第12話 本当の価値と大人の事情

 次の日から、約一週間かけて颯太のスキル検証実験もとい人体実験が行われた。

 有希が提案してくる実験方法はいつもとんでもないものだった。

 

七十メートルの鉄塔から落下させられたり、ダイナマイトをお腹に括り付けられたまま爆破されたり、マシンガンで撃たれたり、スタンガンで最大級の電流を流されたりと、防御力強化スキルの確認だけでも颯太が(違法なんじゃないかこの実験……)と思ってしまうものがかなりあった。しかし、颯太は素直な性格である。基本的には上司である有希の指示にはすべて従った。

 

しかし、走って名古屋まで行けと言われた時はさすがにありえないと思った颯太であった。法律的に大丈夫なのか反論したか、有希の決断は変わらず結局颯太は実行に移した。

 

透明スキルと敏捷性強化六倍を併用して颯太は深夜の高速道路の端の壁ぎりぎりのところを走り、名古屋まで到達した。

 身の危険を感じる実験や、法律的に大丈夫なのかと心配になる実験は全部で六十八項目実行された。

 一週間後の水曜日、時刻は十七時三十分、社長の猛と、副社長の有希は颯太のスキルに関する実験結果が詳細に書かれた紙を見ながら話しこんでいた。

 机の上に並べられた書類には次のような内容が書かれていた。


 不破颯太個人データ。 身長百七十一センチメートル 体重六十一キロ 体内保有オーラ量四十四万 

 身体能力強化四.四倍

 保有スキル七つ

 緑茶       防御力強化四倍スキル

 ほうじ茶     透明化スキル

 紅茶       炎属性スキル

 ジャスミンティー 透視スキル

 玄米茶      瞬間移動スキル

 烏龍茶      敏捷性強化六倍スキル

 麦茶       攻撃力強化八倍スキル


 お茶で発現するスキルは最大四つまで併用することができる。

 発現するスキルは白湯を飲むことによりリセットすることができる。

 スキル発現のためには百ccは飲む必要がある。


 実験結果①  防御力強化四倍に関して。

 基礎オーラ量分の強化分四.四倍×スキル分四倍で常人より一七.六倍の防御力を得る。

 拳銃を用いての胸部への攻撃――外傷無し。痛み無し

 ショットガンを用いての全身への射撃――外傷無し。痛みなし。

 マシンガンを用いての全身への攻撃――外傷はないがわずかな痛みあり

 ライフルを用いての胸部への射撃――外傷あり(赤いあざ程度)痛みあり

 七十メートルの鉄塔からの落下――外傷無し、痛み無し。

 成人男性による、ナイフでの刺突――刺さらず。

 スタンガンによる攻撃(百五十万ボルト)――痺れを感じる程度


 実験結果② 透明化スキルについて

 透明化していても実態はあり。監視カメラにも映らない。動くと音はなってしまう。

 手にしている物、身に纏っているものは透明になる。手をつないだ者を透明にすることができる。


 実験結果③ 炎属性スキルについて

 火炎放射のように放ったり、火球を作り出したりして攻撃することができる。火球の場合、最大直径十メートルの火球を作り出すことができる。

 スキルが発動している間は、炎を対する耐性ができ、颯太はダメージを受けない。

 火属性が弱点のモンスターにうってつけ。


 実験結果④ 透視スキルについて

 透けてみることができるのは厚さ一メートルの物体まで。眼球に力を入れれば入れるほど透けていく。使い方によっては捕まる。政府に届け出が必要か。


 実験結果⑤ 瞬間移動スキルについて

 十オーラにつき一メートルの移動が可能。物体衝突無し。

 一日の最大移動可能距離四十四キロメートル

 一回の移動で移動できる最大距離八.八キロメートル

 最高発動速度〇・一秒(十秒簡に十回のスキルの使用が可能)

