第51話 夢の店
「来てください! 飛鳥さん。凄いのがありましたよ!」
今二人は武器コーナーを回っていた。通路の両サイドには高さ二メートルほどの高さがあるショーケースがいくつも設置されており、その中には剣や、刀、斧に槍、ボウガンなど、数十種類の武器が並べられている。颯太は、子供の様に弾む心を抑えきれない様子でここまで、歩いてきたのだが、ある一つの武器を見つけるとさらに興奮して飛鳥を呼んだ。
飛鳥がそばに来ると、颯太は一つの武器を指さした。
それは、三十センチほどの大きさのサバイバルナイフだった。しかし、見るからにただのナイフではない。刃の部分が青白く発光して鋭い輝きを放っていた。その輝きの美しさに颯太は息をのんだ!
(かっこよすぎるだろ! このナイフ!! 作った人のセンスがやばい! 間違いなく天才だろ! 欲しいなあ……)
「わぁ、すごいね。このナイフ。宝石みたいに刃先が輝いてるね!」
颯太が見とれていると、隣にいる飛鳥もどうやらこの良さがわかったようだ。感嘆の声を上げた。
颯太は、ナイフの説明書きを読んだ。そこにはこう書かれていた。
【氷結ナイフ】氷属性のスキルが込められており、切りつけた個所が凍る。氷属性が弱点のモンスターへの効果は絶大。価格二百万円
「あぁ、二百万円かぁ~。くそ~それはさすがに買えないなぁ」
あまりの価格に颯太は肩を落とす。
(でもそりゃそうだよな……。属性を付与してある武器は高いって有名だもんな。あきらめよう)
「うん。けっこう高いね。あれ? でも、颯太君ってナイフとか戦いで使うの?」
颯太が落ち込んでいると飛鳥が口を開いた。
「いや、使いません。一応、高校の頃、近接戦闘の訓練で使い方の基礎は習ってますが……」
「そうだよね! 颯太君がナイフ使ってるところ見たことないもん!」
「すみません。見た目がもう好きすぎてつい欲しくなっちゃいます。使いもしないのに……」
「ふふっ」
そう口にした颯太を見た飛鳥は突然小さく微笑んだ。突然の笑みを颯太は不思議に思う。
「えっ? なんかおかしかったですか?」
「ごめんね。颯太君もこんな風に子供っぽく夢中になるところがあるんだなって思って」
「えーなんですかそれ! ありますよそりゃ! 夢中になるものぐらい」
「だって颯太君。いつもすっごく真面目なんだもん! 仕事が何もない時もずっと体を鍛えてるし。ふざけるところも見たことなかったし。こんな風に何かに夢中になってるところも初めて見たんだもん。真面目人間だと思ってた。今の颯太君、なんか新鮮……」
「そりゃ、仕事中は気を張ってますよ。新入社員ですし。ふざけることなんてできないですよ」
「ごめんごめん。そうだよね。でもこうして休みの日に二人でいると普段とは違う颯太君が見れるからなんかいいわ」
「ひどいですよ。僕はそんな真面目な人間ではないです」
「ごめんってば。ほらっ、まだまだ見てないところあるでしょ。次の場所行こうよ」
飛鳥に真面目人間だと言われ、颯太は、そんなふうに思われてたのかと、少し心外だったが、飛鳥の意地悪っぽく笑う顔をみていたらあまりにかわいらしくて自然と許してしまう。
(ずるいなぁ……)
と思いながらも颯太は、先に進んでいく飛鳥を追った。
【球体魔物センサー】
魔物が三十メートル以内に近づいたら警報を鳴らす。B級以上の魔物にのみ反応する。ダンジョン内で野営をするときには必須のアイテム。
【魔物避け袋】
魔物が嫌がる匂いを発するお香。強力な敵にはあまり効果がない。C級以下の魔物は寄ってこなくなる。ダンジョン初心者におすすめ。
【瞬間沸騰球】
直径二センチメートルの金属の球体だが、ボタンを押せば、二百度以上まで温度が上昇する。ダンジョン内で湯を沸かすときに便利。
ギルドコレクションには結晶ナイフ以外にも魅力的な商品が数多く並んでいた。颯太は、ゆっくり時間をかけて一つ一つの商品をじっくりと見ていった。初めて見る商品を見つけては、テンションが上がりすぎて飛鳥に何回か笑われた。
しかし、ある売り場に来て、颯太の足は止まった。
