第81話 共闘

「なんなのよ!! 颯太は種馬なの? 十二人って! 一人で少子化問題に対抗するつもり? アホなの?? 颯太のやつ!! 絶対に許せない! ねぇ! 飛鳥さん!」

みずきは同意を求める視線を飛鳥に送る。


「そうだね! さすがに颯太くんやりすぎだよ! 私とみずきちゃんがいるのに、なにが不満なんだって感じ!! しかも、もう一人の人と五人も子供を作るなんて!!」

飛鳥も全く同じ気持ちのようだ。みずきが今までに見たことがないほど興奮している。


 怒り狂う二人の横で、神宮は黙々とパフェを食べている。


「飛鳥さん! さすがに私は三人目は認められないんですけど。飛鳥さんはどうなんですか?」

「私もやだよ! みずきちゃんがいるだけでも一緒にいられる時間が半分になっちゃうのに、もう一人なんて……」

「そうですよね!!」


(良かった!)

 みずきは胸を撫で下ろす。飛鳥にもう一人ぐらいなら、とでも言われたらどうしようと心配していた。


「飛鳥さん。こうなったら……」

「うん……」


 みずきと飛鳥は視線を重ねる。その視線、その表情から、みずきは飛鳥と完全に心が繋がっている事を感じた。今はもう、互いに敵意を抱いていない。むしろ……。


「ねぇ! あいちゃん!」


 みずきは、チョコレートパフェの下の方に埋まっているコーンフレークをスプーンで救おうとしている神宮に声をかける。


「わっ!」

 突然名前を呼ばれたことに驚いたのか、神宮は体をビクッとさせた。


「その占いって、本当に百パーセントなの?」

「しつこいなぁ! 間違いないよ。今まで数百件の依頼をこなしてきたけど、外れたって言う話は聞いた事はないよ」

「そうなんだ。じゃあさ、未来を変えることって出来ないのかな? 一度結果が出たらその未来は絶対に変わらない?」

 飛鳥も真剣に神宮に尋ねる。


「いや、未来を変えることは不可能じゃないと思う。運命って言うのはすごい力だから簡単ではないけれど。例えば今、私が不破を呼び出して、ナイフでいきなり心臓を突き刺したとするじゃん? そうすればさっきの未来は無くなるよ!」

「冗談でもそんなこと言わないで!!」

「ええ! 考えただけでもぞっとします!! やめてください!」

 

 神宮はわかりやすい例えを使ったつもりだったが、二人の顔は激しい怒りに満ちていた。


「ご、ごめんって! ただの、例えじゃん! そんなに睨まないで! お願いだから!! 」


「まったく! あいちゃんに颯太が殺せるわけないじゃん! 今の颯太はすっごく強いんだからね! まぁでも、つまり未来は絶対ではないってことね」

 みずきは満足そうに口にする。


「そうだよ! 確率はかなり低いと思うけどね。努力次第では未来に影響を与えることはできると思う!」

「良かった……」

 神宮の答えに飛鳥も安堵の表情を浮かべたのがわかる。


 みずきは飛鳥に向かって口をひらく。

「飛鳥さん」

「ええ!」


 二人の心は固まった。言葉を交わさなくてもなにを考えているか互いにわかる。

 それは、


(二人で協力して、三人目の女が颯太に近づいてくるのを全力で阻止しよう)

 

と言うことだった。


「なんとしても阻止しましょう!」

「はい!」


 二人は固い握手を交わした。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「それで、どういう作戦で行くの?」 

飛鳥はみずきに訪ねてくる。颯太に近づいてくる女の人を排除するための作戦を。


「はい。まずは私がヴァルチャーに転職します。そして私と飛鳥さん、二人で変な女が近づいてこないか見張りましょう!」

「えっ? 転職!?」

「はい。前に飛鳥さんのお父さんからオファーは受けてますので。転職します」

「そんな理由で転職しちゃっていいの? 病院で働いているってことは、人を助けたり治療したりする仕事がしたかったんでしょ?」

「もちろん、自分の能力を使って多くの人を救いたいっていう気持ちはありましたけど、それ以上に私は颯太との未来のために今の病院に入ったんです。別に、人を救うのに病院である必要はありませんでした。能力者企業に入って、回復役として活躍する道もありました」