 肌が触れて居れば他人も一緒に瞬間移動ができるが、人数分だけのオーラが消費される。

 現在見つかっている百二十八種の中でも最高ランクのスキル。激レア。

 行ったことがある場所。見えている場所に移動ができる。テレビなどの映像であっても場所のイメージが付けば移動可能


 実験結果⑥ 敏捷性強化六倍スキルについて 

 基礎オーラ量分の強化分四.四倍×スキル六倍で常人より二六.四倍の敏捷性を得る。

 最高速度 二十七×二六.四倍 時速七百十二キロメートル。

 長距離移動速度 十×二六.四倍 時速二百六十四キロメートル 東京から名古屋まで一時間で到達可能。

  跳躍力 垂直跳び十七メートル六十八センチメートル 走り幅跳び百二十一メートル


 実験結果⑦ 攻撃力強化八倍スキルについて

  基礎オーラ量分の強化分四.四倍×スキル分八倍で常人の三五.二倍の攻撃力を得る。颯太の体が攻撃力に耐えられないため、防御力強化4倍スキルとの併用が必須。

 本気で殴ると直径十メートルの巨石が割れた。地面を殴ると衝撃で直径五メートル以上のクレータができる。かなり強力なスキル。人間に用いる場合注意が必要。


「はあ。すごすぎるな。なんだこの天才児は! オーラの量も半端ないし。防御力強化しか使えない落ちこぼれだと思っていたのに」

 改めて、実験結果に眼を通した有希はそう言いながら書類を見るために外していた眼鏡をかけた。

「ああ。完全に突き抜けてるな。どれも本当に良い能力だ。うちに来てから完全に覚醒しやがった」

 言葉とは裏腹に猛の表情は暗い。机を挟んで座っている有希も深刻な表情を浮かべていた。


「まずいな」

「ああ」

 猛と有希が暗い表情をしているのには訳があった。颯太に新しいスキルが出たことは喜ばしいことには違いがなかったが、ある懸念も生まれてしまった。それは……


(このままでは転職されてしまう……)


 という点であった。有希は自分の頭の前で両手を組むとため息をついた。

 颯太を学園への契約金、三百六十万、個人契約金八十万で手に入れた二人であったが、実はこの契約は本契約ではない。颯太が臨めば半年以内であれば契約を破棄することができるのだ。契約金をヴァルチャーに返すのと引き換えに他社からのオファーを再び受け転職することができる。二人は颯太が契約を破棄して他社へ移ってしまわないかということを真剣に危惧していた。その場合、ヴァルチャー側は他の企業からも1円も得ることができない。半年以上所属していたらこの限りではなかったが。


 実験結果が現す通り、颯太は間違いなく莫大な金を生む、まさしく金の卵だ。この会社に残り続けてくれるのであれば……。


「どうする? うちみたいな零細企業。他社と比べられたら一発で転職されるぞ。勝っているところなんて何もないんだから」

 有希は猛の瞳を見つめている。

「改めて計算した颯太の市場価値はいくらなんだ? お前のことだもう計算してあるんだろう」

「ああ計算してある」


 猛と有希で相談し合って、市場価格三千万はある颯太を競合企業がないことを良いことに四百万で買い叩いたのが一か月前であった。

「聞いて驚くなよ。防御力強化、俊敏性強化、攻撃力強化これらをセットで十五億だ」

「そんなにいくのか。」

「間違いない。この三つがそろうと単体よりも跳ね上がるんだ。お前もこの前の颯太の動きで分かったろう。身体能力強化タイプのスキルはこの三つがそろっていると化け物クラスになるんだ」

「たしかに。あれはやばかったな。わかった。他のスキルはどうなんだ」

「瞬間移動スキルが十億、炎属性スキルが三億、透明化スキルが一億、透視スキルが三億だ」

「まあそれぐらいは行くだろうな。ってことは、合計はいくらなんだ」

「三十二億だ」

「三十二億⁈ まじか。この前、高校生ドラフトの歴代最高値を記録したのが十九億ぐらいだったよな」

「そうだ。残念だったな。颯太が高校生の内にこれらのスキルに気付いていたら世間の注目は全て颯太のものだったな」

「とんでもない奴を取ってしまったな」

「ああ」

「それで問題は、どうやって颯太が転職しないようにするかだな」

「そこだ」


「「はあーー」」

 二人は同じタイミングでため息を吐いた。正直、資金力においても、設備においても、教育技術においても全てにおいて他社に勝っているところがなにもなかった。


「とりあえず。本当の市場価値を伝えるのはやめておくか」

「そうだな。はるかに低く言っておくよ」


 二人がここまで話したところで、勢いよく社長室の扉が開き、飛鳥が入ってきた。

「全く、なにを言っているんですか! 二人は!」

 飛鳥は顔を紅潮させ、激怒している。



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