第7話 能力開発③
「他にも能力が覚醒したって? いったいどんな能力だったんだ?」
颯太たちが次はどのお茶にしようか悩んでいると、大きな物音と共に社長の猛が帰ってきた。走ってきたのかその呼吸は乱れており、肩で息をしている。黒いジャージの袖を腕までまくり上げている。
「遅かったな」
そんな猛を有希は怪訝な表情で見つめている。
「悪い悪い。携帯を見てなかった」
頭をかきながらそう口にした猛に対して有希と飛鳥は冷たい表情を崩さない。
(なるほど。こういう感じなんだ……)
少しずつこの会社の力関係と空気感がわかってきた颯太であった。
「あの……ほうじ茶で透明化スキル、紅茶で炎属性スキル、ジャスミンティーで透視スキルが出ました」
颯太は言った。
「なに? 三つも覚醒したのか! それはすごいな。っていうか透視スキル? まさかお前……」
猛は透視スキルということばに素早く反応し、そう口にした後、有希と飛鳥の方を見た。
「ああ。私たちの服が透けたらしい」
驚いている猛に有希が口元に笑みを浮かべながら言った。
(言わないでくれよぉ有希さん。これでまた修羅場だ。妻と娘の裸を見てしまったんだ。下手したら殺されるぞ)
「すみません!」
颯太は全力で頭を下げた。腰のあたりを角にして完璧な九十度ができた。再び、判決を待つような心持ちで颯太は生きた心地がしなかった。
「あっはっは! すごいスキルだな! 羨ましいぞ!」
だがこの社長もまともではなかった。大声で、笑いだすと、頭を下げている颯太の首元に腕を回し、チョークスリーパーのような技をかけた。しかし、力は全く入っておらず、怒ってはいないことが颯太にはわかった。
「やったな! 町ゆく女の裸、見放題じゃないか。うん、ある意味世界最高の能力かもな。羨ましいぜお前が!このっ、このっ!」
猛はものすごい笑顔を浮かべながら、颯太をからかうようにそう口にした。少し、颯太の首をホールドする真似をして遊んでいる。
(この人、奥さんと娘の前でよくそんなことが言えるな。やっぱり普通の人じゃない。でも、今回は助かったな……)
一方、そのようなことを口にした猛に対して飛鳥は
「お父さん!」
と怒鳴り、有希は
「くずが!」
と冷たく吐き捨てていた。
「すまん。冗談だ!」
猛はおちゃらけながら頭を搔いている。
(なんかうちの家族とは全然違うな。でもなんかお互い言いたい放題やってる感じが逆に良いかも)
颯太はだんだんと、この奇妙な家族に親近感を覚え始めていた。
「それにしても透明化も炎属性も、透視も、どれもレアスキルじゃないか。特に透視なんて聞いたこともないぞ。すごいじゃないか」
「ありがとうございます」
「後、試していないお茶はどれなんだ?」
「烏龍茶と麦茶と玄米茶です」
「おお、まだ三つもあるのか。これは楽しみだな。それで、次はどれにするんだ?」
「玄米茶にしようと思います」
「わかった」
颯太は玄米茶を飲み始めた。その黄色い液体に口を付け、ごくっ、と飲み込むと鼻の方へ上がってくる香ばしい香りが玄米茶の魅力だなと颯太は改めて思った。
颯太が飲み干すと、例によって颯太のオーラの中に結晶が浮かび始めた。今回は黄色の結晶がきらきらと輝きながら浮かんでいる。
「では、行きます」
「待て!」
颯太がスキルを発動させようとすると有希の大きな声が響いた。颯太は慌ててオーラを消した。
「どうしました?」
颯太だけじゃなく、飛鳥も猛もなぜ止めたのか不思議そうな表情で有希を見つめている。
「私も、何の能力がでるか楽しみで、今まで忘れていたが、発動させる前にスキルチェッカーを使おう。もし、毒を出すスキルとかだったら危険だからな」
「そうですね」
「忘れてました」
「おお」
三人は有希の意見にうなずいた。
スキルチェッカーとは能力者業界のトップ企業「クレセド」が十年前に開発した機械であり、それを使うと能力者のスキルがどのようなものか分析し、文章で教えてくれる。一か月前にスキルが発動した日に、颯太が高校で使った機械もこれであった。能力者が働く企業には必ず一つは置かれていた。
「よし、俺ちょっと取ってくるは確か一階に古いのがあったはずだから」
「頼んだ」
有希がそう口にすると、猛は急ぎ足で応接スペースを出ていった。
しばらくすると、猛が、右手にスキルチェッカーを持って戻ってきた。その機会はドライヤーのような形をしている。オーラをこの機会に取り込ませるとスキルを調べてくれるのである。
猛はさっそく颯太の体にスキルチェッカーに押し当て、ボタンを押した。すると音を立てながら颯太のオーラを黄色の結晶ごと吸い込んでいった。
しばらくすると機械の液晶に文章が浮かんだ。そこにはこう書かれていた。
「瞬間移動スキル。十オーラに付き一メートル移動可能。物体衝突無し」
その文字を読んだ猛は今までに見たことがない顔をしながら言った。
「信じられない……」
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