幕間:テオとテルマ

テオとテルマ

 従弟のアークは、リン婆ちゃんを探しに旅に出てしまった。とは言っても、アメリア伯母さんとの約束で、半年に一度位は帰ってくることになっている。

けれども、いつでも近くにいて、いつでも話が出来る今までの生活は無くなってしまった。


 この家で従弟のアークとリリス、双子のテルマと俺は一緒に育った。少し年の離れた妹のミミもいる。

 俺とテルマは成人まであと4年。アークはリン婆ちゃんを探しに行くことを選んだけど、リン婆ちゃんが見つかったらこの家に戻ってきて、また一緒に暮らすのだろうか。

 父さんと爺ちゃんでやっている薬草畑は、俺達で引き継ぐのだろうか、それとも俺とテルマは家を出て、別々の場所に働きに出るのだろうか。アークが家を出てしまって、先のことを自分で決めなければいけないことに気づき、なんだか焦りを感じている。

 未来は不安でいっぱいだ。

 今はリリスと3人で麓の街の学校に通っているけど、その先はなにも決まっていない。

 決まっていないから分からないのに、わからないまま、なにかを決めなければいけないという。本当にどうしたら良いかが分からない。


「今日の授業面白かったな」

「な!火は燃えるのが普通で、消すのは水を掛けるのが当たり前で、どうしたら燃えるのかなんて考えたことなかったよ」

「あの、燃え始めに『ふ~』って息を吹きかけるの、なんとなくやってたけど意味があったって、すごいよな」

 とりあえず、学校は楽しい。知っていた事と、知らなかった事がどんどん繋がってひらけていく感じが好きだ。


「アークが前に『焚火の後始末の水を用意するのが大変』って言ってたやつ、空気を遮断すると消えるってってことは、水を掛けなくても消えるってことだよな?」

「鍋を被せたらいいんじゃないか。…あ、でも重くて持ち運びには不向きだ」

「そもそも焚火の時は鍋でなにか煮てるから、なんか違うよな」

「なんかこう空気を通さない布を被せるってどうだろう」

「布!いいじゃん。軽いし、あ、でも布って燃えるじゃん」

「ふふっ。燃えない布ってすごいわね、でも守衛団の人たちは防水布というのを使っているって言っていたわ。水を通さない布があるなら、同じように布に燃えない何かを擦りつけるとか、それとも燃えない糸で編む?燃えない糸ってあるのかしら」

 隣で笑いながら聞いていたリリスも話に入ってくる。


「いろいろ考えるの楽しいな、アークが昔、話してた水車や動力のある船も見てみたいな」

「薬草畑のためにもどんどん便利なものを作りたいな」

「俺、もっと勉強したい。テオと一緒にいっぱいなにか作りたい。今の学校に通い終わってもその上にまた学校があるんだろ?一緒に行こう」

「いいね!行こう」


 アークは俺達と同じ年頃の頃にも、一度、爺ちゃんと二人でリン婆ちゃんを探しに旅に出たことがあった。

 リン婆ちゃんは見つけられなかったけど、アークは興奮して旅の話をいっぱいしてくれた。知らない事がいっぱいで、ワクワクしながら聞いた。


 リン婆ちゃんには早く帰って来て欲しいと思う。俺もテルマも家族も皆は行ける範囲はあちこち探して歩いている。

 でもアークのように手がかりがないのに、どこまでも探しにいける勇気はない、きっとテルマも同じだと思う。

 やっぱり俺はどうしたら良いのかわからない。

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