第44話 トップニュース

「おお、颯太! 目が覚めたのか」

 颯太が再び病室に戻ってベッドの上でぼーっとしていると病室のドアが開いてヴァルチャーの三人が入ってきた。社長と有希は珍しく上下黒のスーツを着ている。

 飛鳥もグレーのスーツを着ており、それがびしっと決まっていてかっこいい。

「お疲れ様です! 少し前に目が覚めました」

「体の方は大丈夫なの?」

 飛鳥はすぐにそばまで駆け寄ってきて、心配そうな瞳で見つめてくる。


「大丈夫ですよ。みずきが完璧に治してくれましたから。なんでも最後に検査があるらしくてお昼までは入院していないといけないみたいですけどね」

「そっかぁ。良かった~。無茶しすぎだよ~。救助は凄かったけど。本当に心配したんだからね」

「すみません。さっき、みずきにも同じこと言われました」

「昨日私たちも如月さんに会ったんだけどね。ものすごく心配してたよ。オーラが切れちゃって颯太君の治療が終わらなかったからって病室に泊まるって言いだしてさ」

「そうそう。俺がじゃあすぐ近くの良いホテルをとるから、そこに泊まりなよって気を利かせて言ったんだけどよ。オーラが回復したらすぐにでも治してあげたいからって。そこのソファーで寝始めたんだよ」

 飛鳥の言葉に社長が続いた。

「ああ、すごく頑固だけど。熱い子だったな。颯太にはいい友達がいるんだな。私も感心したよ」

 有希もみずきの献身的な行動が印象的だったようだ。


「みずきはずっとあんな感じなんです。頑固ですけど、優しくてめちゃくちゃ熱い奴なんです。」

 颯太は親友の颯太が褒められて自分まで嬉しい気持ちになった。短い時間でもここまで三人に好印象を与えるとはさすがみずきだなと感じた。


「ああ、治療の腕も超一流だしな。ほんとすごい子だったよ」

「うんうん」

 猛の言葉に飛鳥がうなずいていると、社長が再び口を開く。

「だがな! 昨日の活躍はやっぱりお前だよ颯太! 本当によくやったぞ! 世間ではとんでもないことになってるぞ!」

 社長は颯太の両肩をがっとつかむと激しく揺らしながらそう口にした。激しく興奮しているようだ。


「ああ、本当にすごいことをしてくれた。さすがうちのエースだ」

 有希も満面の笑みを浮かべて付け足してくる。

「えっ?」

 二人のテンションの高さに若干困惑していると飛鳥が不思議そうに尋ねてきた。

「颯太君、ひょっとしてみずきさんから聞いてないの?」

「何をですか?」

「説明するより見た方が早いな」

 颯太が何の話かつかめないでいると社長がテレビのリモコンを持ち上げながら言った。颯太が座っているベッドの足元の側の壁に掛けられているテレビの電源を入れた。そこに映し出された映像をみて颯太は驚愕した。


 画面には昨日の火災現場の様子と颯太による救出活動が映し出されている。

 颯太がビルに突入してく姿や、瞬間移動スキルで救助者を次々に助け出す姿が鮮明に映っていた。救助者には人権への配慮なのかモザイクがかかっているが颯太やみずきにはかかっていない。


 右上のテロップには「奇跡の救出劇」と書かれている。


「えっ? えっ! なんですかこれ。いつの間に?」

 颯太激しく動揺した。心臓の鼓動も急激に速度を上げたようで胸がドクンドクン脈打つのを感じる。幸いにもマスクとゴーグルで自分の顔は鮮明には映っていなかったがあまりの出来事に唖然としてしまう。


「このチャンネルだけじゃねえぜ」

 驚く颯太を嬉しそうに眺めると、社長は得意げに次々とチャンネルと変えていく。


「謎の能力者 絶望的な状況の中、十四名を救出!」


「夕方の大救出劇!! 奇跡の瞬間!!」


「治癒の天使 如月みずきと謎の瞬間移動使い」


「株式会社ヴァルチャー大手柄!! 十四名の命を救う!」


 など、どのチャンネルでも昨日の火災のことでもちきりだった。

(恥ずかしい……。勘弁してくれよ。どこから撮ってたんだよ。うわぁぁぁ、アップにしないでくれ。やめてくれ! ああ、みずきもはっきり映っちゃってるよ。あいつ……、映像を見られるのが恥ずかしいからってさっき言わなかったんだな……)

