幕間:アメリア

幕間1:アメリア

 私の名前はアメリア。


 陽気な父サニーとおっとりとした母ミスティ、4つ下の弟のアルヴァ、それから母の兄のイーサ伯父さんとそのお嫁さんのリンが私の家族だ。みんなで薬草や野菜を育てながら山の上の小さな小屋で暮らしている。


 山に暮らしているのは私達家族だけなので、人には滅多に会えないけれど、薬師をしている父とイーサが街に薬草を卸したり調合もしているので、街の人たちとも仲良くやっている。


 母は畑を手伝い、洗濯をして繕いものをしてくれる。

 リンは皆を手伝い、スープを作り、私と弟と一緒に遊んでくれる。歌も上手だ。

 そして彼女はすごい。

 雨を自在に降らせることができる『雨降り竜』という竜だ。


 竜のリンは猫位の大きさで、すべすべで色々な色に輝く宝石みたいな青い鱗が少し冷たくて不思議な感じ。

 昼は人の姿で過ごして夜になると竜の姿に戻り、私やアルヴァと一緒に寝てくれるけど、朝起きると裸の女の人になっていてびっくりするけど今はもうすっかり慣れっこだ。


 それで人間の姿はすごく可愛い。肌は透き通るようですべすべ、ふわふわした長めの髪は晴れた日の水面みたい、瞳には雨の日の夜の森のような青が浮かんでる。

 私も家族も茶系の髪に少し陽に焼けた肌の平凡な風体なので、なんだか一層浮き立っている。


 それにリンは可愛いだけじゃない。

 目が合うと慈しむように微笑んでくれる。たぶん私のことが好きなんだと思う。

 そのことがとても嬉しいし、私もリンが大好きだ。



「ここに住み始めたころはこんな暮らしができるとは思わなかったわ」

 と母さんはよく話す。

 少し前は雨が滅多に降らなかったから、乾燥に強い薬草や少しの野菜しか育てられなかったし、沼まで水を汲みに行くのも重労働で、夜は外に布をかけて夜露を集めてそれを掃除や洗濯に使っていた。飲み水は少し湧いていたけど、スープは贅沢な食事だったらしい。

「リンが来て3人で賑やかな生活になり、雨を降らせてもらって、畑の作物もどんどん育って安心して暮らせるようになった」と。



 ある日リンと手を繋いで歩いていたら不意に思ってしまった。

 この美少女が竜と知られてしまったら?

 竜は貴重な薬やまじないの素材になると聞いたことがある。それに雨を降らせることが出来るなんて知られたら、悪い人に攫われて雨の少ない国に連れていかれてしまうかもしれない。

 もし、急に怖い人が来たら、父さんはきっと笑顔で穏便にその場を治めようとして真っ先にやられてしまうだろう。イーサは私たちを守って逃がそうとして、やっぱりやられてしまうのではないか。そしたらリンは……私達は……怖い。

 唐突にそんな情景が浮かんでしまって血の気が引いた。


 弟のアルヴァは男の子だ。今から体を鍛えてたら成長して武術の達人になれるかもしれない…と思ったけどダメだ、アルヴァはまだ4つでかわいい、黒髪でくりくりの天使だ!私が守らなきゃ!!

 思って気づいた。私が皆を守れるだけ強くなればいいのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る