目の前には最新のダンジョン用テントが並んでいた。その中の一つを見つけると、颯太はつぶやいた。
「これは……、まさか……。」
「あっ、これテレビでも最近よくCM流れてるやつだね」
飛鳥も知っていたのかそう口にした。
「はい。これは、最近開発された。収縮自在テント「ゼロワン」です」
颯太はテレビで見たときからこのテントがずっと気になっていた。
このテントは【縮小】と【拡大】のスキルが込められており、三センチメートルの大きさから三メートルの大きさまでサイズを変えることができる。
ダンジョン内を冒険する際に、荷物の重さや容量を抑えたいもの達にとって非常に重宝するテントであった。
「あすかさん! 僕これ買います」
「いいんじゃないかな。お父さんも、これからはダンジョン探査の仕事にも力を入れていくって言ってたし。多分使う機会増えると思うよ!この商品は大人気だから、間違いないと思う」
「ありがとうございます。では買ってきますね」
「ちょっと待って? 値段はいくらなの?」
さっそくレジに並ぼうとする颯太を慌てて飛鳥が呼び止める。
「五十万円です。」
「すっごい高いじゃない。まぁ、収縮機能がついているからしょうがないけど。
仕事で使う道具だしさ、会社のお金で買ってあげるよ?」
「大丈夫です。趣味でキャンプとか山登りをするときにも使いたいので。自分で買います。この前社長からボーナスもらいましたし」
「本当に良いの?」
「はい」
颯太はレジに並び、テントを購入した。ちなみに会計は最近作ったクレジットカードを使用した。
颯太はずっと欲しかったものが買えて心底満足した。飛鳥のもとへと歩きながらも顔が自然とにやけてしまう。
「良かったね。欲しいやつ買えて」
「はい」
「確かそれ、床の部分にマットレスもついてるんだよね。それもふかふかのやつが」
「そうなんですよ! 寝心地も最高みたいです。それに保温性も高くて、冬場でも安心なんです」
「そうなんだ。良い買い物したね」
「はい。さっそく次の休みにでもキャンプに行って使ってみます」
「えっ? 颯太君キャンプとかするの?」
「父親が昔から好きで、小さいころから家族で行ってました」
「そうなんだ」
「今日買ったテントを試してみます! 楽しみだなぁ」
颯太は、次の週末に向けて胸を弾ませる。どこに行こうかな。夕食はなににしようかななど、はやる気持ちを抑えきれずにいると飛鳥が驚くことを言った。
「あのさ、私もついていったらダメかな? そのキャンプに」
「えっ、飛鳥さんもですか? 一緒に?」
「うん。私、キャンプってしたことないから、やってみたい!」
「いいですよ。じゃあ一緒に行きましょうか?」
「良いの?」
「はい」
「じゃあ、もう一つテントが必要ですね。会社にテントってありますか?」
「えっ、颯太君が今買ったやつで一緒に寝ればいいんじゃん。確か、4人用だったよね」
「えっ? 同じテントで寝るんですか?」
「うん。そのつもりだったけど。私が同じテントだと、颯太君嫌かな?」
心配そうにそう口にした飛鳥は上目遣いをしている。颯太はその顔があまりにも魅力的で、照れてしまう。
「僕は全然、いやじゃないですよ。あ、飛鳥さんが良かったら……」
「やったー。じゃあ決まりだね。ありがとう! すっごい楽しみ!」
飛鳥は両手で小さくガッツポーズをして喜んでいる。その姿を見て、そんなにキャンプに行ってみたかったのかと颯太は微笑ましくなった。確かにキャンプは良い。日常生活の忙しさを忘れ、自然の美しさや豊かさを感じることができる。人生で初めてのキャンプなんだ。飛鳥さんの期待に応えられるような場所を選ばなきゃなと颯太にも気合が入る。
「あの、どこか行ってみたい場所とかありますか? 海とか山とか」
「全部颯太君にお任せするよ。多分颯太君の方が詳しいと思うから」
「わかりました。では決まったらまら伝えますね」
「うん! よろしくね」
その後、二人はしばらく店内を見回った後、一時間ぐらい滞在していた店を後にした。
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