第77話 夢の世界(布団の中)で ①

今回の話には少しR15に該当する描写があります。苦手な方はお気をつけください。

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しばらくして、颯太と飛鳥は部屋に戻ってきた。ベランダから中に入ると颯太はやさしく飛鳥を降ろした。

「ありがとう! 最高だったよ! 感動しちゃった」

飛鳥は心から楽しんだようだった。まだ興奮している様子だ。

「良かったです」

颯太はやっと約束を果たせたことと、飛鳥の表情がさらに明るくなっていることが嬉しかった。


 喜ぶ飛鳥を見ていたら、ふと金曜日に自分がしてしまったことが思い出された。颯太は、真剣な表情で口を開く。

「飛鳥さん。この前の、お弁当のこと本当にすみませんでした。せっかく作ってきてくれたのに。断っちゃって……」

「ううん。颯太くんは悪くないよ。怒って当然だったと思う。私の方こそ本当にごめん」

 飛鳥の優しい言葉を聞いて改めて飛鳥の懐の広さを感じた。


(優しいな……飛鳥さんは。思えば出会った頃からずっとこうだったな。俺がどんなに悩んでたって、いつも励ましてくれた。なんでこんな飛鳥さんの優しさを疑っちゃったんだろう)

颯太は、自分が飛鳥をあからさまに拒絶してしまったことを思い出し自己嫌悪に陥る。


 しかし、そんな颯太の心を感じ取っているかのように飛鳥は言葉を続けた。


「明日からまた、お弁当作っても良いかな? 颯太くんが嫌じゃなかったらだけど」

「良いんですか?」

「うん。颯太くんが喜んでくれるならいくらでも頑張るよ! 毎日楽しみにしててね!」

飛鳥の言葉から愛情がたくさん伝わってきて心を満たしていく。

(やっぱ飛鳥さんは天使だな……)

と改めて飛鳥の優しさに感動した。


「それじゃあそろそろ帰りますね」

 しばらく飛鳥と会話をしていた颯太であったが、時計を見ると時刻は十時半を過ぎていた。

さすがに長居しすぎてはまずいと思い颯太はそう口にした。


「えっ? もう帰っちゃうの?」

しかし、飛鳥は颯太の言葉を聞いて思わぬ反応をした。明るかった表情が一気に泣きそうな顔に変わる。


「えっ? でももう十時半ですよ? 明日も仕事がありますし、飛鳥さんもあまり寝れてないみたいですし早めに休んだ方がいいんじゃないですか?」

 颯太は飛鳥の目の下にクマがあるのが気になっていた。


「嫌だ! まだ離れたくないよ。もっと一緒にいたい。せっかく許してもらえたし、気持ちだって伝えられたんだから……」

しかし飛鳥は不満があるようで、全力で気持ちを主張してくる。


「そうだ!! 今日泊まっていってよ。そうすればまだ一緒にいられるから!」

飛鳥は良いこと思いついたという顔をしてそう言った。


「泊まりですか?」

「うん。お願い! 今日だけはそばにいて欲しい」

 飛鳥は甘えるように抱きついてくる。

「けど、寝るとことかどうするんですか?」

「一緒に寝ればいいじゃん。颯太くんに隣にいて欲しいよ」

 颯太は自分の横で飛鳥が寝ている姿を想像してしまい胸が激しく高鳴る。全く嫌ではない。むしろ限りなく嬉しいことなのだが、今は緊張の方が勝った。なんとか帰る理由を探そうとする。


