力の限り揺らしながら、蛾来の口を何とか避けた。。


「ドスッ!!」

 すると蛾来はすぐさま飛鳥の鳩尾を思い切り殴りつけてきた。

 今まで感じたことのない衝撃が飛鳥の体を貫いた。あまりの衝撃に一瞬呼吸が止まってしまう。


「ガゴッ!!」

 しかし、痛みに悶える暇もなく、蛾来は今度は飛鳥の左頬を思い切り殴りつけてきた。殴られた衝撃で、飛鳥の頭は後ろのコンクリートの壁にぶつかり鈍い音が響いた。あまりに激しい痛みに、飛鳥は意識を失うんじゃないかと思う。


 蛾来は壁に当たって跳ね返ってきた飛鳥の髪を掴むと大声で叫んだ。

「女だからって殴られないとでも思ってんのか?? クソアマ!! 俺はな、生意気な女が大嫌いなんだ!! それとなお前みたいな綺麗な女であればあるほど嬲りたくなるんだよ!! 血を搾り取られて干からびて死ぬ前に、向こうの部屋で襲ってやろうか!!」


 鳩尾と後頭部と右頬から伝わってくる激しい痛み。すぐ目の前で怒鳴り散らす蛾来……。殺されるんじゃいかという恐怖……。

 敵の手に落ちてから今まで、必死に心を保ってきていた飛鳥であったがもう限界だった。飛鳥の瞳からは大粒の涙が溢れ始める。


「はっはっは!! やっと自分の立場がわかったか!! お前みたいにとびきり上玉な女は奴隷にして、俺たちで楽しんだり、金持ちに売り払ったりする、手もあるんだがな。血液を抜いて売り捌いた方がずっと利益が出るんでな。血だけ抜いたらミンチにして東京湾に撒いてやるよ」


 蛾来は、飛鳥の腕にも採血針を刺していく、飛鳥はもう、あまりの恐怖に抵抗する気を無くしていた。針が左腕に刺さると、透明な管を朱色の血液が流れていく。次第に血液パックに溜まっていった。


 その流れる血を見つめながら飛鳥はぼーっとする頭の中で考える。

(痛い。頭も、お腹も、顔も……。私は今日ここで死ぬのかな……。血を全部抜かれて。颯太君に気持ちも伝えられないまま……。)

 すると、飛鳥の脳裏には走馬灯のように颯太の顔が浮かんできた。


 初めて会社にやってきた颯太……


 会社の危機的な状況を知っても、会社に残ると言ってくれた颯太……


 自分を気遣って、ボーナスを分けてくれた颯太……


 いつも全力で努力し続ける颯太……


 そして、最高のディナーデートをくれた颯太……


 飛鳥に微笑みかけてくる颯太の顔が一瞬の間に浮かんでは消えていった。そして、飛鳥の心には再び灯りが灯る。

(いやだ!! 絶対に死にたくない!! 私は颯太君に絶対に気持ちを伝えるんだ!! 颯太君と付き合っていっぱいデートするんだ! 死んでたまるか! 死んでたまるか!)


「颯太君が……、颯太君が助けてくれる。絶対に! 大丈夫。大丈夫……」

 いつしか飛鳥の心の中の強い思いは自分でも気づかぬうちに声に出ていた。


「あっ? 颯太?? あぁ、車の中で話してた遅刻してくるやつか!! 確かB級能力者なんだろ?? 笑わせるぜ! おい!お前らぁ!!」

 蛾来が叫ぶと、菅原や斎藤をいたぶっていた男達が動きを止め、蛾来の次の言葉を待っている。

「今からたった一人でB級能力者が来るらしいぜ!!」


「「「あっはっはっは」」」

 蛾来の声を聞くと男達は大爆笑する。


「おい女!! なぜ俺らが、警察が送り込んできた能力者とやり合っていて、こんなに落ち着いてられるかわかるか? 普通なら警察に睨まれた時点で優秀な能力者を送り込まれて終わりだよな!」

「……」

 飛鳥は静かに首を横に振った。


「絶対に勝てるとわかってるからだよ!! たとえ誰が来てもな!! 冥土の土産にいいもの見せてやるよ」

 蛾来はそう口にすると、上半身の服を脱ぎ始めた。ボディービルダーのような肥大した筋肉が現れる。


 蛾来は全身から金色のオーラを、放出し始める。すると、次第に蛾来の全身が金色の金属に変化していった。飛鳥の目の前には全身金色に輝く蛾来が立っていた。


「すげぇだろう!半年前にアメリカのSS級能力者から買ったんだ。三十億もしたんだぞ!!」

「だが、その力は無敵だ!!五十五万のオーラと、この金の肉体は全ての攻撃を跳ね返す!! これでわかったろう。お前の仲間もすぐに捕まる。お前らに待つのは死だけだ。わかったら大人しくしてろ」


「終わりだ。SSランクの能力なんて勝てるわけない!! もうだめだ。死ぬんだ。ごめん母さん。何もしてあげられなくて……」

 飛鳥の左側に拘束されていた菱田は先ほどの拷問が効いていたのか、今まで呆然としていたが口を開いた。子供のように顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっている。


(颯太君が負けるわけない! 颯太君なら……)

 しかし、飛鳥は颯太の力を信じていた。一ミリたりとも颯太の勝利を疑わない。


「おい! あいつがいねぇぞ!」

 すると突然、桐生が叫んだ!

 飛鳥が声の先を見ると、先ほどまで、鉄杭を足に打たれ、両腕を鎖に繋がれていた斎藤がいなかった。


「馬鹿野郎!! 絶対に逃すなよ!! 追いかけてとどめ刺してこい!! 逃したらお前らを殺すからな!!」

 蛾来はものすごい怒声を発した。

 男達は慌てて建物を出て行った。

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