 もともと目立つのが苦手な颯太は、少しずつ血の気が引いていった。この仕事に就く前にもしかしたらこういうこともあるかと覚悟はしていたがいざ注目されるとなると恥ずかしさが喜びよりも勝ってしまった。

 

「おっ、きたきた! よく見てくれよ颯太!」

 そんなことを考えていると、今映っているチャンネルで急に社長のインタビューが始まった。今と同じでばっちりとスーツできめている。普段は絶対しないのに髪にもワックスをつけているようで、髪形も決まっていた。普段はだらしがなく見える社長も身だしなみを整えたらこんなにもかっこよくなるのかと少し驚いた。社長は隣で得意げにしている。


「あの瞬間移動や飛行スキルを能力者はいったい誰なんですか? 教えてください!」

「それは、時がいずれ教えてくれるでしょう。それまで待っていてください。彼はうちのエースです。これからも今まで以上の活躍をしてくれるでしょう。ヴァルチャーの活躍に期待してください」

 社長はまるで役者の様に演技じみた様子でそう話した。


「あっはっは! どうだ! 良いインタビューだろう!」

「……」

(なんだ? このインタビューは、完全に調子に乗っているじゃないか! やめてくれよもう。恥ずかしい! なに世間をあおってるんだよ!)

「そうですね……。良いと思います」

 社長の手前なんとかそう口にしたが、内心はかなり引いていた。

(これじゃあ、さらに自分が注目される。まいったな……)

「この馬鹿が!」

「いてっ」

「恥を知れ! こんなことなら私が受ければよかったよ」

 調子に乗って高笑いしている社長の頭を有希が思い切り殴った。

 どうやら有希も颯太と同じ感覚のようだ。


「お父さんったら、昨日のインタビューで調子に乗っちゃって、いつまたインタビューされてもいいようにってスーツ着てるの。馬鹿みたいでしょ」

 飛鳥はあきれたように言った。

「良いだろ! 少しぐらい調子に乗ったって。ほら見ろよこれ! 社長はスマホを取り出すと画面を颯太たちに見せる。

 そこには社長のインタビュー動画に対するコメント欄が表示されていた。


「なんだこの社長、やけにテンションが高いな」

「結構かっこいいかも」

「ダンディーだね」

「この人、酔っぱらってる?」


 などのコメントがあった。

 社長はその中の「かっこいいかも」と「ダンディーだね」というコメントを指さしている。

「へえ~すごいですね」

 颯太はそう口にしたが有希は不満げだ。  

「颯太。無理して褒めなくて良いぞ。こいつを甘やかさないでくれ。さらに調子に乗られたらたまったもんじゃない」

「まぁまぁ、お母さん。でも世間に注目されるって意味では良いインタビューだったんじゃないかな。まあ、隣を歩きたくないけど」

「言い過ぎだぞ! お前ら! ちょっとは加減してくれ」


 きつい女性陣の言葉に颯太は少し噴き出してしまった。その後も家族三人のやり取りを暖かい目で見守っている。

(この人たち、ほんと仲良いよな。この家族を見ているのは好きだな……。みんな変だけど。みんな好きだ。ちょっとは貢献できたのなら良かった)


「ああそうだ。颯太! 今日は夜打ち上げだぞ! とんでもなくうまい肉を食べさせてやるからな。六時に八王子駅の南口に集合な」

 穏やかな気持ちで家族のやり取りを眺めていると思い出したように社長が口にした。

「えっ? 今日打ち上げやるんですか? 明日月曜ですよ」

 あまりに急な話に、颯太は驚いた。

「こんなめでたいことがあった後に打ち上げしないなんてありえないだろ! 安心しろ明日と明後日は臨時休暇にする。気兼ねなく楽しもう!」

「臨時休暇? まじすか! ありがとうございます!」

「うちは給料は少ないがブラック企業にはしたくないからな。休むときは休もう」

 颯太の喜ぶ顔を見て、有希も微笑みながらそう口にした

 社長は普段かなり頼りないがこういう豪快なところが颯太は好きだった。


 ヴァルチャーの三人は昼前には帰って行った。

 颯太も医者の許可を得るとスキルを使って自宅まで帰った。


 みずきのおかげで身体は元気だったが、昨日の救助で心労がたまっていたため、午後はゆっくりと休むことにした。みずきが作り置きしてくれた酢豚がとてもおいしくて颯太は驚くと共に、みずきに感謝するのであった。


 日が沈み始めた頃に家を出て、八王子の南口に行くと、そこにはバルチャーの三人の他になんとみずきも立っていた。颯太は息をのんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る