第35話 再会

 初めてのダンジョンでボーナスミッションに取り組んだ次の日の午前十時。眩しい太陽の光が、レースのカーテンを突き抜け、颯太の部屋に差し込んでいる。

 颯太は、素早い動きで自分の家を片付けていた。部屋中を念入りに掃除機をかけたと思えば、テレビの裏や、トイレの周りなど、普段はあまり掃除しないような所まで細かく綺麗にしていく。

 土曜日の午前中と言う、普段だったらまだのんびりしている時間を颯太は1秒を惜しむようにしている。オーラまで使って、自分の動きの速度を上げていた。

 

なぜここまで急いでいるのかと言うと、

(はやくしないとみずきが到着してしまう)

 のであった。

 一番の親友である久遠寺大河と如月みずきには能力のことを話そうと、連絡をとった颯太だが、大河からは忙しいと断られてしまったためみずきと二人で会うことになったのだ。高校の時も、二人きりで遊んだり出かけたりすることはよくあったため、二人で会うことには何も抵抗感がなかったが、今回は場所が良くなかった。

 

 昨晩、電話した時は、昼食は外で食べてカフェでゆっくり話でもと提案した颯太であったが

「颯太の家がいい。久しぶりにゲームしたいから」と、みずきに一蹴されてしまった。

「いやいや、家はちょっと」と最初は渋っていた颯太であったがみずきの

「お願い! 昼ごはんも作ってあげるから」

 というみずきの声に負け、OKしてしまった。

 

 掃除をしなければいけないのは手間であったが、

 みずきの手料理が食べられるのはかなり魅力的だった。高校時代にも何度か作ってくれたがみずきの料理は飛鳥に負けないくらい絶品だった。

 また、颯太も大のゲーム好きであるため、一緒にやろうという誘いも魅力的ではあった。


 こんなやりとりがあったのが昨晩の夜中であったため、颯太は家の掃除は朝にやれば良いかと寝た颯太だったが、疲れていたのか九時半過ぎまで爆睡してしまった。


 目覚めた颯太は顔面が蒼白になった。みずきが来る時間までもう一時間を切っているのに、掃除がなにも終わっていなかった。

 普段そこまで掃除をしないというわけではなかったが、最近は少しサボり気味であった。

 流石にこんな状態の部屋に女子を招くのは抵抗があった。

 颯太は自身が持つ莫大なオーラを展開し、高速で掃除を始めた。


「ふぅ。まぁこれだけ綺麗にしておけば大丈夫だろう」

 二十分ほど動き続け、颯太はやっと満足し、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。布団は昨日の日中に干していたため、まだふかふかで気持ちいい。干したあとのなんとも言えない良い香りもまだ少し残っていた。


 颯太はふと枕元に置かれていたスマホを手に取ると仰向けになりながら画面を操作し自分が利用しているネットの銀行口座を開いた。そこには


 二百二十六万五千八百円


 と表示されている。


 ヴァルチャーと契約を結んだ時に颯太に支払われた八十万円と先日振り込まれた、一月分の給料十四万八千円。そして強盗事件解決分でもらった五十万と、ダンジョンの帰りに社長から貰った分の百万円で颯太の口座は以前より潤っていた。


 引っ越しや家の契約で五十万ほどを使い、口座の残高が三十万を切っていたが、なんだかんだ一ヶ月で百八十万ほどの金は増えていた。

 しかしそれでも、複雑な気分を感じてしまう。


「ひと月に三千万か。あいつもらい過ぎだろ!俺の十倍以上か」


 給料に対してそこまで貪欲ではないと自分でも感じてはいるが、それでも、いつも一緒に過ごしていた友達が十倍以上の額を貰ってるのを知ると、焦りと共に情けない気持ちが浮かんできてしまう。


 「いやいや、もう悩むのはやめただろ。俺はヴァルチャーを大きくするんだ。飛鳥さんたちに、恩返しをするんだ。企業クラスも上がるんだ。弱気になるな」


 自分のキャリアが本当に正しいのか、考えてしまいそうになるが、颯太はもやもやをかき消すように頭を振った。


「能力は最高のものが出てくれたんだ。後は俺が頑張るだけだ。見てろよ。大河」

 颯太の心にはふつふつとやる気が溢れてきた。

(みずきが帰ったら夜はジムでも行くか)

 そんなことを考えながら、颯太はうとうとし始めた。


 ♢ ♢ ♢


「ピンポーン」


 颯太は突然のチャイムで目を覚ました。時計を見るとちょうど十時半を指している。

 慌ててベッドから飛び起きた颯太は玄関まで走っていく。扉を開けるとそこにはみずきが立っていた。


 みずきは何も言わずにスッと玄関に入ると颯太にすごい勢いで抱きついてきた。

「えへへー。久しぶり!」


 みずきは心から嬉しそうな声をだしている。みずきが抱きついてくることには慣れている颯太であったが、胸に押し付けられる柔らかい感触と、髪から漂ってくる艶かしい香りはなんとも言えないものがあり、流石に鼓動が早くなってくるのを感じる。


 みずきは高校の割と早い時期からスキンシップが激しめだった。なぜか自分以外にはしてる所を見たことはなかったが。


 みずきに抱きしめられながらそんなことを考えているとやっとみずきは離れた。

「もうっ!一ヶ月ぶりだよ? 早く会おうねって卒業式の時に言ったのに。全然予定を合わせてくれないんだから!」


 先ほどの幸せそうな様子とはうって変わって、今度は少し怒っているように頬を膨らませている。

 その小動物みたいな仕草は颯太にとって全く怖くはなく、ただ可愛いだけだった。


「ごめんごめん」

「もぉー」


 怒った顔を必死で作っているみずきはそれでも瞳は笑っているように見えた。


 久しぶりにみずきを見るとその可愛さにどきっとしてしまう。小顔に浮かぶ大きな瞳とショートヘアが印象的な美少女であった。

 身長は百五十八センチと飛鳥よりもやや低い。すらっとした体型をしている。

 紺のロングスカートに白いパーカーという服装は今までに見たことが無かったが、みずきの小動物的な魅力も相まって、とても似合っていた。

 背中には黒のリュックを背負っている。


「どうかした? そんなに見つめて」

 颯太の視線に気付いてみずきはぽかんとした表情をしている。

「いや、なんか初めて見る服だなと思って」

「えへへ、どうかな」

 みずきは少し照れながらも体をくねらせるようなポーズを取った。


「いや。めっちゃ似合ってるよ。かわいいと思う」

 颯太が思ったことをそのまま口にすると、みずきの顔は一気に赤くなった。みずきは恥ずかしそうに下を向くと小さな声で

「ありがと」

 と言った。


「っていうか早く中に入らせてよ。リュックが重い」

「ごめんごめん。でも抱きついてきたのはそっちじゃん」

「しょうがないでしょ。久しぶりなんだから」


 そんなことを話しながら二人はリビングへ歩いて行った。

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