前章3:雨降り竜の母
美人は目が合うとにっこり笑って駆け寄って来た、そして私をぎゅっとした後、持ち上げられた。
「私は陽だまり竜のアナンタ。よろしくね」
急な竜の来訪、急な抱擁!
心の準備ができていないアタフタした私の様子を勘違いしたのか、彼女は人化を解いて再度同じ挨拶をしてくれた。
竜の姿の彼女はつるっと不思議な色の鱗で、お日様の光がキラキラ反射していろんな色を作る。
お連れの麗人はシェーヴァと名乗り、彼も人化を解いてくれた。白い大きな虎だった。
二人は200年を超える番で、シェーヴァの一族の白い虎たちと放浪の旅をしていると言った。
虎達が定住できそうな土地があれば定住し、しばらくすると移動する者たちが出てくるのでまた一緒に旅をする暮らしをしていてた。
今回の旅の途中でオアシスを見つけ、竜の気配がしたから会いにきてくれたらしい。
私も一通り挨拶をする。
「来てくれて嬉しいです。ここは番を持たない竜も安全に過ごせるように創ったのですが、長い間竜の方は誰も来てくれなくて、初めてのお客さんなんです」
私は、他の竜が来るのを長い間待っていた。創りたかったのは番がいなくても長く生きられる『竜の楽園』だ。
オアシスとなった泉は、みんなが癒されるように心を込めた雨だ。
でもなぜか竜が訪れることは今までに一度もなかった。
アナンタはシェーヴァと目を合わせ、言い辛そうに
「この辺りは竜の気配が強すぎ…」
と話し出そうとしたが、言い終わらないうちに「ああっ!!」と声がでてしまって瞬時に理解した、というか知っていた、なのになぜか失念していた。
縄張り争いを嫌う竜は、他の竜の気配が強いこの場所へは来るはずがない。この楽園は私が力を込めた雨で成り立っていて私の気配が満ちている。
我ながらマヌケだ。少しがっかりして青くなったけど、もう笑うしかない。
私の『竜の楽園』は他の竜は訪れることのない私だけの楽園だった。
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