紫の花

 ここではリンは見つからなかった。

 この紫色の花と竜に会ったことがあるサキさんの存在は、少しでも手がかりになるだろうか。リンに繋がる道筋がまったく見えない。


「リン、いなかったね」

「そうしょげないで、思いがけないところで見つかるかもしれないし、帰り道でも情報があるかもしれない」

 涙ぐんでしまった僕の肩を爺ちゃんはぎゅっと引き寄せた。


 来た道を戻り、途中で一晩過ごしてから降りていくと放牧中のペータと会った。

「おはよう。ペータ」

「おはようアーク。用事は済んだの?」

「少しだけだけど、手がかりになるものがあったから用事はこれで終わり。明日はペータの家に寄ってチーズ作りを手伝うよ」

「わかった。俺達は夕方までここでヤギと過ごすから、帰りは一緒に家に行こう」

「それまで僕達はサキさんとお話してるね」

「あとで迎えに行く」


 赤い屋根の家の前を通ると、サキさんは庭に出ていて「おかえり」と出迎えてくれて、なんだかホッとしてしまった。


「サキさんこれ」

「なぁに?綺麗ね」

「竜の鱗だと思うんですけど、三つ見つけたので、一つどうぞ」

「ええっ。それってすごい力を持っていたり、とんでもなく高価に取引されていて希少なものとかじゃないのかしら」

 周りには誰もいないのに、サキさんは声のトーンを一つ落としてヒソヒソと話す。


「竜の気配は感じないので勘違いかもしれないのですが、リンの鱗に見た目が近いので、やっぱり鱗だと思うんです」

「すごい力とか籠ってたら貰えないから、勘違い位が丁度いいわ。命を助けてくれた神竜様のものだと思うと嬉しいわ。それにものすごく綺麗。ありがとう」

 サキさんは鱗をぎゅっと胸元で握り締めて笑った。


 それから爺ちゃんが廃村の状況を説明して、紫の花の事をいろいろ聞いた。

「この花は昔から故郷の村で栽培されていたものなんでしょうか」

「村が無くなってと聞いて、後で主人と訪れた時に初めて見つけたわ。神竜様がいつも過ごしていた辺りに咲いていたから、神竜様がいなくなったかわりにこの花が生えたと思って持って帰ったの」


「やっぱり竜と無関係ではないかもしれません。今はまだわからないことだらけなので帰って調べてみます。それはとは別にこの花の使い方が気になるのですが教えて頂けますか、お茶の他に食用として使われたりもするのですか」

「そうね、そのまま食べるのは向かなかったわ。色どりはとてもかわいいけど、生で美味しいかどうかは微妙ね。あ、良いものがあるわよ」

 サキさんは家の中から持ってきたものをテーブルに広げた。


「花嫁さんがかぶるやつですよね」

 一番目についたのは輪になった花冠だ。

「それは良い香りだし見栄えはするけど、あまり使い道がなかったわ。飾りとして家の中に飾るくらいね、それよりコレね、石鹸や蝋燭に混ぜるとすごく良い香りがするの。鱗のお礼に一つずつあげるわ。結構人気商品だから使ってみてね」

「もったいなくて使えそうにないです」


 すごくいろいろ使える上に良い匂いでかわいい、竜のことは関係なく商売に使えそうで良いお花だった。

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