第82話 作戦会議

「話を戻しますが、実は颯太は高校の頃から結構モテるんです!」

「えっ? でも颯太君はこの前、あまり自分はモテてこなかったって言ってたよ?」

 みずきの言葉を聞き、飛鳥は頭を傾げる。


「それは、颯太が知らないだけです。裏ではかなり人気がありました」

「そうなんだ。じゃあなんで颯太君は気づかなかったの?」


「私が裏で全部潰してましたから」

みずきは真顔で口にした。


「えっ? どういうこと?」

「颯太を好きになったり、気になっている子がいたら、色々な手を使って恋愛の芽を摘みました。颯太には好きな人がいるとか言って」

「……そうなんだ。なんかみずきちゃんすごいね!! 結構強引なんだね」


「好きな人と一緒になるためなら手段は選びませんよ、 当たり前じゃないですか! それにもう結婚することが決まってるわけですし。将来の旦那に寄りつく悪い虫は普通排除しますよね!」

 みずきは自分で口にして、改めて自分がしたことは当然だと思う。占い結果が出たあの日から颯太はもう自分の旦那だと思い過ごしてきていた。


「ま、まぁ、そうだね……。わたしが同じ立場でもそうしたかも。みずきちゃんほど徹底的にはできないかもしれないけどね」

 飛鳥は、言葉ではそう言っているが、顔は少し引いているように見えた。


 はたから見たら自分の行動がかなり異常なことをみずきは理解していた。そんな自分を変えようとは思わないが……。


「ふふっ! 飛鳥さん! やばいやつでしょ!? みずきって!!」

 みずきの言葉に呆気にとられている飛鳥に神宮がニヤリと口元に笑みを浮かべながらそう呟く。


「みずきは、顔はめちゃくちゃ可愛いから一年生の頃は、告白してくる人が後を絶たなかったんだけど、颯太狂いになってからは、周りの男に興味が無さすぎてめっちゃ冷たくしてたから、いつしか【氷の女神】って呼ばれてたんですよ」


「もう! そんなことまで言わなくていいよ!」

 まったく……。愛ちゃんは余計な事を言うんだから。みずきは神宮を視線で制する。


「私からしたらありがたい話だよ。颯太君は私の旦那さんにもなるわけだし。今まではみずきちゃんだけで頑張ってきたけど、これからは私も頑張るよ」


 ライバルであるはずの飛鳥になぜか感謝されてしまいみずきは複雑な気持ちになる。けれども、もう自分の中で飛鳥のことを二人目の妻として認めているのか、不思議と嫌ではなく自然と、

「ありがとうございます」

 と答えてしまった。


 顔を見ると飛鳥は穏やかな表情で微笑んでいる。近くにいると飛鳥の真心や優しさがよくわかる。短い付き合いの中でも、自分のことを全て肯定してくれるような懐の深さが感じられた。自然と好感度が上がっていってしまう。


(颯太がこの人を好きになった理由がわかる気がする……。他の人だったら絶対嫌だけど。なんか飛鳥さんは憎めないな)


 飛鳥には女性の自分から見ても特別な魅力が感じられた。自然とこの人となら上手くやれそうだと感じてしまう。


 みずきはぼーっと飛鳥の顔を見つめてしまう。何度見ても悔しいぐらい綺麗な容姿をしている。


「そっかぁー、やっぱりモテるのかぁー。そりゃそうだよね……」

 そんなことをみずきが考えていると飛鳥が口を開いた。その顔には嬉しいような悔しいような表情を浮かべている。


「わかるよ。私も何度か不破のことを良いなって思ったことあるもん。いつもすっごい優しいから」

 飛鳥の呟きに今はチーズケーキを食べている神宮が反応し、そう口にした。


「なにそれ!! 初耳なんだけど……。もしかして愛ちゃんが三人目?」

 みずきは険しい表情で愛を睨みつける。


「えっ?」

 みずきの言葉を受けて飛鳥も、じっと愛を見つめる。その表情からは警戒心が窺える。


「まさか! 良いなって思ったことがあるだけだよ! それに私、今彼氏いるし。言えないけど…今大人気のアイドルグループの一人」

 

 二人の厳しい視線を受け、神宮は慌てて否定する。かなり焦ったのか、驚きの情報を口にした。


「えっ? 彼氏さんアイドルなんですか? すごーい!! 誰ですか? 教えてください」

 飛鳥はアイドルという言葉に反応した。意外と芸能人とかが好きな性格なのかもしれないとみずきは思う。


「えー、だめですよー。バレたら大変なんですからー」

「良いじゃん! 絶対誰にも話さないから! ねっ?」

「どうしようかなぁー」

「愛ちゃんがアイドルと付き合ってようが、俳優と付き合ってようが、そんなことはどうでもいいよ! 飛鳥さん! それより作戦を考えましょう! 颯太をどこぞの馬の骨から守る作戦を」


