前章4:雨降り竜の母

 アナンタ、シェーヴァと仲良くなり、二人は旅の途中にここに寄ってくれるようになった。

 2~3日休んでくこともあれば、数年間滞在してくれることもあった。


 シェーヴァは旅の途中の危なかった話や、人間は楽しいだけではなく怖い事も起こるから気を付けなければいけないことなどを教えてくれた。

 アナンタは旅先のいろいろな国の話をしてくれた、人がいる所は賑やかで楽しいこと、砂漠は陽だまり竜にとっては大好きな土地だけど、たまにはお水が飲みたくなること、それから人型への化け方も教えてくれた。


 人型になった私の髪型は、増々のモジャモジャでピンク色だったので二人にお腹をかかえて大笑いされた。

 3人でたまにオアシスの小隊に混ざったりして夜を過ごした。歌ったり踊ったりしながら揺れる私のアフロは大好評で、楽しい精気を頂きながら過ごした。


 それから、ここに何頭か定住してくれた虎達もいて、私のことを襲わない白いモフモフはとてもかわいくて、二人が訪ねて来ない日も寂しくなくなった。


 そうして二人と仲良くなって100年は過ぎた頃、月の綺麗な夜にアナンタはぽつりと話し出した。

「私たちは300年一緒にいるけど子供が出来ない。でもシェーヴァの姉上の子供や孫、その子孫達がどんどん成長して一緒に旅ができて愛おしい日々だ」

 虎の子の首元を優しく撫でながら言った。

 アナンタはいつもは凛としているけど喜怒哀楽が分かりやすい。でも、今は笑っているけど少し悲しそうに見えた。


 私にできることは雨を降らせることだけだ。

 その日から降らせる雨は、アナンタとシェーヴァの幸せを祈る気持ちで降らせた。

 他の竜はどうせ来ることがないので個人的感情だけを込めての雨を降らせた。


 そんな感じで長い間楽園生活を楽しんだ。

 番のいない身としては十分長生きできて満足できる暮らしだった。


 でも、ある日夢を見てしまった。


 見たことのない雨降り竜。キラキラした鱗がキレイでお花みたい。

 私の隣にいる小さい竜、なんだろうとても愛おしい。

 その子にすりすり頭を押し付けてみると邪魔そうに手で押しやられた。

 それを見て、お花みたいな竜が笑ってる。3頭で寄り添うと、とても暖かくて幸せな空間だった。


 自分がそんな願望を持っていたことにびっくりして、起きて笑ってしまった。


 それから、その日見た夢のことがずっと忘れられなかった。


 夢で知ってしまった幸せな気持ちは日に日に大きくなって苦しくなってきた。

 アナンタの少しだけ悲しそうな顔はそんな気持ちだったのだろうか…

 あの子に会いたい。もしかしたら可能性があるかもしれない。

 ここで一人で100年以上過ごした私の力はそんなに残ってない。

 ここを出たら精気を補充できるかわからないし、すぐに死ぬかもしれない…でも、もしかしたら会えるかもしれない、会えないかもしれない…でも会いたいな。私の娘リンに。




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