第56話 危険な任務

「悪いな。こんな時間に呼び出してしまって」

「いえ、大丈夫です」

「かなり急な依頼なんだが、さっそく聞いてくれ」

 颯太と飛鳥が会社の会議室に入ってくると、社長はすぐに仕事内容を説明しはじめた。部屋の窓側には社長と有希が座り、会議室の入り口側には颯太と飛鳥が座っている。


 「今回の依頼は警視庁からの依頼だ。仕事内容は「影神会」という組織の構成員全員の検挙だ」

「影神会? 飛鳥さん知ってますか?」

 颯太はその名前に聞き覚えがなく、飛鳥に小さな声で尋ねた。

「ううん。私も初めて聞いた。」


「俺たちも初めて聞いた。警察の話によると急速にその勢力を拡大してる半グレ集団のようだ。まだ詳しいことは明らかになっていないが、裏でかなりの悪事を働いているらしい。そして、この組織は最近話題になっているあの失踪事件にも関与している恐れがあるとのことだ」


「あの事件ですか……」

 社長の言葉を聞いて颯太は、最近何回かテレビで見たニュースのことを思い出し、嫌な気分になった。

 社長が言う事件とは、三日前から報道されるようになったものであり、世間では警察一家集団失踪事件という名で知られていた。警察官二名とその家族が一晩のうちに姿を消し、いまだに行方不明のままであるという。何度も報じられていたため、颯太も知っていた。突然二つの家族が行方をくらましてしまうなんて、どう考えてもおかしい。颯太も事件の経過に注目していた。


「その話が本当だったらめちゃくちゃ危険な奴らじゃないですか! もしかしたら、失踪した人たちを殺しているかもしれないですし……」


「そうだな。情報が本当ならかなり危険な任務になる。ただ、その集団には能力者はいないらしい。みんな一般人だと聞いた」

「そうなんだ。その構成員をみんな捕まえるのが仕事なんだよね? 人数はどれくらいいる?」

「構成員の数は十から十五名ぐらいだと聞いている」

「それぐらいなんだ。思ったよりは少なかった」

「十から十五名の一般人とはいえ相手は生粋の悪人だ。それに、拳銃などの武器を所持している可能性もある。危険な任務だ、二人が嫌だったら、無理して引き受けなくてもいいんだぞ」

 有希は颯太と有希のことを心配しているようだ。心配そうな視線を二人に向けている。


「あの、その任務って、うちの会社から誰が行くんですか? 僕だけでもいいんですか?」

 颯太は、仕事の内容を聞いてから一番気になっていたことを尋ねた。


「いや、探索能力者がまだ確保できないらしくて、飛鳥にも来て欲しいそうだ。今回は颯太と飛鳥の参加を求められている。お前たち二人に加えて、他の会社からも四人が現場に来て合計六人で行うらしい。かなりベテランの四人のようだぞ」

「なるほど……」

社長の言葉を聞いて、颯太は思案を重ねる。


(俺は別に構わない。防御力強化スキルを使えば、よほどのことがない限り怪我なんかしないから。でも飛鳥さんは心配だ。オーラによって通常の人間よりは強化されているとはいえ、拳銃で撃たれたら下手したら死んでしまうし、万が一捕らえられたら何をされるかわからない。飛鳥さんと一緒じゃないと参加できないというのであれば今回は断ってもいいかもしれないな……)

 考えた末に、颯太が自分の考えを言おうとすると、先に飛鳥が口を開いた。


「引き受けよう! 颯太君」

 自分と答えが真逆だったことに颯太は驚いてしまう。

「えっ?」

「こんな機会めったにないよ。ちょうど、浮気調査に飽き飽きしていたところだし。ちょうどいいよ。引き受けよう! 」

「でも、警察の言うことが本当だったらかなりの危険がありますよ。僕は反対です」

「そうだね。でもチャンスでもあるよ。世間から、注目を集めている事件だからさ、捜査に貢献出来たらさらに社会的な評価を上げることができるよ。警視庁が仕事の依頼をしてくるなんて今まで無かったもん。多分颯太君の今までの活躍のおかげで、ヴァルチャーが評価され始めてるんだよ。私は引き受けた方がいいと思う。能力者だっていないみたいだしさ」

「飛鳥さんは怖くないんですか?」

「怖くないよ」

「……」

 飛鳥の言葉を聞いて颯太は押し黙ってしまう。飛鳥の言い分も重々わかるのだが、どうしてもそんな危険や奴らのところに飛鳥が行くのが心配だった。


 二人のやり取りを聞いていた社長が尋ねてくる。

「それで、引き受けるか? やめるか? どうする? 今日の二十一時までに決めてくれと言われているんだ。」


「わかりました。引き受けます」

 飛鳥の説得もあり、颯太はしぶしぶ仕事を引き受けた。


「わかった。では連絡しておく。集合時間は明日早朝の五時だ打ち合わせをしてから建物に突入するらしい。集合場所は町田市曙町32-27だ。奴らのアジトの近くに白いバンを止めておくからそこに来てくれだとよ。俺らは午前四時には出発して車で行こうと思うが颯太はどうする?」

「僕は始発の電車で、近くまで行って、後は飛んでいきます」

「わかった。気をつけてな。向こうで合おう!」


 話が終わると颯太達は会議室を後にした。

 社長と有希がどこかに行ったタイミングで颯太は飛鳥に声をかけた。


「飛鳥さん。悪い奴らは僕が相手をします。建物内に突入したらずっと僕の後ろにいてくださいね」

「ありがとう。でも、私だって戦えるよ? 高校の時に散々訓練したし、対人戦の成績だって良かったんだから! そりゃあ、颯太君には全然かなわないけど……」

 飛鳥は、後ろに隠れていてくださいと言われたのが、不満のようで、頬を膨らませてその気持ちをアピールしてくる。その気持ちも全て受け止めたうえでなお颯太は言葉を続ける。


「すみません。飛鳥さんを弱いと言っているわけではないんです。ただ、心配で。今回は本当に僕に任せてください。僕のスキルなら拳銃ぐらいどうってことないので……。絶対に後ろにいてくださいね!」

「わかったよ。もう、颯太君って意外と心配性なんだね」

 少しむすっとしたような顔で飛鳥はそう口にする。しかし、


「飛鳥さんがすごく大切なので……」


 次に颯太が発した言葉を聞いて一気に頬が赤くなった。抑えきれない嬉しさが緩んだ口元に現れている。


「もう! いきなり恥ずかしいこと言わないでよ。どういう意味よそれ! 勘違いしちゃうじゃない!」

 飛鳥は赤くなった顔を必死で見られないように手で隠している。

「どういう意味も何も、そのままの意味ですよ! 勘違いって何のことですか? とにかく後ろにいてくださいね!」

 飛鳥の気持ちとは裏腹に颯太はあくまでも冷静な顔をしている。

「はぁ……。ありがとう。ちゃんと後ろにいるようにするよ」

 颯太の鈍感さにため息をつくと、飛鳥はどこかへ歩いていった。



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