霧の中で 続

「さぁ、ワタクシの話は一旦終わったわ。話し込んでごめんなさいね。もともとはアークがあなたに会いに来たのよ。話を聞いてあげてちょうだい」

 視線がこちらに集まる。


「そうだったわね。私も今日は、あなたと約束したから来たのよ」

 アリョーシャも改めてこちらの方に向き直した。


「あの、先ほどの話からして、この先にはあなた達の里があるのですか?」

「そこは話すつもりはないわ」

 先程はミルヒ先生と親しく会話していたアリョーシャは、また素っ気ない態度になってしまった。

 でも、今は聞きたいことを遠慮してはいられない。


「その場所は竜がいるのではないのですか」


「話さないって言っているじゃない。余計な詮索しないで!この辺りには、あなたの探している名前の竜はいなかったわ。今日はそのことを伝えに来たのよ」

 

言葉は冷たいが、アリョーシャはあれから本当に調べてくれていたらしく、知っていることを話してくれた。


「あなたの探しているリンはつがいがいるでしょ?番の竜は縄張りの気配は無いから探し辛いのだけど、この辺りには他の竜の気配は無かった。あなたと会った時に、その紫の花が仲間の気配かと思ったの。この辺りの気配はそれくらいだわ」


「雨を降らせる竜を探してどうする?」


 今までほとんど黙っていたマナシが唐突に口を開いた。

「水に困って、雨を降らせるために捕まえるのか?」


「違います!そんなことはしません。家族なんです。ずっと探していて、ここに手がかりがあったと思ったんです」

 

アリョーシャとマナシに会うことが出来て、リンに少しでも繋がるかと思ったのに、ここで途切れてしまうのか……。

 敵対したり、危険視されたくは無かった。でも、僕は二人からしてみたら、ただ警戒すべき人物なのだろう。


「詮索したり、危害を加えたいわけではないんです……」


「分かっている、一応聞いたまでだ。泣かないでくれ、こちらまで心が痛い」

「なっ泣いていません」

「最初に君とアリョーシャと会った時、私も側にいたんだ。その時、アリョーシャも君が泣いてたから力になりたいと言っていたよ」

 

 その時も泣いていた記憶はないが、アリョーシャの方をみるとなんだかおかしな表情で、ぎゅっと閉じていた口が少し開いた。

「ああっもう。私は、いじわるしているわけではないのよ。あんたがしょぼくれてまた泣くから、特別にもう一つだけ教えるわ」

 しょうがないわねと言いながら矢継ぎ早に話し始めた。


「昔、砂漠に行くと言って旅立っていた竜が一頭いたわ。雨を降らせることのできる竜よ」

「え?昔ってどのくらいですか?」

「二百年位前かしら」

「そんな昔のことを知ってるんですか?なにか記録でもあるのでしょうか」

「ちょっと!!、詮索しないでって言ってるじゃない」

「あ、すみません」

「その子は珍しい桃色の体で、少し変わった子だったという話よ。その竜は番を見つけて親竜の元に戻っては来なかったから、縄張りでひっそり暮らしているか、放浪しているか、既に力尽きている場合もあるけど、あなたの探している竜の親竜や兄弟だったりする可能性はないかしら」

 

アリョーシャは枝で地面に簡単に地図のようなものを書き記してくれた。

「砂漠の真ん中に行くと言っていたわ」

現在地と思われる点からざっと斜めに線を引く

「ありがとうございます」

  閉じていた道が、辛うじて少しだけ次につながった気がする。


「竜に会いたい気持ちも、家族に会えない寂しさも少しわかるわ」

  そう言うアリョーシャの頭をマナシが少し悲し気に撫でた。

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