第75話 幸せ

「大好き!」

 声から飛鳥の思いがガンガン心臓に届いてくる。ハンマーで殴られてるようだと颯太は感じてしまうほどだ。

(すごいな飛鳥さんは。めちゃくちゃ積極的なタイプなんだな)

 気持ちを伝えてくる飛鳥はものすごい勢いで、颯太は今までの認識を改める。


(でもなんで……?)

 込み上げてくる喜びの中でふと浮かんできた疑問を颯太は尋ねる。


「なんで好きになってくれたんですか?」

「だって颯太くんめちゃくちゃ優しいんだもん!それでいて頑張り屋だし、かっこいいし。もう全部が大好きだよ」

 飛鳥の嬉しい言葉に颯太は顔が赤くなってくるのを感じる。


「いつぐらいからその、そういう気持ちが?」

「颯太くんが私にミッションボーナスを分けてくれたときかな。お金のことよりも、颯太くんの気持ちが嬉しかったんだ!」

「めちゃくちゃ前じゃないですか!? 銀行強盗の後の飲み会でですよね!?」

「うん! アホだよね。一応、颯太くんに私が好きになってもらう作戦だったのに、すぐに私の方が好きになっちゃって。あの日に、作戦はもうやめたんだ。あれからはずっと颯太君に夢中だったんだよ? 会社のことなんてどうでも良いくらい、ただ颯太君ともっと仲良くなりたかった」

「じゃあ、本当にあの作戦はすぐ終わったんですね」

「そうだよ! 本当に、最初に街を案内しようとしたぐらいしか出来てない! あの日からはずっともう好きだったもん」

 颯太は嬉しい気持ちになる。自分が好きだった飛鳥がずっと本当の飛鳥だったことを知った。


「もっと早く言ってくださいよ!! そしたらあんなに怒らなかったのに」

「言おうとしたんだよ? あのディナークルーズの時に!」

「えっ?」

「でも、いざ覚悟決めて告白しようとしたら、颯太君酔っ払いのおじさん助けに行っちゃうんだもん!! あと十秒目の前にいてくれたら言えてたのに……」

「そうだったんですか? すみません!」

「あと、この前、悪いやつから助けてもらった後に、病室で言おうとも思ったんだよ!」

「えっ?」

「でも、一度、豪華客船の上での告白っていう最高のシチュエーションを逃しちゃってるしさ。なんか病院で言うのが悔しくて、辞めたの。キャンプの夜に言おうと思って」

「……」

 そんな前から告白をしようとしてくれていたことを知り、颯太は言葉を失う。それと同時に飛鳥の強い思いが伝わってきて、なんだかドキドキしてしまう。


「だから、颯太君も悪いんだからね! 私の気持ちに気づいてくれなかったんだから! ハグしたり、見つめてみたり、色々頑張ったのに!」

 頬を膨らまして拗ねるような表情でこちらを見つめてくる飛鳥の顔はさすがに可愛すぎた。ただでさえ美人なのに、その顔で甘えたように見つめられるともう耐えられなくなる。


(攻撃力高すぎるだろっ!! その顔は!!)

 

 しかし颯太は視線を逸らしたら負けだと思い、なんとか耐えながら考える。

(やっぱりそうだったのか。さすがにおかしいとは思ったけど、まさか本当に好かれてるとは思わなかった)

 飛鳥の言い分は十分にわかったが、それでも、颯太君も悪いと言う言葉には反論したくなった。


「飛鳥さんが悪いんですよ。僕みたいにあまりモテてこなかった人間にあんな作戦するなんて、ドキドキするに決まってるじゃないですか! まんまと罠にハマっちゃいましたよ!!」

「颯太くんいつも冷静だからさ、まったく効いてないと思ってた。でも、少しは意識してくれてたんだ」

「当たり前じゃないですか! 自分がどれだけ可愛いか分かってるんですか?」

「颯太くんだって十分かっこいいけど」

「えっ?」

 突然のカウンターパンチに思わずフリーズしてしまう。


「普段の颯太君もすっごく良いけど、非常事態が起こった時の颯太君もめちゃくちゃかっこいいよ! 火事の時とか、助けに来てくれた時とか。もうドキドキしてやばかったもん!」

 颯太は照れるのと嬉しいのと恥ずかしいのを同時に感じる。飛鳥みたいな可愛い人がそんな作戦をするなんて!ってことを攻めたかっただけなのに、思わぬ反撃を喰らってしまった。


「それに私だってそんなにモテてきてないよ?」

「まさか?」

 颯太はある得ないと言う疑いの目線を向ける。

「いや、モテてきてないって言うのはちょっと違うかな? 二十回以上は多分告白されたことあるし……」

「やっぱり!」

 二十人と言う数の多さに驚いてしまう。

(そりゃあこんな容姿してるんだから、当然、恋愛のチャンスも多くなり、経験も豊富なんだろうな)

「でも付き合ったことは一度もないんだよ!!家が大変でそんな余裕もなかった。21歳で恋愛経験が全くないのはちょっと恥ずかしいけど……」

「そうなんですね」

「颯太くんは恋愛経験がない人は嫌かな?」

「いや、むしろ嬉しい、かもしれません。そう言う僕も全くそういう経験はありませんが」

「そっか。じゃあ一緒だね。早く付き合いたいよ。みずきちゃんとのことはっきりさせてね」

「わかりました」


 「ねぇ良いかな?」

 飛鳥はベッドから立ち上がり、颯太の前に立つと両手を広げている。甘えたような表情でおねだりしてくる飛鳥に颯太はやられっぱなしで悔しくなってきた。


 颯太も立ち上がって飛鳥に近づく、すると飛鳥の、柔らかい身体が颯太を抱きしめてくる。

 パジャマ越しに、飛鳥の柔らかな感触と温かい体温が伝わってきて颯太の頭は爆発しそうになるが、なんとか冷静を装おうと頑張りながら、颯太も腕を回す。

 しかし、抱き合った体制のまま飛鳥が耳元で

「あぁー幸せ!! 死んじゃっても良いぐらいだよ。颯太くん。大好き……」

 と言われると脳みそをハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。


(はぁ、はぁ。なんて攻撃だ。知らなかった!!可愛さって暴力なんだな)

 颯太は飛鳥の魅力に圧倒されてしまっていた。


 飛鳥はずっと抱きしめてくる。耳元で「大好き」とか、「幸せ」とか囁きながら。全く離れる気配がない。

 飛鳥のまっすぐ感情が届きすぎて颯太の胸の中もいっぱいになる。飛鳥と同じように颯太も言葉にできないほどの幸せを感じていた。

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