第80話 占い結果
電話をかけてから約十分後、神宮愛がやって来た。神宮は日本人形のように艶のある長い黒髪と大きめの黒縁眼鏡が特徴的であった。今日も紫色のアイシャドウをしており、どこか怪しい雰囲気が感じられる。
神宮は呆れているような表情を浮かべながら、空いている椅子の後ろにリュックをかけてから椅子に座った。
「全く! みずきは相変わらず強引なんだから、せっかく楽しく買い物をしてたのに! たぶん私が行かなくても大丈夫って言ってたじゃん」
「そう言わないでよ。高校の時散々宿題見せてあげたじゃん。」
「確かにそうだけどさ」
「好きなものなんでも奢るからさ。あいちゃん。確か甘いもの大好きだったでしょ?」
神宮愛は見た目はすらっとしているが、高校の同期の中で一番の大食いであった。特に甘いものだったら無限に食べられるんじゃないかと感じるほどだった。
「もぉー私の占い、一回三百万なんだよ。しかも一日に三回しかできないのに! しょうがないなぁ。じゃあこの店のスイーツ全種類奢ってよね!」
「ごめん。ごめん。わかった! すぐに注文するよ」
みずきは、すぐにメニュー表を開き、デザートを手当たり次第注文した。二人のやりとりを飛鳥は静かに見守っていた。
「で、何を占えば良いの?」
「前に私にしてくれた奴を飛鳥さんにも」
「ああ、誰と結婚して、何人子供産むかってやつね」
「そう! それ!」
神宮はリュックから透明な水晶を取り出すと、紫色のオーラを放出し始めた。オーラは水晶の周りを漂い始めると、やがて水晶が輝き始める。
「終わったよ! 言っていいの?」
三分後、占いが終わったのか水晶は輝きを失った。されと同時な神宮が口を開いた。
「お願いします」
飛鳥は答える。
「わかりました。 えーゴホン!」
神宮は、一度小さく咳払いをすると口を開く。
「結婚相手は不破颯太。子供は三人できるよ」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
その言葉に、まずみずきが声を上げた。続いて飛鳥も。二人の反応を受けて神宮も驚いた。
「相手は颯太!? 子供は三人!?」
「うん。そうだよ。間違いないよ」
「えぇぇーーーーー」
「やったぁあーーー」
みずきの悲鳴と飛鳥の喜びの声が同時に店内に響いた。周りの客がビクッとしながらこちらを見てくるが今のみずきはそんな事を気にしている場合じゃない。
「ちょっと! 間違ってんじゃないのその占い!!」
「失礼ね。百パーセントあってるわよ」
みずきの問いかけに神宮は憮然としながら答える。
「今日調子悪いとか」
「ない!」
「腕が落ちたとか」
「ない!」
「絶対に?」
「ない!」
みずきは、ガクッと肩を落とした。
「でもどういうことなのかな。前、みずきさんが占ってもらった時は颯太君と結婚して子供が四人なんでしょ? そして今私を占ったら颯太君と結婚で子供が三人。未来が変わったのかな?」
飛鳥は、口元に抑えきれない笑みを浮かべながらそう口にする。
「うーん。99.99999%未来は変わってないと思うけどな。でもどうなのかな。こんな結果は初めてだから私にもわからないや」
「……って」
「えっ?」
「もう一回占って!」
「えー、やだよ。一日三回しかできないんだって。一回三百万なんだよ?」
「払うから! 三百万でも六百万でも払うから! 早く占って!」
みずきは自分では気づかないが鬼のような形相を浮かべている。
「わかった! お金はいいからさ! とりあえず座ってよ。怖いからその顔やめて!」
神宮は、諦めたようだった。
三分後。結果はすぐ出た。
「結婚相手は不破颯太。二人の間に四人の子供が生まれるよ」
占いの結果は以前と変わらなかった。
「前と一緒だ。どういうこと?」
「考えられるのは一つしかないよ」
みずきの言葉に神宮が答える。
「なに?」
「なんですか?」
「ほら、五年くらい前に法律が変わったじゃん」
神宮の言葉を受けてみずきは五年前に、施行された法律を思い出した。
「まさか……。重婚?」
「うん」
五年前に少子化対策として重婚の制度ができたのはみずきも知っていた。その制度は一定の収入の上限をクリアすれば男女問わず複数人と結婚できるという制度である。
みずきはすぐにスマホで重婚の制度を調べた。
出てきたサイトには、
五億以上の資産、または三年連続で二億以上の収入があるものは二人と結婚することができる。
また、十億以上の資産、または三年連続で四億以上の収入があった者は三人と結婚することができる。
いくら資産があっても四人以上は認められていない。
と書かれていた。みずきは文章を一気に読み切ると顔を上げた。
「まさか、颯太はこの制度を使って……」
「それしか考えられないね! 凄い! 颯太君、そんなに稼ぐんだ!」
飛鳥はなぜか嬉しそうに笑っている!