「えっ? 颯太君のため?」

自分の言葉を聞いて、飛鳥が目を丸くするのがわかった。


(仕方がない。自分でもやりすぎなのは分かっている。でも私は……)

 

飛鳥は今まで誰にも言ったことがないことを初めて口にしようとする。


「他にも良さそうな病院からいくつもオファーはあったんです。でも、今の病院が一番お給料が良かったので……」

「……」

飛鳥は静かにみずきの次の言葉を待っている。


「颯太は、高校の頃からものすごい努力家でした。毎日、訓練室にこもってトレーニングを行っていました。でも、スキルが出なかったから、なかなか結果は出せませんでした。就活の際も一人だけ社会から相手にされませんでした。だから、私は決めたんです! 颯太がもし、社会に出てからも結果を出せず、例えボロボロになったとしても私が颯太の全てを支えようって!! だから、一番条件の良い会社に入って必死に働いてきたんです! でも、今や颯太は覚醒しました。今の颯太ならこの社会の中で間違いなく大活躍をしていくことができます! だから、もう私は、お金のためだけに働く必要はないんです!」


そう口にして、みずきは自分が改めて異常だと思う。


(ほんと、どんだけ颯太のことが好きなんだよっつ感じだよね。でも、この気持ちだけは抑えられないんだよ……。どんなことがあっても……)


 全てを口にして、みずきはさすがに飛鳥にも引かれたと思った。やばい女だと思われたと。

恐る恐る飛鳥の方を見てみると、


飛鳥は顔にハンカチを当てながら泣いていた。

「飛鳥さん?」

「ぐずっ、ひぐっ……、ごめんなさい……。なんか感動しちゃって……。」

涙を流す飛鳥を見て、一瞬戸惑うが、みずきは次第になんだか胸が暖かくなってくる。


(私のために泣いてくれてるの? 絶対ひかれると、思ったのに……。やっぱり飛鳥さんって……)

 飛鳥の優しさを受けてみずきの中で飛鳥の評価が自然と上がってしまう。


「みずきちゃんって本当に颯太君のこと、大切に思ってるんだね!」

「そうですよ! それだけは誰にも負けません! 分かってくれたなら颯太を譲ってください」


「申し訳ないけどそれはできないよ。私も颯太君に本気だから」

飛鳥は涙を拭いながら顔をあげて答える。その表情からは意志の強さが伝わってくる。


「はぁ。そうですか……」

ダメもとで言ってはみたがやっぱりだめだった。みずきは少し悔しくなり、ちょっと攻撃を仕掛けることにする。


「そういえば、さっき颯太とキスしたって言ってましたよね」

「えっ? うん」

「颯太は飛鳥さんとが最初ではないですよ。高校の時、私がもうしてますから」

「えっ!? いつ!?」


 飛鳥はこれにはさすがに驚いたようだった。苦虫を噛み潰したような顔をこちらに向けてくる。みずきはその視線をむしろ心地よく感じながら言葉を続ける。


「高校の時、休みの日に何度か颯太の部屋で泊まりでゲームをしました。その時、寝てる颯太に」

「寝てる颯太君に!? は、犯罪じゃないですか!?」

「うわー、みずき。それはさすがにひくよ」


 驚く飛鳥の横で、夢中でモンブランを食べていた神宮も手を止め、そう呟いた。


「良いんです! もう占い結果が出た後でしたから。未来の旦那にキスぐらいしてなにが悪いんですか! それに! 付き合ってもいないくせに颯太を家に泊めて、同じ布団で寝た飛鳥さんに言われたくありません!!」


「確かにそうだけどさ。なんかみずきちゃんって、颯太君のことになると頭からぶっ飛んでるんだね!! 私も人のこと言えないけど」


「みずきは昔からこうでしたよ! 良かった。私以外にも分かってくれる人がいて。みずきは外面がいいから、ヤバい人ってのがあまり伝わらないんです」


 飛鳥の言葉を受けて神宮がうんうんと頷いていた。


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