アリョーシャのお願い

「ねぇ、ミルヒ、アークも、お願いがあるのだけど、私達と会ったことは誰にも言わないで」

「もちろん、誰にも言いません。でも、どうしようもなくなった時、またここに来ては駄目でしょうか」


「すまない、もうここには来ないで欲しい」

僕の願いはマナシから、きっぱりと断られた。


「もしまた来るようなら、私はマナシに頼んで霧をたくさん濃くしてもらうわ。だから駄目よ」

 アリョーシャからも同じように拒絶され、頷きたくないが、頷くしかなかった。


「それと、その花がここへの道しるべになると困るんだ」

「え?」

「花を処分して欲しい。恐らく、願うだけで簡単に枯らせるだろう」

「え??」

「その花は我々と同じで、気を糧にしている。君が心から『枯れろ』と念じればその花は枯れるだろう」

 マナシとアリョーシャが真剣な顔で懇願こんがんしてくる。


「お願い、アーク。私みたいに軽い気持ちでここに来られて、迷い込んだり、行方不明になられても困るわ」


「……分かりました、やってみます」

 本心から『枯れろ』と思ったわけではなかったが、言葉にしただけで紫の花は少し音を立てくずれていった。

 

あまりにもあっけなく枯れる紫の花と同じように、アリョーシャ達との繋がりも無くなってしまうことを予感して、心がずきずきと痛んだ。

 ミルヒ先生も悲しげな顔をしている。


「アリョーシャ。もう会えないのかしら」

「分からないわ。でも、またあなたに会えて良かった」

二人は両手でぎゅっと手を握り合う。

「心配しないで。今もこれからも、ちゃんと幸せだから大丈夫よ」

 そして、離れがたいようにゆっくり手を離した。


「アーク。ミルヒを連れて来てくれたこと、感謝するわ。もし……もしもよ。探しているリンが見つかったら、一緒にここへ連れて来ていいわよ。その時には歓迎するわ」



 二人と別れて、ミルヒ先生と無言で山を下った。

 ずっと霧の中にいたので、時間がどの位経っているのかわからなかったが、霧を抜けると夕暮れ時の柔らかな光が目に差し込んだ。


「今日はなんだか、夢みたいな事が起こって、とても他の人に話せないわね」

「そうですね、ミルヒ先生。口止めもされてますしね」

「あの子に会えて、嬉しかったはずなのよ。でも今はまた悲しくなってしまったわ」

「そうですね。僕も大事な事を聞けて良かったはずなんです。でもなんだか気持ちが重いです。それと、学園の仕事なんですが……」

「分かっているわアーク。砂漠に行くのね。行けるように準備をしないといけないわね。でも、その前に今日はあなた達の家で夕飯をご馳走になっていこうかしら」


 丁度テオとテルマが小屋の前に出てきて、心配そうに出迎えてくれた。


「アーク、どうだった?」

 リンに繋がりそうな次の行先の手がかりが出来たこと、近いうちに砂漠に行くことを報告した。

 夕食はミルヒ先生の荷物に入っていた残りの食材が豪勢にふるまわれた。

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