「シャワーも浴びてませんし、着替えだってないですよ?」

「着替えは瞬間移動で取ってくればいいし、お風呂はうちで入っても大丈夫だよ!」

「でも……」

「颯太くん。もしかして私と寝るのやだ?」

「嫌じゃないです! むしろ嬉しいです! 好きな人なんですから。嬉しいに決まってます」

「えへへ。また好きって言ってくれた。私も大好き!!」

 飛鳥は嬉しそうに頬を擦り合わせてくる。抱きしめてくる腕にも力がこもる。

「でも、ちょっと緊張しすぎて大変なんです。もしかしたら心臓が止まって死んでしまうかもしれません」

颯太は正直に今の気持ちを伝える。

「なにそれ! 変なの! 大丈夫だよ」

颯太の言葉を聞いて飛鳥は楽しそうに笑う。


 「ねぇお願い! 今日はそばにいて! どうしても離れたくないんだ」

なおも渋っている颯太に飛鳥は言葉を続ける。

「僕がいて休まりますか? あんまり寝れてないですよね?」

「颯太くんがいてくれた方がむしろ休めるよ! だから。ねっ?」

「わかりました」

飛鳥からものすごい意志の強さを感じ、颯太は覚悟を決めた。


 颯太はスキルを使い家に帰ってシャワーを浴びた。パジャマに着替えると歯を磨き、飛鳥の家にすぐに戻る


 飛鳥は、ベッドに座って髪を乾かしていた。下を向いており、颯太が戻ってきたことにまだ気づいていない。先ほどとは異なり、ピンク色のパジャマを着ている。濡れた髪の隙間からうなじが見えて、普段よりもさらに美しく見える。飛鳥に見惚れてしまい、颯太は立ったまま、髪を乾かす飛鳥を見ていた。


「あっ! 颯太くんおかえり! ここ座って」

 飛鳥は颯太に気がつくととびきりの笑顔を向けながら自分の横をポンポンと叩いた。颯太は飛鳥の言葉に従い、飛鳥の隣に座った。


(なんなんだこの状況は? どうしてこうなった? ていうか、飛鳥さんすっぴんでもめちゃくちゃ綺麗だな。)

 飛鳥のすっぴんが普段となにも遜色がないほど美しくて颯太は驚いた。また、隣で髪を乾かし続ける飛鳥を尻目に、颯太の心臓はバクバクだった。こんな遅い時間に、信頼するとびきり綺麗な先輩社員とベッドに座っていると思うとなんだか心がそわそわしてしまう。


やがて、髪を乾かし終わり、歯も磨いてきた飛鳥が颯太の横に座った。

「本当になにも食べなくて大丈夫なんですか?」

颯太は飛鳥を心配する。颯太が飛鳥の家を出る時に、「何か買ってきましょうか」と聞いたが飛鳥は断った。しかし、しばらく何も食べていないと社長たちから聞いていたから颯太は心配だった。

「大丈夫だよ。今はなんか胸がいっぱいだから本当にお腹空いてない。明日の朝はちゃんと食べるから」

「そうですか」

颯太はまだ心配だったが飛鳥の意見を尊重することにした。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「ごめんね。待たしちゃって。私が壁側で良いかな?」

「はい」

 しばらくして二人は布団に入った。ベッドのサイズはセミダブルのようで、シングルよりは広い。颯太はちらっと右を向いた。飛鳥との距離は五十センチは空いているように見える。横に飛鳥がいることを考えると脳が爆発してしまいそうだった。まだ電気は消していない。


しばらく二人は無言でいたが、沈黙を破るように飛鳥が口を開いた。

「颯太くん。こっち向いて」

 飛鳥の方を向くと、飛鳥も横向きでこちらを見ていた。

颯太は飛鳥を見ると言葉を失った。

 パジャマの胸元が開いていて、谷間がはっきりと見えている。

 颯太は顔を赤らめながら目を背けた。

「あ、あ、飛鳥さん。なんか、む、胸が!!」

 自分の発言が気持ち悪いのは百も承知であったが颯太は指摘せずにはいられなかった。


「えっ? 胸? ああ、私寝る時はつけないんだ。寝苦しくて」

「そ、そうなんですか? それは良いんですが、もう少しボタン閉めた方が……」

「これ以上閉めたら苦しくて寝られないよ」

「あの、で、電気消しますね!」

 颯太は慌てて、リモコンを掴み電気を優しいオレンジ色の光を放つ常夜灯に変えた。


「颯太くんひょっとしてやらしいこと考えてる?」

「……」

「ねぇ颯太くん。こっち向いて」

 飛鳥の声に寝返りを打つと、同じ体制で見つめてくる。暗くなったとはいえ、常夜灯の灯りがあり、飛鳥の胸元は十分に主張されていた。


 颯太の視線に気付いたのか、飛鳥は優しく微笑むといたずらをする小学生のような表情を浮かべる。暗い中でも顔が真っ赤なことがわかる。


「触ってみる?」

「な、何をですか?」

「胸」

「えっ?」

「颯太くんが触りたかったら私は良いよ。私は、もう他になにも考えられないぐらい颯太くんのこと大好きだし。颯太くんが助けてくれなかったら死んじゃってた命だもん。この身体も、心も全部颯太くんにあげる」

