第67話 特級犯罪捜査官

 五分後、やっと満足したのか飛鳥は颯太から離れた。飛鳥を椅子に座らせて休ませると、颯太は企業能力者達の拘束を外し、救急車に乗せやすいように門のそばまで瞬間移動で運んだ。

 

 同じように気を失っている影心会の男達も門の側まで運び、横並びに並べておいた。

 影心会の男たちは明るい朝日に照らされても誰一人として目覚めなかった。よほど颯太の打撃が効いているらしい。


 颯太と飛鳥は寝かせている企業能力たちの横に座り込んだ。飛鳥は、心労が溜まっているのか、颯太に寄りかかりながらうとうとしている。


 颯太は、倒れている企業能力者たちを見る。

 菅原は、全身を拷問されており、意識はなかったが脈はある。菱田は、全身に手榴弾によるダメージは負っていたが、それでも三人の中では一番軽症だった。今はぐったりと両手を大の字に広げて休んでいる。


 酷いのは紫吹である。拘束を解いて、この場所に連れてきてからも地面に横たわりグネグネ腕や脚を動かしながら訳のわからない言葉を発している。


 颯太は紫吹の惨状を眼にすると並んで横たわっている影心会たちへの怒りがまた込み上げてきた。


 しばらくすると、おびただしい数のパトカーと救急車が門を通り、敷地内に入ってきた。社長と有希が乗っている黒のSUVも。


 警察たちと応援で駆けつけたと思われる企業能力者たちは手際良く、救急車に男たちを乗せて行った。


 怪我を負っている飛鳥の様子に気づいた社長と有希は物凄い勢いで飛鳥を心配した。

 飛鳥から、突入後のあらましを聞くと、更に驚いたようだった。救出した颯太に何度もお礼を言ってきた。


 飛鳥は救急車に乗らなくて大丈夫だと何度も主張したが、心配した社長と有希と颯太でなんとか説得した結果、渋々救急車に乗り込んだ。


 飛鳥や男たちを乗せた救急車が次々と出発していく中、社長と有希は再び颯太に礼を言うのだった。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 東京都千代田区霞ヶ関にある警視庁のとある部屋には十五人の囚人服の男達が両腕両足を拘束された格好で椅子に座らされていた。

 目隠しをされたうえ、耳にも音楽を流されたヘッドホンをつけられている。

 男達は昨日拘束された影心会のものである。


 十五人が一列に座らされている椅子の後ろには二人の女性が立っている。

 科学者などがよく着ている白い白衣に身を包んでいる女性は名前を「御門玲」という。百七十センチはある高い身長とすらっとした体型が印象的だ。切れ長の目をしているが、その眼光は鋭い光を放っており、きつい印象を周りに与えてしまう顔立ちをしている。


 もう一人は御門とは対照的に百五十センチに満たない小柄な女性で、黒色のスーツをきている。

 この女性は名前を「草薙いろは」という。きつい印象を与える御門とは逆で、丸顔と垂れ目が特徴的な顔立ちをしており、穏やかでゆるい印象を受ける女性だった。


 御門の年齢は三十六で、草薙は三十四歳である。

 どちらも警視庁に所属して十年を超えるベテラン警察官であった。


 しかし、この二人はただの警官ではなかった。

 警視庁の中において「特級犯罪捜査官」という大仰な肩書き与えられている特別な存在だった。


「特級犯罪捜査官」とは警視庁に所属している警察官の中で、事件解決や犯罪の撲滅のために「莫大な貢献をすることができる者」のみが所属することができる組織であった。いわばエリートの中のエリートであった。現在九人が所属しているが、皆、犯罪捜査に欠かすことのできない強力な能力を持っている。


 御門の持つ能力は、【記憶調査】

 世界に数人しか持たないと言われるレアスキルで、頭に触れた人間の記憶を映像で見ることができる。また、特殊な機械を使えば記憶を映像に出力して他人に見せることが可能である。

 全ての犯罪者は彼女から逃れることができない。頭に触れられたら全ての犯罪は白日の元に晒されてしまう。


 日々捕まってくる、容疑者の中で重大な事件につながっていると思われるものは全て御門によっている調査される。

 御門は犯罪者達に「悪魔」の異名で呼ばれている。


 御門は男達の頭を次々に触れていく。わずか1分ほどで、男達の記憶を全て読み取った。


「ああー。こいつら最悪だ! いろは。みんな封印しちゃっていいよ。私は見た映像の大事なところを裁判所に送っておく。はぁー参ったね。久々に最悪の気分だ。たぶん全員死刑になるよ」

 そう言い残すと御門は部屋を出て行こうとする。


「はぁ。酷いものを見ちゃったんですね! 可哀想に……。わかりました。全て封印しますね」


 御門の背中にそう声をかけると、草薙は男達の胸に、次次に手を当てていく。草薙の掌から放出されたオーラは心臓に到達し、身体全身を巡る血液の中に浸透して行った。


 草薙の能力は【能力封印】 

 血液の中を流れているオーラを生み出す特殊な赤血球に自身のオーラを入れ、二度とオーラもスキルも使えなくさせることができる。

 日々逮捕される能力者の中で悪質だと判断されるものは能力とそれを生み出すオーラを二度と使えなくされてしまう。

 オーラとスキルの封印。人権に関わる内容ではあるが、特級犯罪捜査官の御門と草薙にはそれが認められていた。


 影心会の男達は二十年の寿命を失った挙句、能力も全て失った。

 これから絶望の裁判が始まる。

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