第23話 謎
颯太が席に戻ると三人は有希の持っているスマホの画面を見ていた。
「何を見ているんですか?」
「何でもないです!」
颯太が尋ねると飛鳥は慌ててスマホの画面を手で隠した。
「なんだ?別に颯太に見られても良いだろ!横にいたんだし」
猛はそんな飛鳥を横目で見ながら楽しそうに笑っている。
「やだよ、見られるの恥ずかしいよ! 颯太君が逃げるから私がやるはめになったんだからね!」
ここまで聞いて颯太はようやく昨日のインタビューのことだと分かった。
颯太は普段あまりスマホもテレビも見る方ではないため、実際のインタビュー映像を見ていなかった。
「どんなふうに映ってるんですか?」
「ほら見てみろ!」
「あぁ、ダメだって言っているのに!」
颯太が興味を示すと有希はスマホを颯太に渡した。飛鳥が邪魔をしてきたが有希が颯太に渡すのが一瞬早く、スマホは颯太の手に渡った。渡されたスマホの画面には、ある動画投稿サイトの映像が映っていた。
飛鳥が嫌がっているのは分かってはいたが、見たいという好奇心を抑えることが出来ず、申し訳ない気持ちと共に再生した。
映像が流れ始めると飛鳥がハキハキとした様子でインタビューに答え始める。少し前までお酒を飲んでいたとは思えないほどはっきりとした受け答えをしていた。改めて見ても水色のワンピースと白のカーディガンが飛鳥の大人らしい雰囲気によく似合っている。映像を通して見ると、より美しさが際立っていた。
インタビューは進んでいき、最後に飛鳥は、
「今回の事件は株式会社ヴァルチャーが解決しました。なにかありましたら私どもにご依頼ください」ととびっきりの笑顔で宣伝して動画は終わった。
動画が終わると颯太は顔をあげた。
「凄くいい感じじゃないですか!! なにも恥ずかしがることないですよ! これなら知名度上がりますね!」
「朝とお昼のニュースで流れたんだ。再生数見てみろよ」
どこか得意げな様子で猛がそう口にした。
「えっ?」
颯太が動画の再生画面を見ると驚きの声をあげた。そこには三万六千再生と表示されていた。
「すごい!こんなに再生されてるんですか?」
颯太は数え間違いじゃないかともう一度確認したが数え間違えてはいなかった。
「ああ、やばいだろまだ投稿されてから半日ぐらいだぞ!今プチバズり中なんだ」
「私たちの遺伝子は優秀だからな。よくやったぞ飛鳥」
有希は飛鳥の頭を右手でなでながら誇らしげにしている。
「宣伝のために仕方なく受けたけど、やだよ私……。注目されるの好きじゃない」
飛鳥はあくまでも不満げであった。どうやら目立ちたがり屋ではないようだ。
「飛鳥のおかげでチャンスが来たんだ。多分明日から仕事がたくさん舞い込むぞ!」猛も上機嫌だ。もう何杯目かわからないビールを口にしている。
「次こうなった時は颯太君がインタビュー受けてよね」
「わかりました」
颯太は苦笑いを浮かべながら答える。
すると有希が「いや、颯太はだめだ。これから先も飛鳥、お前がインタビューは受け続けろ」
「えっ?なんで颯太くんじゃだめなの?」
飛鳥はキョトンとしている。
「そりゃあ僕じゃだめですよ。飛鳥さんみたいな綺麗な人だからバズってるのであって、僕が映ってもだめです」
飛鳥の容姿は普段芸能人などにまったく興味を示さない颯太も認めるほどずば抜けている。飛鳥がその気になればいつだってモデルやアイドルにもなれると颯太は本気で思っていた。
「綺麗な人って……。やったっ」
颯太の言葉を聞いて飛鳥は酔いで赤くなっている頬をさらに赤く染まった。
「颯太くんだって十分かっこいいのに……。」
飛鳥の言葉はどちらも小声であったのと近くの席で盛り上がる声に消され、誰にも聞こえなかった。
「いや、容姿の問題じゃないんだ。うちの会社として颯太の存在は隠しておきたいんだ。なぁ、猛」
「あぁ」
猛も有希に同意した。
「えっ?どういうことですか」
颯太は驚きながら質問した。
「さっきのインタビュー動画なんだが、結構コメントが入っているんだ。まぁ見てくれ。」
有希はスマホで先ほどの動画サイトを開き、飛鳥のインタビュー動画のコメント欄を飛鳥と颯太に見せた。そこには、飛鳥のことを絶賛するコメントが数多く並んでいた。
「ヴァルチャー。聞いたことないけど女の子は超美人だな」
「可愛すぎる。この子も能力者なのか?」
「事件の解決、良かったです。それにしてもこの美女は何者?会社の広報かな。」
「飛鳥さん、大人気ですね!凄いです!」
「恥ずかしいよ……。まぁ悪い気はしないけど……」
飛鳥はほんの少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
「違う違う、見てほしいのはそこじゃない。」
有希は2人からスマホを受け取ると画面をスライドさせた。そしてしばらくすると手を止め、飛鳥と颯太に画面を見せた。
「ほら、こういうコメントだ」
そこにはこう書かれていた。
「少女を無傷で救出し、四人の犯人を倒すなんて凄いよな。何者だろう?」
「間違いなく能力者によるもの。それもかなりの手練れ」
「遠くから見ていた人によるといきなり少女が消えて、次に犯人たちが勝手に倒れたらしい」
「この女の子かわいすぎ。でも倒したのはこの子じゃないだろ。誰?」
「くっそ。なんで映像撮れてないんだよ。映像があればある程度考察できるのに」
颯太はスマホの画面から目を離すと有希の方を見た。
「えっと?どういうことですか?」
「颯太、お前のことが書かれているんだよ。正体不明の能力者として一部の人間から密かに注目が集まっているんだ」
「俺がですか?」
「ああ、飛鳥に対するコメントがほとんどだが、一割ほどはお前の、正体に関するコメントだ。映像がなにもなかったからな。関心を得ているんだ」
「なるほど」
「そこでだ。会社の方針として颯太の正体は非公開にしようと思う」
有希は堂々とした態度でそう言い放った。
「えっ?」
有希の発言を受け颯太は驚きの声をあげた。言っている意味が全くわからない。
「どういうこと?」
飛鳥も何を言っているのかわからないといった表情を浮かべながら首を傾げている。
「ふふふ、意味が分からないと言った様子だな。まあいい。一から説明してやろう」
二人の驚きの表情を見た有希は満足げな様子で一口ハイボールを口にした。ジョッキを机に置くと話し始めた。
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