廃村

 次の日の朝、ペータとポータに山を案内してもらった。

 ヤギ達が見つけた、ちょっとした水場をいくつか案内してもらい、水を汲み、おしゃべりしながら木陰を進んだ。

 二人が日中ヤギと過ごす場所は、下草が豊富で広くて気持ち良い場所だった。

 

 そこから先への道としてペータが差し示す方向は、次第に木が少なくなっていき、景色は緑から茶色に変わり別の世界に入り込んだかのようだった。

 足元はサラサラで崩れやすく、昔使われていたという道は茶色くなった草が生い茂っていた。辛うじて判別しながら進み、岩だらけの山頂にたどり着いた時にはもう陽は暮れかかっていた。

 来た方向を振り返るとサキさんとペータ達の家の方向は緑がいっぱいで、静かな碧い空気の中、世界はとした闇に沈んでいくようだった。

 改めて前の方を向くと、燃え上がるような夕焼けが空を彩り、見渡す限りの砂が一面に広がっていて、まるで世界が二分されたような風景だった。


「爺ちゃん、この山は世界の境界線なのかな」

「初めて見たけど、砂漠というやつだな。それとも夕日で地面が赤く見えているだけなのか。お、あそこがサキさんの話してた村じゃないかな。急ごう」

 前方、中腹に他の場所より少しだけ木が生えている場所があった。家屋があるように見えないこともない。急ぎ足で向かったが、到着した時には完全に闇の中だった。


「なんだか静かだな、なにも鳴き声がしない」

「うん。焚火にも虫が集まって来ないね」

 薪は前回の野宿の時に作って乾かしておいたので、今回は手早く準備ができた。

 乾燥肉と野菜をお湯で戻しただけのスープを用意し、腰を下ろした。

 この辺りは燃えるものは少ないけど、水の用意が無いからすぐ消せるように砂をかき集める。

「僕、次に旅に出る時はスコップを荷物に入れるよ、火を消す砂を集めるの大変だよね。それに用を足したあとは埋めたいよね」

「そうだな、それと夜露で地面が濡れるから、マントだけじゃなくて防水布を敷いた方がいいな。雨が降った日の野宿も考えないといけなかったな」

「ズボンの替えも荷物に入れるよ。この間洗濯している時、履くものが無かったんだ」

 今回の旅は、ここが目的地で折り返し地点になるだろう。旅の反省点などを語っていたらいつの間にか寝てしまった。爺ちゃんは、起きて火の番をしていた。

 もうすぐ夜があけそうな頃合いだったので少しの時間だけ交代して寝てもらった。


 朝ごはんを用意していたら爺ちゃんは目を覚ました。


「すまん、こんなに寝るつもりは無かったんだが、思ったより良く寝てしまった、大丈夫だったか?」

「おはよう。大丈夫だったよ。すごく静かでやっぱり動物の気配が無かった」

「砂漠はそういうものなのかもしれないな、帰ったら調べてみよう」


 スープを飲んでいると徐々に明るくなってきた。


「リンも他の竜も見当たらないね」

「サキさんが話してた竜は、何十年か昔の話だから別の竜の話だろうな…」

「大きい竜って言ってたよね、リンは小さいし」

 周囲を一回りすると、朽ち果てた家々から少し離れた場所にサキさんの家にあったのと同じ紫色の花が群生していた。


 近寄ってみると大きい石があった。なにか彫ってある。

「…シン…リュウ ム…ラビト クギ… サ…キ。えっ!サキさんのお墓?」

「神竜様への供犠された人の石碑…だな、日付も入ってる。でもサキさんの名前しかない、生贄はサキさん一人で終わったのか」

「でも村は無くなってるよ。雨は降ったはずなのに…」

 お墓と呼ぶにはボロボロで、破壊されたかのように割れていた。

 一面に咲き誇る紫の花を見ていても、他にはなにもわからなかった。


「この花、サキさんの家にあったのよりなにかを強く感じる。これって、竜の気配なのかな。少し持って帰っても良いかな」

「コハクに聞いたらなにかわかるかもしれないし、貰って行こう」

「サキさん、このお花をお茶に入れてくれたよね。食用で薬草に近いものなのかな」

「帰って、家の畑で育てられるかもしれない。帰りに寄ってサキさんに聞いてみよう」


 ナイフで茎を刈っていたらなにかキラっと光りが見えた。

「爺ちゃん、これっ」

 親指より少し大きいくらいの鈍く曇った鉄みたいだ。軽い。

「お、なんだこれ。…もしかして鱗か」

「似てるよね」

 リンの鱗みたいにツヤツヤでなないけど、似ている気がした。

 角度によっていろんな色がうごめいてなんだか目が離せない。

 この鱗のようなものは3枚見つかった。


「これ、見た目は鱗っぽいけど、竜の気配みたいな感じはしないんだ、花は気配がするのにどうしてかな。鱗の方が気配がしそうなものだけど…」

「そうなのか、私には気配とかわからないけど、なにが手がかりになるかわからない。大事にしまっておきなさい」

「うん、わかった」

 無くさないように大事に腹巻財布にしまい込んだ。

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