 恋愛トークを楽しもうとしている二人にみずきは冷たく言い放つ。今はそれどころではない。


「ひどーい!! みずきって本当に颯太にしか興味ないよね!」

神宮は少し軽蔑の表情を向けてくるがみずきはそれには取り合わない。


「飛鳥さん、私はすぐにヴァルチャーに転職します。颯太に近づいてくるどこぞの馬の骨を一緒に遠ざけましょう!」

「うん! 分かった! 馬の骨撲滅作戦だね! なんかやる気出てきたよ!」

 

 飛鳥は、手でガッツポーズを作っている。作戦名は置いておいて、こういう無邪気なところはやっぱり可愛いと思ってしまう。狙ってやってるとしたらかなりの使い手だ。

 

 そんなことを考えていると、飛鳥が言葉を続けてくる。


「でも三人目の人って、誰なんだろうね? みずきちゃん、心当たりある? 高校の頃の友人とか?」

「そうですね。ある程度相手が誰か想定しておくのは大事かもしれないですね。えーっと、あった。これを見てください」

 

 みずきは鞄からスマホを取り出し、ある画像を表示させると飛鳥の前のテーブルに置いた。

 そこには、高校二年生の頃のクラス集合写真が写っている。場所は教室の中で生徒たちの後ろに黒板が写っている。


「えー! なにこれすごい! 高校の写真!? 」

「二年生の時のやつです」


 飛鳥は一気にテンションが上がったようで、キラキラした目で画像を眺めている。ちらっと神宮の方を見ると、さっきのみずきの言葉に気を悪くしたのか少しむすっとした表情でケーキを食べている。


「わっ! 高校生の颯太くんだ! かわいいー。なんか制服姿も良いなぁ! かっこいい!」

「そうですよね! この頃の颯太がまた……」

そこまで言いかけてみずきは言葉をとめる。


(ちがうちがう。見て欲しいのはそこじゃない。しっかりしろ私、大事な話し合いだ。颯太を褒められて嬉しくなってる場合じゃない)


「颯太は確かにかっこいいですが、そこじゃありません。飛鳥さんこっちです。この窓側の端に写ってる子を見てください」

 

 飛鳥の指差した先には、ウェーブがかかった金髪の女子が写っていた。肩までの美しい髪と、明るい笑顔が特徴的な美少女であった。


「綺麗な子ね? この子がどうしたの?」

「二年の春頃、颯太のことを好きになりそうとか言ってたので、潰しました」

「おお。すごいね!」

「次に、この子も見てください」


 みずきは今度は、教室の扉側の1番前の列にしゃがんでピースをしている少女を指差した。

 髪は黒色でボブにしている。小柄で可愛らしい見た目の少女であったが、先程の金髪の少女よりは地味に見える。


「この子は?」

「あともう少しで告白というところまで行きました。私と付き合ってるよ。と嘘を言って諦めさせました」

「やるね! みずきちゃん!」


 「他にも、一個上のこの先輩、一つ下のこの子が、颯太を狙ってました」

 みずきは、今度は二名の少女の写真を飛鳥に見せた。こっそり隠し撮りをした画像のため、正面からは撮れてはいないが……。


「すごいね。やっぱりモテるんだね」

飛鳥は感心したかのように呟く。

「颯太は全方位に優しいんですよ。八方美人なんてレベルじゃないんです。誰であっても優しくするから、簡単に女子が引っ掛かるんですよ」


 まぁ自分も飛鳥も引っかかった一人だけど。とは言わずみずきは言葉を続ける。


「今の四人は、多分もう大丈夫だと思います。他の生徒とそれぞれ付き合ってましたから」


「そっか、じゃあ誰なんだろうね。うちの会社で働いてても女の人と関わる機会なんて、あまりないからなぁ。浮気調査の依頼で来た人達のわけないし……」

「そうですね。うーん……。そうだ! 愛ちゃん!」

「なに?」

 みずきは、チョコソースがたっぷりかかったパンケーキを食べている神宮に声をかける。


「もう一人の人の名前って占いでわからないの?」

「不破とその人がもう出会っていたらうまく行くかもしれないけど、まだ出会ってなかったら名前はわからないよ」

「明日、一回だけ占ってよ! そして結果を教えて!! もう出会ってる人だったらわかるんでしょ?」

「えーやだよ! 何度も言うけど貴重な一回なんだよ?」

神宮は、心底嫌そうな顔をするが、みずきには通用しない。


「愛ちゃんが風邪で寝込んでる時に、締切ギリギリのレポートを代わりにやってあげたの誰だっけ?? 当時好きだった後輩に、代わりに手紙を届けてあげたの誰だっけ??」


「分かったよ! はい! わかりました! だからもう言わないでよ! みずきにはいっぱい助けられましたよ! 明日朝一で占って結果を教えるから」

「ありがとう! 恩にきるよ」

「まったく……」

 神宮は大きめに切ったパンケーキを勢いよく口に放り込んだ。


 


 やがて、流石に満足したのか、神宮は先に帰って行った。神宮が帰った後も二人は、三時間ほどの時間をかけて、三人目をどう排除するかについて今後の方針を話し合った。




 










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