第50話 ダンジョン用アイテムショップ

 飲み会があった次の月曜日、飛鳥と颯太は港区にある大型ショッピング施設「グランビア」に来ていた。時間は午後五時を過ぎたところだ。

 どうして二人が八王子から距離のある港区まで来ていたかというと、昨晩の飲み会が終わって颯太が帰宅した後、飛鳥から電話があったのだ。

慌てて電話に出た颯太に飛鳥は言った。


「ねえ~、いつになったらディナーデート誘ってくれるのよ~? 」


 飛鳥の声は、酔っていたためかとても色っぽかった。わずかに呂律も回っていなかった。甘えたように声を伸ばしてくるところも普段と違ってかわいらしい。

電話越しであったが颯太の心臓は鼓動を速めた。


(やばい! 忘れてた! 約束したんだった)

颯太は、以前の銀行強盗を制圧した事件の時に、記者から逃げ、飛鳥にインタビューを押し付けたことを思い出した。

(そういえば代わりに夕食をごちそうするって約束だったな。飛鳥さん、ずっと楽しみにしていたのかな。悪いことをしちゃった……)


「もしかして忘れてた~?」

「いえ、覚えてました!」

飛鳥の声に颯太は素早く嘘をついた。ここで、正直に忘れてた、と言ってしまったら、飛鳥を悲しませることになるだろう。颯太は、人を傷つけないための嘘は必要だと思っている。


「良かったぁ~。早く行きたいな。ずっと待ってるんだよ?」

「お待たせしてすみませんでした! あの、もしよかったら明日か明後日空いてませんか? 急に会社が休みになりましたし、世間は普通の平日なので人でも少ないと思うんです」

「明日も明後日も空いてるよ? 良いの?」

「はい。では明日でもいいですか?」

「うん。大丈夫? どの辺に行く?」

「すみません。まだ、決め切れてはいません」

「そっか。じゃあさ、私、颯太君と行きたいところがあるんだ」

「どこですか?」

「それは~」


 二人はグランビアの中のとある店に向かって歩いていた。颯太は、黒のチノパンに白のTシャツを着ており、Tシャツの上には紺色のシャツを着ている。

飛鳥は、ギンガムチェックのワンピースを着ている。両耳には青く透明に輝くしずく型のイヤリングを付けていた。頭にはベージュの帽子を被っている。

 

 飛鳥の私服を見ると、まるでモデルのような美しさに颯太はいつもドキドキしてしまうが、今日は普段よりもさらにすごかった。顔には白いマスクをしているが、それでも抑えきれない美人オーラが体全体から発せられていた。


(なんだろう……、飛鳥さんはどの服を着ていてもいつも似合ってるけど。今日はまた一段とすごいな。なんか、次元が違うな)

颯太は駅で出会ったときに、飛鳥のあまりの美しさに言葉を失ってしまったほどだ。


 土曜日の活躍によるニュースは、ものすごい反響があった。飛鳥の以前のインタビュー動画が、二十八万再生から九十万再生まで二日間で伸びたほどだ。

事件から二日が経った今日もまだ午前のニュースでは取り上げられていた。ヴァルチャーは今日休業しており、社長とも連絡を取っていないため、実際どれくらいの反響が来ているかはわからないが……。


 有名人になってしまった飛鳥は都内に来るのに、少し変装をしていた。ベージュの帽子と白いマスクで顔を覆っているため、ここまで来るのに声をかけられることはなかった。ちらちらとこちらを見てくる者は何人かいたが、飛鳥から出る美人オーラによるものだろうと颯太は考えている。


二人は商業施設内をしばらく歩いていると、とある大型ショップの前に到着した。入り口の看板には「ギルドコレクション」と大きい文字で書かれている。

その文字を見て、颯太は大きな声を出した。


「飛鳥さん! もしかしてここって! 」

「うん! ギルコレだよ。一度颯太君を連れて来たかったんだよね」

「やばい! ずっと来て見たかったんです!」

颯太は少年の様に瞳を輝かせている。


 ギルドコレクションとは、日本で最大のシェアを誇るダンジョン用アイテム専門店である。ダンジョンを攻略するのに必要な道具はすべてここにそろっていると言われるほど人気が高い店であった。ダンジョン内で仕事を行う人間にとって聖地とも呼ばれている。


「あのっ、さっそく入ってもいいですか?」

「うん」

 颯太は、いてもたってもいられない。自分にとってもこの店はあこがれの店であった。二人は店内に足を進めた。そこには、颯太の期待通りの光景が広がっていた。広大な敷地に、防具や武器、テントや焚き火台。回復アイテムなど、ところ狭しとダンジョンで使うための道具が並んでいる。


(すげぇぇ、なんて量の製品なんだ! やばいっ! テンション上がる。おっ、あそこは武器コーナーだ。後で絶対に行こう!)

見る物すべてが新鮮で、颯太の胸はワクワクでいっぱいだ。

「どう? 颯太君?」

「さいっこうです!」

「良かった。多分、そろそろ、ダンジョン探索の仕事の依頼も増えると思うからさ、来ておきたかったんだよね」

明らかに喜んでいる様子の颯太を見て飛鳥も嬉しそうに微笑んでいる。


「あの、さっそく見て回ってもいいですか」

「うん。満足するまで見て回ろう」


二人は、さっそく店内を回り始めた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る