第24話 感謝と作戦終了

「人間はな、謎が好きなんだ。正体がわからないものとか、伏線とか、ミステリーとか。自然に身体が求めてしまうようにできているんだよ。こんな田舎のちょっとした事件でもこれほど反応があるほどに。」

 

 有希がスマホの画面をスライドさせると、確かに事件を解決した能力者に関するコメントがいくつもあった。

 颯太は有希の話を受けてなんとなく話が見えてきてはいたが、まだぼんやりとしたものであったため、有希の次の言葉を静かに待っている。


「だからな。颯太にはこのまま、謎の存在として活躍して行ってもらいたいんだ。正体不明のまま活躍を重ねていけばより多くの注目をうちの会社に集めることができるからな」

「なるほど……」


 有希の説明を聞いて颯太は話の確信がやっと理解することができた。頭の中で少し考えてたが、有希の言うことはたしかに一理あるなと思えた」

「会社を大きくするための戦略なんですね」

「そうだ。頼めるか?私と猛はぜひやってもらいたいと考えているが、もちろん無理にとは言わない。だが、できることならお願いしたいんだ」


 有希と猛は丁寧に頭を下げた。

「別にそれぐらいだったら協力できると思いますけど……。あの、僕はどうすればいいんですか? 人目につく任務もありますよね?」

元より自分にできることであれば何でもする覚悟の颯太であった。会社からの頼みを断る理由はなかった。しかし、任務にどのような影響がでるのかが気になり質問をした。


「外国の特殊部隊が使用しているようなシールド付きのヘルメットを今、知り合いの業者に特注で作らせている。おそらく明後日にはできるだろう。外で任務を行うときはそのヘルメットを使ってくれ」

「わかりました。」


「凄いね。もう準備してあるんだ」

 飛鳥は猛に小声で尋ねた。

「ああ、俺もさっき聞いたんだけどさ。颯太のことについて書かれたコメントを、見て閃いたらしい。さすが有希だぜ」


「なるほど。それくらいならできそうですね。一生正体は隠さなければならないのでしょうか?」

有希と猛がなにかこそこそ話しているのが少し気になったがそれよりも大切なことがあったため颯太はまた有希に尋ねた。


「まさか。会社に注目さえ集まれば良いんだ。お前への注目が極限まで達したとき、正体を明かせば良い。ふふふ、良い宣伝になるぞ」

有希は口元に笑みを浮かべている。


「……」

颯太は、自分の仕事がどう変わるのか、様々想像してみたがいまいちイメージができなかった。


「お前、この前言ってたよな。大活躍して、高校の同期たちに自分の力を証明したいって。」

「はい」

「その目標からしてもこの作戦はちょうど良いぞ。お前の正体に注目が集まってからネタバラシした方がずっと面白い。お前の力は圧倒的なんだ。これから先もこれ以上の活躍を続けていくだろう! 昨日みたいな小さな事件を解決したぐらいで注目されてもつまらないだろ!」


 (確かに、俺の願いは同期たちが誇りに思えるような自分になることだ。この作戦はちょうど良いのかもしれないな……)

有希の言葉を受けて颯太の覚悟は決まった。

「わかりました。やります。」

「よし。決まりだな。この作戦がうまくいけば会社はさらにでかくなるぞ。頼んだぞ!」

猛はガッツポーズをしてから颯太の肩をポンッと叩いた。

「はい」

肩に伝わってくる感触から、猛や有希が自分に期待していることが伝わってきて颯太は嬉しかった。心の中で静かにこれまで以上の努力をしていくことを誓った。


 店から出ると、猛は珍しくふらふらになるまで飲んだ有希に肩を貸しながら自宅兼会社がある建物に帰って行った。


 颯太と有希は、八王子駅に続く道を歩いていた。午後十一時のこの通りは、人通りも少なくなってきている。たまに通る車の明かりやビルの明かりが美しく輝いており、日中よりも幻想的な雰囲気が漂っている。颯太はこの時間の八王子駅前が好きだった。

 遠くには以前、屋上に不法侵入した。ミレニアムタワーが見えた。

颯太がぼーっと歩いていると急に右隣を歩いていた飛鳥が声をかけてきた。

「颯太君ちょっといい」

「はい」

颯太と有希は通りに面している広場の横で立ち止まると、歩いている人の邪魔にならないように少し広場の中に入って行った。

「どうしました?」

「ミッションボーナスのことだけどさ。本当にありがとう」

飛鳥は颯太に深々と頭を下げた。三つも年下の後輩に丁寧に頭を下げることできることから飛鳥の律義さが颯太には伝わってきた。


「気にしないでください」

「本当に良かったの?自分のお給料が減っちゃうんだよ?嫌じゃないの?」

飛鳥は頭をあげると、極めて申し訳ないと言った顔をしながら颯太に尋ねる。

「別に、今そこまでお金を必要としているわけじゃないですし。さっきも言いましたけど飛鳥さんと一緒に仕事をする機会が多いのに報奨金が違うのは嫌ですよ」

「いいのに。私のことは気にしなくても……。ごめんね」


颯太のことを気遣い、しょんぼりする飛鳥が颯太にはたまらなくかわいく見えた。

「飛鳥さんはミッションボーナスが増えたの嫌でしたか」

「ううん。すごく嬉しかった」

「なら良かったです。飛鳥さんが嬉しかったなら僕も嬉しいですから」

颯太の言葉を聞いた飛鳥はの眼には涙が浮かび始めた。体も小さく震えているように颯太には見えた。


飛鳥はしぼりだすかのように小さな声で

「どうして私のためにここまでしてくれるの?」

と尋ねた。

この質問は颯太にとって、今までで一番簡単な質問だった。これなら颯太は一秒で答えることができる。

「いつも助けられてますから……。飛鳥さんはもっと報われるべきですよ」

 颯太の言葉を聞いた瞬間飛鳥の瞳からは大粒の涙がこぼれた。そして、涙が地面に落ちるよりも前に飛鳥は颯太に抱きついていた。

「ありがとう」

飛鳥の言葉にならない声が耳に届くと、颯太は優しく飛鳥を抱きしめ返した。

胸の高鳴りが伝わらないことを強く祈りながら。


十分後、八王子駅前で颯太と別れた飛鳥は、小さな声でつぶやいた。

「もうやめよう。あの作戦は……。さすがに良い人過ぎるよ。っていうか普通に好きだよ。どうしよう……」

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