「驚くところはそこじゃないですよね! 重婚ですよ、重婚! 颯太が自分以外の人とも結婚するんですよ! 嫌じゃないんですか?」
「私は別に良いかな。颯太君と一生そばにいられるなら。三人も子供ができるみたいだし、きっと幸せなんだと思うよ。自分が選ばれないより何百倍もまし」
「……確かにそうかもしれませんが」
「大丈夫だよ。颯太くんはきっと平等に愛してくれますから。心配しなくても」
飛鳥の言葉を聞き、みずきは驚愕する。
(なんて……、なんて、度量が深いんだ! 飛鳥さんは!! 自分が小さく感じてしまう。言ってることは一理あるけど)
颯太は必ず幸せにしてくれる。飛鳥というお邪魔虫が居たとしても十分お釣りが来るほど、結婚相手として価値があることはみずきも理解することができた。
(でも……。でもなんか釈然としない……)
自分が独り占めして、結婚して二人で幸せになる。そんな未来を三年間思い描いてきたみずきとしてはすぐに受け止められることではなかった。
「子供三人かぁ。男の子かな? 女の子かな?」
みずきは目の前で嬉しそうにしている飛鳥を見た。
認めたくはないが目の前に座っている飛鳥が自分の次ぐらいには颯太を思っていることは間違いない。みずきの直感もこの人は悪い人ではないと感じてしまっていた。
みずきが悶々としているとひたすら運ばれてきたパンケーキを食べていた神宮が口を開いた。
「それにしても不破は以外とプレイボーイだな。こんなに美人の二人をものにした挙句、合計七人も子供を産ませるんだから。三年間、落ちこぼれてたのが嘘みたいだね」
(確かに。容姿は確かに悪くはないが別に飛び抜けてイケメンなわけではない(私は大好きな顔だけど)颯太が。三ヶ月も経たないうちにこんな美人をここまでメロメロにするなんて。私は颯太を侮っていた! なんたる人たらし。まぁ、私も入学してすぐ好きになったけどさ……)
「はぁーーー」
みずきは大きなため息を吐くと覚悟を決めた。
「わかりました。飛鳥さんのことは受け入れます。そのかわり絶対に颯太のことを幸せにしてくださいね」
「ありがとう。任せて! 私は能力は大したものじゃないけれど、それだけは自信あるから! 一緒に颯太君を支えようね!」
飛鳥は満面の笑みを浮かべている。その顔があまりにも無邪気でみずきにも可愛く見えてしまった。
「はぁ、なんでこうなるのやら」
正直、心の中では嫌で嫌で仕方がなかったが、仕方がない。絶対に当たる占いで出てしまったのだ。受け入れるしかなかった。それに、少しだけ勝ったと感じる部分もある。その情報がわずかにみずきの心に優越感を与えていた。
それは、
(私の方が飛鳥さんより一人、産む子供の数が多い)
ということであった。
正直、みずきから見ても飛鳥は絶世の美女に見える。別に負けている気はしないが。贔屓目に見ても自分と同じくらいの容姿はあるだろうと認識している。
その飛鳥に、子供の数で勝ったことは嬉しいことであった。
しかし、みずきの心に浮かんでいる小さな優越感が飛鳥の次の一言で一気に不安に変わった。
「颯太くんならいくらでも稼ぎそうだよね。十億なんて余裕なんじゃない?」
「十億……?」
飛鳥の何気なく発したその言葉を聞くとみずきは、自分の体に雷が落ちたかのような衝撃が走った。目の前に座っている飛鳥も自分が口にした一言でみずきと同じことに気づいた様子に見える。
口まで運んだパンケーキを食べずに固まっている。
二人は視線を交わすと、同時に叫んだ。
「まさか!!」
今度はひたすらチーズケーキを食べている神宮を同時に見ると飛鳥が叫んだ。
「神宮さん! もう一回占えますか?」
「えっ?」
神宮は訳がわからないと言った顔でポカンとしている。自分の仕事は終わったのだ、あとはできるだけたくさんケーキを食べるだけなのにとでも言いたげな顔だ。
そんな神宮にみずきも焦った表情を浮かべ叫ぶ。
「一日三回できるんだよね? あと一回できるよね?」
「待って待って、本当に無理だって! 夜中に急な依頼が入ることもあるんだよ。一回は残しておきたいの!」
神宮は絶対に嫌だと言うように叫ぶ。だが……
「お願い! 私たちの人生に関わることなの!」
みずきは机に頭を擦り付けながら頼む。
「お願いします!!」
飛鳥も同じく真剣な顔をしながら頭を下げた。
「はぁー…わかったよ! でっ、何を占えばいいのよ!」
二人の必死さに、根負けしたようだった。
「颯太が何人と結婚するか、そして何人の子供ができるか。ですよね!」
「はい」
なんで私がこんなこと、と何やらぶつくさ言いながらも神宮は占いを始めた。
(今度、不破にあったら絶対殴ってやる)
と思いながら。
「出たよ」
「「ゴクっ」」
二人は固唾を飲んで身構える。
「不破颯太。結婚相手は三人。作る子供は十二人」
「ばたっ!」
その声を聞いた飛鳥とみずきは同時に机に突っ伏した!
「まさかとは思ったけど。私たちの他にも一人いる……」
「しかもその人との間に五人の子供……」
みずきに続いて飛鳥もつぶやく。
「「あの浮気者ぉーーーー」」
みずきと飛鳥の叫び声は奇跡とも思えるほどシンクロし、店内に響き渡った!!
周りの客はビクッとしながら恐る恐る二人を見ていた。
二人は、まだ付き合ってもいない男に怒声をぶつけるのだった。
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