 頭が銃で撃ち抜かれたのではないかと思うほど衝撃を受けた。それと同時に颯太は飛鳥という人間を完全に理解した。


 あー、なるほど……。確かにこれは……、


(ぶっとんでる。本当に頭のネジが外れてるんだ)


 先ほど会社で謝罪を受けている時に、有希が飛鳥はぶっとんでいるところがあると言っていたが、颯太はようやく言葉の意味を理解した。

 

 飛鳥さんは、自分の目標に対して真っ直ぐなんだ。純粋すぎるぐらいストレートに……。

 両親のためだった、あんな作戦だって実行しちゃうし、俺のためだったら身体だって抵抗なく差し出してくるんだ。大好きだったら構わず抱きついてくるし、嫌われたと思ったら、何も食べれなくなっちゃうぐらい落ち込んでしまうんだ。


(なんて素直な性格なんだ!)


 飛鳥の性格を完全に理解して颯太は震えた。先週は、そのぶっとんだ発想により実行された作戦に、傷ついた颯太であったが、今その大きく膨らんだ胸を強調しながら、颯太を誘ってくる飛鳥を見て、さらに惹かれてしまう自分がいた。


(なんて可愛い人なんだろう)

 飛鳥のぶっとんでいるところやズレているところが今は愛おしく思えてしまう。頭がぼーっとなり余計な思考が消え、勝手に体が動いてしまいそうになる。


(いやいや。まてまて!)

 それでも颯太は熱を帯びてくる自分の体を強靭な精神力でなんとか鎮めようと踏ん張る。


(さっき両思いってわかったばっかなんだぞ? 普通の恋人同士の百倍のスピードで進んでいくつもりか?? 冷静になれ!! まだ付き合ってさえいないんだ!)


 しかし、


「私の全部……颯太くんの好きにして良いんだよ」


 と、顔を真っ赤にしながら飛鳥はなおも颯太の魂を揺さぶってくる。ついに颯太の牙城は崩壊し、催眠術のように冷静さを失い、颯太は飛鳥の胸なら向かって無心で手を伸ばしていく。


 が。飛鳥の胸な触れる寸前になって、急に頭の中にみずきの顔が浮かんできた。

「なにやってるのよ!!」

 と叫びながら鬼のように怒り狂っている顔が。

 それにより、颯太はぎりぎりの所で冷静さを取り戻す。


「だめですよ。そう言うのはちゃんとお付き合いをしてからじゃないと。もちろん、飛鳥さんのことが好きなので、そう言うことはすごく興味があるんですが……。もっと、関係を深めてからにしましょう。」

 颯太はなんとか言葉を絞り出す。


「触らなくていいの?」

 飛鳥は上目遣いをしながら颯太の顔をじっと見てくる。

「……はい」

 颯太は、目をつぶって答えた。血の涙が流れるんじゃないかと思うほど悲しかったがなんとか我慢した。理性と本能の激しい戦いをなんとか制した。


「そうだよね。早すぎるかもだね。ごめん。私、全然経験ないから、こういう時どうすればいいか分からなくて……」

 飛鳥は、しょんぼりとした感じで呟いた。

 ちょっと断り方が雑だったかなと颯太は飛鳥のことを心配する。飛鳥の声が悲しそうで少し胸が痛んだ。


「飛鳥さん……」

 飛鳥が元気になることでも言わなきゃと思いながら、颯太が瞼を開けると、飛鳥はいつのまにか近くに来ていた。そして、横向きの体制のまま、颯太を抱きしめてきた。


「でも、ハグは良いでしょ?」

 耳元で嬉しそうに囁かれ、再び、颯太の心臓は極限状態で働き始める。


 颯太はまたもや脳が破壊されそうになる。胸の柔らかさが、核ミサイル並みの威力をもって颯太を攻めていた。


(だめだこりゃ。俺じゃあ飛鳥さんの攻撃を凌ぎきれない。破壊力が強すぎるよ)

 布団の中で真っ直ぐに気持ちを表現してくる飛鳥に颯太はもろにやられていた。

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